MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『超ダジャレ』


超能力かと錯覚してしまうような、
シリアスなマジックが流行したことがあった。
多くのマジシャンが購入し、
濃いサングラスをかけて演じたものだ。

一辺が30センチほどの、透明な正方形の
プラスチックの箱の天井部分に、
1個の電球が吊るされている。
マジシャンがその電球を一心に見つめて数秒後、
電球は突然粉々に粉砕される。

お笑い番組のプロデューサーから電話が入った。

「他局の番組で観たのですが、
 電球が割れるマジック、
 あれをナポレオンズさんに
 やってほしいんですよぉ。
 ただ、やっぱり、
 ナポさん風に面白くしてくださいよ。
 他のマジシャンと同じように
 真面目にやっちゃぁ、
 観ている人が戸惑いますから」

電球が割れる仕掛けを詳しく記せないが、
タネは機械化、自動化されていて、
途中であれこれ演出を加えられないマジックなのだ。
ゆえに、どのマジシャンが演じても
まったく同じ流れ、現象になってしまう。
マジシャンは箱に吊るされた電球を見つめ、
電球が粉砕されて終了するのみだ。

私は考え続け、悩み、ついに収録当日がやってきた。

箱に電球が吊るされている。
私は電球を鋭く見つめる。
すると、電球はあわれ粉々に粉砕された。
私は金属部分だけが残った電球を指差し、言い放つ。

「デンキュ~・ベリ~・マッチィ~!」

私はかろうじて使命を果たすことができたのだった。

「なんだよぉ、くだらないなぁ」
お叱りの方々もおられよう。
しかし、私にとっては
追いつめられての窮余の一策、
乾坤一擲、渾身のチカラを込め、
長きに渡るキャリアを賭けてダジャレを放ったのだ。

このダジャレを大いに気に入ってくれた
プロデューサーから、再び出演依頼があった。

「この間のような、
 しょうもないダジャレばっかりの
 マジックをやりましょうよ」


< パンドラの箱 >

ギリシャ神話から題材を引き出したマジックである。

古めかしい箱がテーブルに置かれている。
フタを開け中を見せるのだが、
箱には何も入っていない。
フタを閉じ、マジシャンは
何やら怪しげなおまじないを唱える。

そうして再びフタを開けると、
なんと箱の中から食パンとどら焼きが出現!

マジシャンはそれらを手にして、

「パンとどら焼きが出てきて、
 パンドラの箱~!」


< 未完成交響曲 >

海外、あるいは諸外国のお客さまの前で演じると
ウケが良いマジックである。

テーブルにお椀がふたつ並んでいる。
マジシャンはお椀を両手に持ち、

「お椀がふたつで、椀ダブル、
 わんだぶる~!」

いくらなんでも恥ずかしいと思わず、
確信犯のように
堂々と言い切ってしまうのがコツである。

それでもウケない場合が多々あるが、
その場合は何事もなかったように演技を続ける。

さて、ふたつのお椀の片方にミカンをひとつ入れる。
ミカンの入ったお椀を扇子であおぐと、
ミカンは消えてしまう。
消えたはずのミカンは、
もう一方のお椀に瞬間移動しているのだ。

ただ、途中でこのマジックのタネである糸が
観客に見えてしまう。
それでもマジシャンはめげずに、

「はぁ~、
 だからこのマジックはまだ未完成、
 ミカンせい~!」


< コーラがコアラ >

コーラの絵が、
一瞬にしてコアラの絵に変わるマジック。

最後に、

「コアラ、驚いたぁ!」

と付け加える。


こうして私の芸は一向に深まらず、
浅瀬に浮かぶ枯れ葉のように
時の川を流れていく。

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2010-11-28-SUN
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