2011.04.08
機械による刺しゅうは汚い?!「ほぼ日のクロスステッチ」の製作舞台裏対談。(1/3)
ほぼにちわ、です。
本日は、クロスステッチデザイナー大図まことさんによる
「ほぼ日のクロスステッチ」を生産してくださった
刺しゅう会社、株式会社ラカムのデザイナー、
酒井芳則さんにお話をお伺いいたしました。
もちろん大図さんもいっしょです。
クロスステッチにかわいらしくデフォルメされた
ミッキーとミニー。
でも、その製作の裏側には
かわいらしさとは裏腹な涙と苦労が詰まっていました‥‥。
それでは、大図さん、酒井さんよろしくお願いいたします!
**********
[ ほぼ日 ]
今回の「ほぼ日のクロスステッチ」は
ラカムさんの「ムカラ刺しゅう」という
特殊な方式で作られているそうですが、
そもそもこのムカラ刺しゅうというのは
どういうものなのですか?
ラカム
酒井
(以下酒井)
カンタンに言ってしまえば、
アイロンプリントで
貼りつけることができる刺しゅうですね。
「ほぼ日のクロスステッチ」の場合は、
アイロンプリントではなく、シールになってますが、
根本的な部分は変わりません。
[ ほぼ日 ]
これはラカムさんが開発したものなんですか?
[ 酒井 ]
そうです。
15年くらい前に開発が始まって、
5年くらいで運用開始となりました。
もともとラカムは、アパレルブランドの
刺しゅうをたくさん手がけてきたんです。
[ ほぼ日 ]
はい。
[ 酒井 ]
ムカラ刺しゅうができる前の仕事は、
各ブランドから生地が納品されないと
刺しゅうが施せないのですが、
各ブランドとも生産の時期が同じなので
生地の納品のタイミングが重なってしまうのです。
[ ほぼ日 ]
ファッション業界は、
春夏、秋冬コレクションみたいに
時期の足並みが揃ってますもんね。
[ 酒井 ]
で、一斉にオファーが来るものだから、
どうしてもその時期はオーバーフロウになり、
納期でご迷惑をおかけしていました。
また、逆に、そういう時期が過ぎれば
工場のラインは止まってしまうわけです。
つまり、年2回の大忙しの時期以外は
さほど忙しくなかったんですよ。
[ ほぼ日 ]
うんうん。
[ 酒井 ]
悲しいかな、刺しゅう屋というのは
お客様から生地が納品されないと
何にもできないんです。
だから「前もって刺しゅうが用意できたら最高だね」
ということをずっと思ってましたね。
[ ほぼ日 ]
それで生み出されたのが、
このアイロンプリントを使ったムカラ刺しゅうだと。
[ 酒井 ]
そうです。
生地も何もないところから刺しゅうを作る。
だから「無から」刺しゅうなんです。
[ ほぼ日 ]
あ、そういう意味だったのか!
[ 酒井 ]
このおかげで、生地の納品を待っている間に、
前もって刺しゅうパーツを作っておき、
生地が納品されたらすぐに貼り付ける。
もしくは、縫製工場にパーツを送って
先方で貼ってもらうという流れで
作業ができるようになり、
納期も短縮できる様になりました。
ほかにも、ムカラ刺しゅうには、
刺しゅうの裏が肌に当たらないとか、
生地にシワが寄らないとか、
すでに縫い付けられているポケットの上に
刺しゅうができるなど、さまざまな利点もあります。
[ ほぼ日 ]
いいことずくめですね。
[ 酒井 ]
でも、大図さんとお会いして、
ムカラ刺しゅうで商品を作る、
ということになったときに
なかなか大図さんの希望に応えられるような
試作品が作れなかったんですよ。
[ 大図 ]
はい、その試作品を見て正直に言いました。
「このクオリティでは厳しい」と。
[ ほぼ日 ]
お、ここでやっと大図さんの登場ですね。
[ 酒井 ]
機械でクロスステッチを作る場合、
当時の作りかたでは、彼のその厳しい要求を
満たすことができなかったんです。
つづきを読む