MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『マジシャンたちの近未来』


~プロローグ~

2015年、ベテランのプロ・マジシャンの谷川古次郎氏が
日毎テレビ局を提訴した。

訴状は、

『日毎テレビは番組のなかで、
 マジシャンの共有財産である
 マジックのタネを明かした。
 これによって、多くのマジシャンが
 甚大な被害を被ってしまった。
 今後は一切、
 マジックのタネを明かさないことを明確に
 約束するとともに、
 今回の被害の補償として500万円の
 慰謝料を求める』

というものであった。

~お札のマジック~

問題の始まりは、あるマジシャンが
特殊なお札を作ったことからである。

鉛筆をお札に貫通させるというマジックがある。
このマジックはアメリカで開発されたもので、
使われるお札もアメリカ・ドル紙幣であった。

この素晴らしいドル紙幣のマジックを、
日本のマジシャンも演じるようになった。

だが、次第にドル紙幣ではなくて
日本のお札で演じたいと思うようになり、
ついには、あるマジシャンが日本のお札に
加工を加えてしまったのである。

やはり、普段はあまり目にしないドル札と
ごく普通の千円札では
不思議さに雲泥の差があるからであった。

しかし、紙幣を加工したマジシャンは
紙幣偽造の罪に問われ、逮捕されてしまった。
その事件を取り上げた番組の中で、
出演者のひとりが実際に
このお札のマジックを演じ、
更に千円札に仕込まれた仕掛け、
タネのすべてを見せたのであった。

この番組を見て、谷川古次郎氏が
提訴に踏み切ったのである。
一審での判決はマジシャン側の敗訴となったが、
谷川氏は更に上告して
徹底的に争う姿勢を見せたのである。

~審判~

裁判は最高裁まで持ち込まれ、
とうとう結審するに至った。

『主文 マジシャンの訴えを認め、
 すべてのマジックのタネを
 明かしてはならないこととする』

なんと、誰もが予想だにしなかった
判決が下されたのだ。

本などの著作物を除き、テレビ番組はもちろん、
公の場所でマジックのタネを明かすのは
法律違反となったのである。

タネ明かしは実刑もある犯罪と認定された。
谷川氏は、大方の予想を翻して勝利したのであった。

「これで、私たちマジシャンは安心して
 マジックという芸能に精進できます。
 マジシャンの財産であるタネは、
 永遠に守られるのです」

~自縄自縛~

男性二人のマジック・デュオ、
カメレオンズが逮捕された。
出演していた番組でいつものように
『あったま・ぐるぐる』というマジックを演じたのだが、
視聴者から、

「あれは、違法なタネ明かしの疑いがある。
 なぜなら、誰が見ても
 あのバケツのような中で
 頭を行ったり来たりさせているだけということが
 分ってしまう。
 つまり、演じることとタネ明かしが
 同時に行われている、
 タネ明かしマジックだ」

哀れカメレオンズは逮捕され、
実刑判決を言い渡されて収監されてしまった。

これを契機に、テレビに出演していたマジシャンたちが
次々に告発され始めた。

「あのマジシャンはヘタ過ぎる。
 本人は絶対にタネを明かしていないと言っているが、
 実際にはチラチラと見えている。
 ヘタゆえのタネ明かし、有罪だ」

決して故意ではなくても、未熟な技術によって、
あるいはウッカリしての失敗マジックにも
厳しい判決が下されるようになり・・・。

(つづく)
※この物語はフィクションであり、実在する個人、
 あるいは団体等とは一切関係ありません。

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2010-05-23-SUN
BACK
戻る