【渡部篤郎】
わたべあつろう

[例文]
たぶんそれは4年か5年くらい前のことだ。 いや、ひょっとすると6年前かもしれない。 何年前かは定かではないが、 月日ははっきりと覚えている。 それはバレンタインデーのことだった。 あたしはダンナとテレビを観ていた。 テレビにはわたべあつろうが出ていた。 バレンタインデーに関係する、 どうでもいいような質問を受けていた。 チョコとか告白とか、 そういうどうでもいいような質問だ。 あたしはわたべあつろうが好きだったので そのどうでもいい場面を見ながら 「わたべあつろうのような夫がいいな」と ぼんやり考えたわけだが、同時に、 横にいるダンナはダンナでいまきっと 「家に帰るとRikacoみたいな妻がいたら」 などと考えているのだろうなと思った。 テレビを観ながらあたしはさらに考えた。 つまり、あたしとRikacoの較差と、 ダンナとわたべあつろうの較差が等しければ それがいちばんしあわせだと いうことになるんじゃないかしら。 実際、ふたつの較差は かなり似通っているとあたしは思った。 予定外にあたたかい気持ちになって ダンナの横顔を見ていると、彼は言った。 「おれとわたべあつろうと、 どっちがかっこいい?」 あたしは笑顔をさとられないようにして、 あほか、と言った。

そして、4年か5年か6年の月日が流れ、 わたべあつろうとRikacoは離婚してしまった。 けれど、あたしとダンナは あいかわらずいっしょにいる。 ちょっと危ない時期も何度かあったけど、 「この人とあたしとどっちが年上に見える?」 とかなんとか言いながら、 あいかわらずいっしょにいる。 もう、バレンタインデーだからって チョコをあげたりとかしないんだけど、 けっきょく、そういうのって、 わるくないっていうか、ある意味、 しあわせだといってもいいんじゃないかしら。

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