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第6回 出さなかった禁煙日記。
[永田]
さて、じゃあ、まとめとして、いま、タバコをやめようとしている人に伝えるとしたら、どんなことを?
[糸井]
まずは、ニコチンという黒幕ですね。
禁煙は難しいんじゃなくて、あなたに難しいって思わせてるのがニコチンなんだってことです。
[永田]
うん。
[糸井]
あとは、禁煙を、漠然と「難しい」で済ませるんじゃなくて、具体的なこととしてつかんでいくべきですよね。
たとえば、肺が真っ黒になるとか、癌になるっていうことが、ひょっとしたら、健康に毎日を過ごしている人にはピンとこないかもしれない。
でも、要するにそれは、空気と肺の細胞の接地面積が小さくなってるってことでしょう。
それは、おそらく、息苦しい。
そういうことがイメージできたほうが、禁煙にかぎらず、毎日のいろんなことがうまくいくでしょうね。
[永田]
なるほど。
[糸井]
禁煙ができると、コントロールがよくなります。
いわば、人生の制球力がよくなります。
生きるコントロールがよくなる。
コントロールがよくなると、歳をとって球速が落ちてきてもちゃんと試合をつくれるようになります。
ただ、コントロールだけに気をつけてると、だんだんいい子になっちゃう自分が、たまに、ちょっとさみしくなるんだよ。
[永田]
うん、うん(笑)。
[糸井]
そこにできる隙間みたいなものをなに埋めるかなっていうのが、またちょっとおもしろいところでね。
たとえば、歌だったり、森だったり。
[永田]
食べ物だったり。
[糸井]
旅だったり。
[永田]
犬だったり。
[糸井]
そう(笑)。
「オレには、そういうものは要らないよ」
って言う人だっていると思うよ。
「タバコ吸ってれば、ぜんぶ済むから」ってね。
それはもう、しょうがないっていうか、それでいいなら、いいと思う。
[永田]
でも、タバコをやめたぶんだけ、なにか新しいものが自分の世界に入ってくると思うと、いいですよね。
タバコ代の440円が浮く、っていうだけじゃなくて。
[糸井]
そうだね。
[永田]
あらためて訊きますけど、糸井さんは、禁煙できたんですよね。
[糸井]
‥‥‥‥さぁて。
[永田]
(笑)
[糸井]
よくさ、しばらく禁煙して、
「もういつでもやめられますから」って言いながら、やめた人としてときどき吸う人がいるでしょ?
[永田]
ああ、はい(笑)。
[糸井]
あれは、やめられてないと思うんだ。
[永田]
そうですね。
[糸井]
だからダメだとは言わないんだけど、少なくとも、ちょっとウソがあるよね。
だから、なんだろうなぁ、自分が基本的にだらしない人間であるっていう注釈は100パーセントつけておきたいんだけど、それでも、信用できる人だと言われる人でありたいと思うんです。
[永田]
うん。
[糸井]
そういうことを、すごく正直にことばにするとしたら、いま、ぼくは、吸わずにいられるっていう状況にいる、っていうぐらいなのかなぁ。
[永田]
はい。
[糸井]
ちなみに、いままで言ったことを台無しにするようで愉快なんだけど、この7年のあいだに、1本だけ吸ったことがあるんだよ、オレ。
[永田]
知ってます(笑)。
わざわざ報告してくれましたもんね。
なんか、どこかからひょいっと昔のタバコが出てきて。
[糸井]
そう(笑)。
で、どうなんだろうと思って。
ずっと興味があったんだよ。
その、吸いたいというわけじゃなくて、
「吸うとどうなるんだ?」って。
[永田]
そのへんが糸井さんらしいなぁ(笑)。
でも、ぜんぜんダメだったんですよね。
[糸井]
そう、気持ち悪くなった(笑)。
ひと口ふた口吸って、すぐ消した。
あの1回は、ある意味で、その後の励みにさえ、なってますね。
吸ってもあれだよ、って思えるから。
[永田]
でも、糸井さんから
「ちょっと吸ってみたんだよ」
って聞いたときはひっくり返るかと思いましたよ(笑)。
[糸井]
ははははは。
永田くんは、きっともう吸わないね。
[永田]
そうですね。
なんていうか、たぶん、好きだったタバコを、面倒くさいからやめたんだと思うし、これからも吸わないだろうと思うのは、もうあんな面倒くさいことは経験したくないっていうのが正直な気持ちです。
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