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ライフ・イズ・マジック 種ありの人生と、種なしの人生と。 |
『続・マジシャンたちの近未来』 ~自縄自縛~ テレビだけではなかった。 寄席やホールなどに出て マジックを演じていたマジシャンたちも、 次々と摘発されるようになっていった。 少しでもタネがバレてしまえば、 すぐに有罪となってしまうのだ。 そうなると、普段は絶妙かつ完璧なテクニックを 誇るマジシャンの指先にも、 間違ってもタネを見せてはならないというプレッシャーで 狂いが生じてしまう。 これまで一切見えなかったタネの部分が、 次々と見えてしまうようになったのだ。 ある日のこと、谷川古次郎氏が 得意の古典マジックを演じていた。 と、その時、観客の声が響いた。 「おい、そのマジックのタネは糸だろう。 いや、糸でなければ磁石だろう」 酔客がいい加減な意見を大声で叫びだしたのだ。 普段なら適当にあしらう谷川氏だが、 運の悪いことに、演じていたマジックのタネが 酔客の指摘通り、糸と磁石だったのだ。 哀れ谷川古次郎氏は現行犯逮捕され、 有罪となって収監されてしまった。 「ち、違うんだ。 私がタネ明かしなどするはずない。 だって、私はタネ明かしを 初めて告発したマジシャンではないか。 その私が、今になって逮捕されるなんて・・・」 泣き叫ぶ谷川氏の手に、 無情にも冷たい手錠が光った。 ~アラキング氏~ テレビはもちろん、あらゆる場所で マジックは演じられなくなっていた。 考えてみれば、タネが一切推測できないマジックなど 存在しないのだ。 また、マジシャン同士であれば どんなに斬新なマジックであっても、 少し考えればタネを見破ることができてしまう。 蛇の道は蛇、なのだ。 永遠と思うほど長かった刑期を終え、 マジシャンを廃業して小説家となっていた私は、 とある駅の周辺を散歩していた。 「もしや、貴方は マジシャンのカメレオンさんでは?」 ギクリとして振り返ると、優しい笑みを浮かべた 見知らぬ紳士が立っていた。 「ずいぶん久しぶりですよね。 私をお忘れになりましたか?」 思い出した、あの華麗でエレガント、 それでいて思わず微笑んでしまうユーモア。 この人こそ、マジック界のキングと称された アラキングさんではないか。 「実はね、この近くでパーティがあるのですよ。 ここで会ったのも何かのご縁なのでしょう。 どうです、ご一緒に行きませんか?」 私は再会の喜びとともに、 アラキング氏の後に続いた。 ~地下へ、ようこそ!~ 「さぁ、ここですよ。 この壁を押すと、地下へと続く階段があります。 その地下室で、あるパーティが開かれているのですよ」 薄暗い照明にやっと慣れた私の目に、 なんとも懐かしいチャイナ・リングが見えてきた。 演じているのは、 これまた懐かしいババロアさんであった。 ババロアさんは、長くデパートで マジック用品を販売するディーラーさんであった。 私が売り場に立ち寄ると、 いつも新しいを教えてくれたものだ。 そんなババロアさんが、 あの音も懐かしいチャイナ・リングを 演じているのだった。 多くのパーティ客が、 嬉しそうな顔でババロアさんの指先を見つめている。 「では、私もひとつ」 アラキング氏がステージに上り、 これまた懐かしいカードのマジックが始まった。 まるで夢のようであった。 マジック・ショーが見られなくなって、 もう何年が過ぎようとしているのだろう。 「残念ながら、公の場所でマジックを演じると すぐさま逮捕されてしまう世の中になってしまいました。 でもね、こうしてマジックを愛している人だけが集まり、 秘密のパーティを定期的に催しているのですよ。 ここならば、安心して マジックの楽しさを堪能できるのですよ。 どうです、貴方も時々参加されては」 アラキングさんの言葉に、私は自然と頷いていた。 (再び、つづく) ※この物語はフィクションであり、実在する個人、 あるいは団体等とは一切関係ありません。 |
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2010-05-30-SUN
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