仕分け人 |
「マジックに使うハトというのは、
この資料によると
ずいぶん高いものですねぇ。
普通に、例えば浅草寺に
いくらでもいるようなハトでは
ダメなんですか?」 |
マジシャン |
「はぁ、
実はマジック用のハトは
銀鳩という種類の小さめのハトでして。
つまりはマジック用品を扱う店で
購入するしかなく、
従って値段も高いのです。
ちなみに、普通に公園とかにいるのは
土鳩という種類で、
マジックに使うには大き過ぎて
タネがバレてしまう恐れがありまして」 |
仕分け人 |
「ナポレオンズというマジシャンは、
ゴム製のハトを使ってますよ。
餌もいらず、
飛行機とか新幹線での移動でも
経費が掛からないと言ってましたよ」 |
マジシャン |
「はぁ、でも、
彼らはお笑いマジシャンでして。
観客の目の前でたたんで笑いを取るための
ゴムのハトなんです」 |
仕分け人 |
「そうですよ、笑いも取れるんだから
ゴム製でいいのです。
ゴム製を使うか、
浅草寺で土鳩を捕まえるかして、
経費を削減してください」
|
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* * * * * |
仕分け人 |
「この、ハトを出す用のハンカチですが、
なぜこんなに高価なのですか?」 |
マジシャン |
「マジック用のハンカチは、
シルクと呼んでいる
特殊なハンカチでして。
薄くて柔らかいものを
マジック・ショップで購入します。
また、先輩マジシャンに、
『マジシャンはいつもきれいなハンカチを
使わなければダメよ。
だから、シルクは使い捨てにしなさい』
と、お叱りを受けることもありまして」 |
仕分け人 |
「本当は、マジックで
何枚でも出てくるんじゃないの、
ほほほ」 |
マジシャン |
「・・・」 |
仕分け人 |
「衣装代ですが、
マジシャンというのは
常に燕尾服でないと
仕事ができないということ?」 |
マジシャン |
「はい、燕尾服でないと、
何も出てきません」 |
仕分け人 |
「でも、今テレビで見ているマジシャンは
燕尾服など着ていませんよね。
あのミスター◯◯さんだってセ◯だって、
妖しい衣装ではあるけれど、
燕尾服ではないですよね」 |
マジシャン |
「はぁ、でも、あのマジシャンたちは
特殊なタイプでありまして、
燕尾服は似合わないかも。
いわゆるスタンダードなマジシャンたちは
燕尾服でありまして。
で、なぜマジシャンが
燕尾服を着るようになったかといえば、
元々マジシャンはうさんくさ~い格好で
演じていたのを、
ロベール・ウーダンという
フランスのマジシャンが
初めて燕尾服で演じたのです。
つまりは、社交会の正装で演じて、
マジックを近代化したのでありまして。
以来、一流のマジシャンは
燕尾服で演じるようになり・・・」 |
仕分け人 |
「ちょっと待って。
この場でマジックの歴史の講釈は
不要です」 |
マジシャン |
「こちらの話も聞いてくださいっ」 |
仕分け人 |
「この大道具代、
100万円とありますが、
そんなにお高いものなのですか?」 |
マジシャン |
「はい、だいたい
一台100万円が相場です」 |
仕分け人 |
「マジシャンならば、
パッと見て同じような道具が
作れるのでは。
だって、トリックはほとんど
見抜けてしまうものでしょ?」 |
マジシャン |
「はい。確かにトリックは見抜けて
同じ大ネタは作れますが、
今はコピー、パクリは厳しいのですよ。
そりゃもう、すぐにバレちゃうのですよ。
だから、今は正規のルートで買います。
だから100万円」 |
仕分け人 |
「すると、自分で、
つまりオリジナルを考えて作れば
もっと安く作れますよね。
しかも、その特許を売って
利益を得ることも可能ですよね」 |
マジシャン |
「はぁ、でも、
そのオリジナルを考案するのが難しくて」 |
仕分け人 |
「そんな、それこそが
マジシャンの仕事なのではありませんか。
他所から安易に持ってきて
仕事になるというのは、
到底プロの仕事ではありえませんよ。
大ネタの予算は廃止します」 |
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* * * * * |
仕分け人 |
「この、サングラス代というのは?」 |
マジシャン |
「はい、
どうしてもマジックをする場合ですね、
目を見られるのが苦手なんですよ。
つまり、マジックの場合、
言っていることと
やっていることが違うのですよ。
『何もないです』と言いながら、
何かを隠し持っていることが
多いのですよ。
その精神の動揺を見破られないように、
またマジシャンが
どこを見ているか見られないように、
サングラスは必需品なんですよ」 |
仕分け人 |
「すると、マジックをするのに
優位なのは小さい目ということですか?
となると、なるべく小さく目を開けて
すればいいのではありませんか。
ゆえに、この予算は削減対象とします」 |
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* * * * * |
仕分け人 |
「この、頭をくるくる回す
マジックの道具ですが、
ずいぶん高いですね」 |
マジシャン |
「もう30年以上やっているもので、
もはや伝統文化ともいうべき
マジックでして」 |
仕分け人 |
「でも、あれって、
タネはバレバレですよね。
同じ頭を回すのなら頭の中を、
つまり脳みそを回転させて
もっと不思議なマジックを
考えてください。
はい、本日の仕分け作業はこれまで」 |