[糸井]
打つときに大切なのが、ふだんの自分を貫くための我慢だとすると、ピッチャーに対して精神的な部分で負けてたらヒットなんて出ないですね。
[田口]
出ないですね。
[糸井]
とはいえ、メジャーリーグですから、世界的なピッチャーと対戦することになりますよね。
恐ろしさを感じることはないですか。
対戦するまえから、負けちゃうような。
[田口]
いや、負けることはないですね。
だいたいバッターボックスに立って‥‥うん、そういうことはないですね。
[糸井]
ああ、それはやっぱりプロの発言ですねぇ。
[田口]
すくなくとも、ぼくにはないですね。
「どこからでも」っていう感じです。
[糸井]
じゃないと、やってこられないんですね。
[田口]
打席に入るときは必ずプランがあるんです。
あとは、そのプランに対してきちっと沿っていけるかっていうだけのことで、つまり、どこまで我慢できるかっていう勝負。
やっぱり、自分との勝負なんですよ。
我慢ができれば打てるし、我慢できなければ打てない。
[糸井]
我慢。
[田口]
はい。
[糸井]
その、プランというのは、相手によって変わるようなものですか。
それとも、相手とは関係なく、自分が守るべき課題のようなもの?
[田口]
相手によってプランがあります。
ですから、まあ、誰だろう、たとえば、有名なピッチャーで‥‥誰がいいですかね?
[糸井]
ええと、そうですね、いま、パッと浮かんだのがクレメンスという名前ですが‥‥。
[田口]
ああ、クレメンス。
実際、対戦しましたけど、やっぱり、まずプランがあるんですね。
[糸井]
それは、具体的にクレメンス用の?
[田口]
そうです。
「クレメンスと対戦するときは」
っていうプランがちゃんとあって。
[糸井]
おもしろいなぁ(笑)。
[田口]
具体的にいうと、クレメンスと対戦するときはスライダーを待つんです。
真っ直ぐはファウルでいい。
[糸井]
はーーー。それは、資料を見て?
[田口]
そうですね。ビデオを観ると、1打席に1回はスライダーが来る、と。
で、彼のまっすぐというのはクセがあって、ちょっとシュートしたり、カット気味に切れていったりするんです。
それを両サイドに投げ分けられるんですね。
これほどやっかいなものはないんですよ。
それだけで4つ球種があるようなものですから。
[糸井]
はい、はい。
[田口]
だから、まっすぐを狙っていったら、たぶんぼくは打てんやろ、と思ったので、クレメンスが投げるボールのなかでいちばん軌道の安定するスライダーを打つのがベストだろうと。
[糸井]
なるほど、なるほど。
[田口]
だから、まっすぐはファウルでいい。
[糸井]
あとは、スライダーをいつ投げてくるかというのを読んで‥‥。
[田口]
いえ、いつ投げてくるかを読むんじゃなくて、ひたすらスライダーを待つんです。
[糸井]
あ、ずっとスライダーだけを。
[田口]
はい。スライダーだけ。
ただ、それが相手にばれると、スライダーは投げてきません。
まっすぐだけで勝負しよう、ということになる。
[糸井]
そうですね。
[田口]
だから、スライダーだけを待ってるんだけど、スライダーを待ってることがばれちゃいけないんです。
どうするかというと、
「まっすぐをいい感じでファウルする」。
[糸井]
あああ、なるほど。
[田口]
まっすぐを待ってるタイミングでバッターボックスに立って、まっすぐが来たらファウルする。
でも狙いはスライダー。
というふうに、なんとかファウルで粘れたら、勝負になるかな、というのがクレメンスと対戦するときのぼくの最初のプランだったんです。
[糸井]
はーーー。
狙い球をスライダーにするという単純な話じゃなくて、まっすぐを、いかにファウルにするか、というところの勝負なんですね。
[田口]
はい。それも、カットするわけじゃなく、いい感じでファウルにする。
そうしないと、スライダーが来ないんです。
[糸井]
我慢。
[田口]
はい。我慢です。いかに、まっすぐを待ってるかのように見せかけるか。
そう見せかけておいて、フィニッシュにスライダーを投げてきたところをコトンと合わせるんです。
それが最初の勝負だったんです。
[糸井]
楽しそう、というと失礼ですが、むっちゃくちゃおもしろいでしょうね。
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