MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

傷つけたくないし傷つけられたくもない、
そうは思っていてもポロリと飛び出す大失言。
訪れる無音状態、冷た~い空気を感じた後、
ジワ~ッと滲み出る汗。
なんとか起死回生のフォローを考えようとするのだが、
頭ん中は白くなるばかり。
もう走って逃げたいよの今回、

「渡る世間は地雷原? 」

僕の本名は、小石至誠(こいし しせい)という。
これまでの人生で、同じ名前の人に会ったことがない。
相当、ユニークな命名である。
「至誠」という言葉は、
学校の校庭にあった二宮金次郎さんの銅像の
台座にあったり、
テレビ時代劇「遠山の金さん」のお白洲の場面、
モロ肌脱いだ金さんの後方の額に書かれていたりした。
意味は「至上の誠」となる(名前負け、やれやれ)。
「へぇ~、良い名前ですねぇ」
などと言われることもあるが、
電話などではあれこれ説明しないと、
絶対に分かってもらえない。
「小さい石、これが名字。
 名前は至るに誠、でシセイと読むんですが」
「はいはい、コニシ? セイジ? さん? 」
こんなことはしょっちゅうだ。
小学校時代、新しいクラスになる度に、
「じゃ、一人ひとり元気良く名前を言ってみましょう」
これが大変につらい。
「こいし、しせい、で~す」
「うん? なんだって? こいしせい? なんだ? 」
同級生たちは大笑いし、先生は出席簿を眺めつつ、
「ヘンな名前だなぁ。
 お前んとこは、ひょっとして坊さんかい? 」
とくる。
簡単な名前、例えば山田太郎だったら
どんなにか良いだろう、などと思ったりした。
今はこの名前に愛着があるし、
個性的で良かったとも思うが。

ある日のこと、仕事先のえら~い方と食事会があり、
その席で名前のことが話題になった。
僕は、
「今では至誠という名前に感謝してますよ。
 やっぱり、父親母親が一生懸命に
 考えてくれたんですから。
 一郎、二郎じゃぁ、適当過ぎますよ」
無邪気に笑った。
「うちの息子は一郎だよ」
えら~い方がポツリ。
その後、料理の味はさっぱり分からなくなった。

あるマジシャンのショーを見に行った。
これまでも数回見ていて、
マジック自体はいつもの出しものであった。
しかし、今回の彼の衣装には驚いてしまった。
なんせ、ハデハデになっていたのである。
もう、なんだか衣装ばかりが目立っていて、
肝心のマジックがまるで見えなくなっていた。
ショーが終了して表に出ると、
車がクラクションを鳴らしている。
運転席に、以前から顔見知りのえら~い先生がいた。
「久しぶりだねぇ、乗っていくかい? 」
ありがたく乗せていただきました。
高速道路はいつものごとく混んでいる。
車内で今日のショーの話題になった。
「マジックは、いつもの出来でしたよね。
 だけど、あの衣装はいけませんねぇ。
 あれじゃマジックが
 さっぱり目立たないですよねぇ」
僕は感想を述べた。
ノロノロと進んでいた車がキィと停止して、
「あの衣装、僕があげたんだよ」
外は高速道路、逃げ場はどこにもなかった。

ある劇団のライブを見にいくことになった。
友人のプロデューサー、H氏が誘ってくれたのだ。
H氏によると、若手の役者さんたちの定期公演であった。
H氏と僕は受付でうやうやしく迎えられ、
小劇場の最後列に案内された。
目の前にプロデューサーがいたのでは
役者さんたちがやりにくいだろう、
とのH氏の配慮であった。
だが席はステージの正面、役者さんたちの
息遣いが届きそうな席であった。
さていよいよ開演、若手の役者さんたちの
エネルギーが熱い。
感情を剥き出しにした、
のたうち廻るような演技が続く。
だが、いくらなんでも熱すぎないか、
もう少し抑えた演技の方が良いのでは。
だんだんと熱演が鼻についてきた。
隣のH氏の表情を伺うと、
彼も複雑な面持ちになっている。
「Hさん、どう思います? 」
僕の質問にふぅと息をして、
「完全に自己満足。
 こういう激しいのが良い芝居だと勘違いしてるんだよ。
 これじゃマスターベーションなんだけどね」
「そうですよね。熱演しながら役者さん自身が
 コーコツとなってるみたいだし」
「それとさ・・・」
結局、公演終了まで二人で
キタンのなさ過ぎる意見交換を続けてしまった。
場内が明るくなった。
やれやれと席を立とうとしてフト後ろを見ると、
公演を収録するためのビデオ・カメラが! 
しかもタリーがついたまま、
テープはまだ回っている・・・。
きっと役者さんたちの熱いセリフよりも、
僕らの文句タラタラの方が
多く大きく録音されているに違いない。更に、
「Hさん、どう思います? 」
名前までもクッキリと録音されているはず。
動揺したHプロデューサーが、
「でも、良い芝居だったなぁ」
むりむり、しかもカメラ目線・・・。
毎回H氏に送られていた公演の招待状が、
パッタリと来なくなった。

2002-07-21-SUN

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