MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

私の初めての小説
『神様の愛したマジシャン』が発売中であります。
作者たるもの気が気でなく、
近くの本屋さんを覗いたのであります。
すると、ちゃんとありました。
自身の作品を手に取りページを繰り、
私はやっと小説を書いたことを実感したのでありました。
そこで今回のお題は、

『小説家への歩み』

これまで多くのテレビ番組に出演して、
コメディ・マジックを演じてきた。
不思議なマジックも多数あったはずなのだが、
なぜか人々の印象に残ったのは、
バケツのような、大きな帽子のようなものを被せて
頭を回す『あったま・ぐるぐる』である。
実にありがたいことなのだが、
ちょいと困ってしまうこともある。

「実はですねぇ、この度、小説を書きまして」
小説の宣伝を始めると、
「ははは、またぁ、小説ぅ?
 なんかネタばらしの本とかじゃないの。
 ページを繰ると真っ白なのが、
 パッと文字が出てくるとか」
てな反応ばかりなのだ。
どうやら、いつもお笑いマジックばかりを
演じているせいで、
私が文章を書くというイメージなど皆無らしいのだ。
ところが、私の文章修業はずいぶんと古いのだ。

高校生の頃、定期購読していた受験生向けの月刊誌の中に、
八百字くらいのエッセイを投稿するコーナーがあった。
毎回テーマが決められていて、
入賞すると五百円の図書券がもらえる。
優秀賞は二千円、特選だと三千円分の図書券が
手に入るのだ。

当時の三千円は大きかった。
否、五百円だってけっして小さくなどなかったのだ。
私は図書券を目指して原稿用紙に向かったのだった。

最初に投稿した時のテーマは『黒』だった。

「小学生の頃、川で溺れたことがある。
 その日は流れが急な渦になっていて、
 どうしてもはい出せなかったのだ。
 力尽きて水底に沈むと、
 キラキラと輝く水面に優しい保健体育の先生、
 父や母、姉たちの顔が映画のフィルムのように見えた。
 それが、死の直前に観る
 パノラマ現象というものだと知ったのは
 ずいぶん後のことだ。

 僕の体はなぜか水面に浮かび出て、
 川岸に伸びた雑草を掴んだのだった。
 夏の陽射しに熱せられた岩の上で何度か水を吐くと、
 ようやく生きた心地が戻ってきた。

 家に続く、舗装されていない赤い土の道に、
 僕の影が黒く黒く伸びていた。
 生きている、僕の影があった。

 ほの暗い家の台所で、
 夕食の支度をしている母の横顔が見えた。
 あの、死の直前に見た母の顔だった。
 僕のほほを、何度も涙が流れた」

てな文章だったと思う。
その最初の投稿がなんと入賞したのだった。
いやはや、嬉しかった想いは今でも記憶しているほどだ。

それで味をしめて毎月投稿に励むようになったのだが、
残念ながら最高でも優秀賞止まりで、
特選には至らなかった。
それでも、コンスタントに入賞して、
五百円の図書券を貯めることができたのだった。
また、
「毎回、面白い文章で、
 もう少し努力すれば特選もあり得るでしょう」
などという評価も嬉しかった。

『魚』というテーマもあった。
私は、幼かった頃に祖父が作ってくれた
オオサンショウウオの鍋の話を書いた。
すると入賞どころか、
「大変に興味深い話なのですが、
 オオサンショウウオは食べてはいけないはずです」
などという指摘を受けたりしてしまったこともあった。

そんな昔に書いた文章を思い出しつつ、
このコーナーに同じような内容のエッセイを
書かせてもらっているのだから、
ひょっとすると私はまるで成長していないのかもしれない。


小石さん初の小説の出版を記念して、
トーク&サイン会(マジック付き)
ひらかれます。

日時:7月16日(水)19:00〜

場所:丸善・丸の内本店3F日経セミナールーム
   千代田区丸の内1-6-4
   丸の内オアゾショップ&レストラン1〜4階

入場料:無料(整理券が必要です。)

問い合わせ:03−5288−8881

詳しくはこちらをどうぞ

※イベントは終了しました。


明るく軽く親切なのに。
 ほんの少し悲しみの味がするのだ。
 マジックというのが、もともとそういう
 素性のものなのだろうか。ー
        糸井重里(帯コピーより)


「神様の愛したマジシャン」

著者:小石至誠
価格:1,365 円(税込)
発行:徳間書店
ISBN-13: 978-4198625429
【Amazon.co.jpはこちら】

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2008-07-04-FRI
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