MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


前回に続いて、
JAPAN SKEPTICS(「超自然現象」を
批判的・科学的に究明する会)の
機関誌に掲載されたエッセイの続編であります。

『続・超能力者らはかく騙りき』

確か、ロシアから招かれて
来日した超能力者もいたなぁ。
テレビ局のスタジオで、
大勢の観客やタレントが見ている前で、
なんと空中を14メートルも飛ぶと言うんだから、
すごい超能力だ。

ロシアから来た最強の超能力者、などと紹介された男は、
壁から30センチほど離れて立った。
そこから一切の助走なしに、
前方へ14メートルも飛んでしまうという。
男の14メートル先には、
衝撃を吸収するためのマットが重ねられている。

「準備が整いました。
 それでは、お願いします」

観客が固唾をのんで見守る中、
男は何度も深呼吸を繰り返した。

「うぐぐぐぅぅぅ」

大きなうなり声を発したかと思うと、
男は30センチ後方の壁に背中から激突し、落ちた。

スタジオ中があぜんとする中、
男に駆け寄った女性通訳の声が聞こえてきた。

「えぇっとですねぇ、
 前方に飛ぶ予定だったが、
 まだ自身の飛ぶパワーを
 完全にコントロール出来ないそうです。
 それで、今回は前方に飛ぶパワーが
 後ろ向きになってしまいました。
 もし後方の壁がなければ、
 後ろに10メートル以上、飛んでいただろう。
 スパシーバ、とのことです」

すごい!
ロシアの飛ぶ男は、言い訳の超能力者だったのだ。

日本人でも、すごいのがいたよ。
やはりテレビ番組の収録でのこと、
あいつは数人のタレントの目の前で、
手のひらの上でお札を浮かす超常現象を見せていた。
すると、タレントのひとりがつぶやいた。

「あれぇ、ここから見ると、
 なんか糸のようなものが見えるんですけど」

ごくごく細いストッキングの糸を
更にほどいた極細の糸を、手の指と体の間に這わせる。
その極細糸にお札を引っかけ、そっと手を遠ざける。
するとお札はなんの支えもなく
空中に漂ってしまうのだ。

普通ならこの糸は見えない。
ところが、このタレントは相当に視力が良かったらしく、
極細糸に焦点が合ってしまったらしい。
このタレントの視力の方がよっぽど超能力だったりして。

「やっぱ、糸ですよ!」

しかし、あいつは慌てなかった。

「はい、私の不思議な能力で今、
 手から糸を出現させているのです」

これまたすごい言い訳ではあるけれど、
それじゃぁ超能力者じゃなくて蜘蛛男だよ。

(つづく)

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2008-08-12-TUE
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