MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『酔っぱらいに気をつけろ』


『謎の物体』

カウンターの奥の席で飲んでいる男が、
なにやらバーテンダーに話しかけている。

「あのさぁ、僕は今まで誰も見たことがなくて、
 これから先誰も見られないものを、
 持っているのですよ」

バーテンダーは何のことやら分らないようで、

「誰も見たことがないもの?
 もう二度と見られないもの? 」

そう聞き返した。
すると男は、

「もし、僕にビールを一杯だけご馳走してくれるなら、
 ここでそれを見せてもいいですよ」

バーテンダーは戸惑いつつも、

「いいですよ。
 ビール一杯でそんな珍しいものが見られるなら」

すると、
男はスーツのポケットからゆっくりとゆで卵を取り出し、
カラをむいて、

「ほら、この卵の中身は
 今まで誰も見たことのないものだよね」

そう言いながら、今度は卵を食べ始めた。
すっかり食べ終えると、

「さぁ、 もうこれで
 誰も二度と見ることができなくなった」

バーテンダーは何か反論を試みようとしたが、諦めて
ビールをグラスに注いだ。


『不可能な実験』

ウイスキーが満たされたショット・グラスに帽子を被せ、
男はバーテンダーに告げた。

「実を言うと、僕はこの帽子に触れないで
 中のウイスキーを飲むことができるんだよ、
 へへへ」

バーテンダーは男がすっかり酔っていると思い、

「いやいや、
 そんな不可能なことができるんだったら、
 今夜のお勘定はタダにしますよ」

それを聞いた男は
おもむろにカウンターの下に潜り込み、
再びゆっくりと顔を出した。

「う~ん、このウイスキーは旨いねぇ。
 もうすっかり呑んでしまったよ、見てごらん」

バーテンダーは半信半疑になりながら、
帽子を持ち上げた。
その瞬間、男はショット・グラスを取り上げ、
ウイスキーを一気に呑み干した。

「ほら、僕は一切この帽子に触れなかっただろう」


『酔っぱらいに気をつけろ』

カウンターの男が相当に酔っ払った様子で、

「ジョッキ3杯のビールと、
 ショット・グラス1杯のウイスキー。
 君ならどっちが早く呑める?」

バーテンダーはグラスを磨きながら、

「そりゃぁ、ウイスキーの方に決まってるでしょう」

すると、カウンターの男は、

「ヒック、僕はさぁ、
 ジョッキ3杯のビールの方が
 ショット1杯のウイスキーより早く呑めるぞ。
 帰りのタクシー代の3千円、賭けてもいい、ヒック」

バーテンダーは今度こそと、

「いいですよ、3千円賭けましょう」

男はあやしい呂律で、

「ただぁ、
 まず僕に1杯呑ませてぇくれ。
 僕がぁ
 1杯呑み終わってジョッキをカウンターに置くまでぇ、
 君はショット・グラスに触っちゃぁダメェ。
 それとぉ、誰かに助けてもらったり、
 ジョッキに触れちゃダメェ」

バーテンダーは同情するように、

「えぇ、そのくらいのハンデはいいですよ」

すると男は1杯目を呑み干し、
空になったジョッキを
ショット・グラスに被せてしまった。

バーテンダーはジョッキに手を触れることはできず、
ゆえにショット・グラスを取ることはできない。
男はゆっくりと残りのビールを呑み、

「ありがとう。いいバーだねぇ」

そう言い残して去って行った。

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2010-04-11-SUN
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