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ライフ・イズ・マジック 種ありの人生と、種なしの人生と。 |
『それでも、生きているよ』 < 無芸大食 > 勇んでステージに登場し、 辛口のジョークを連発した。 ウケるはずだったのに、 客席はシーンとしたままだった。 おかしいなぁと焦りつつ、 時々は起きる笑いに救われる思いで最後まで務めた。 出番を終えると、担当者が、 「お疲れさまでした。 2階のレストランで夕食をどうぞ」 たくさんの美味しそうな料理が運ばれてきた。 僕はそれらの料理を眺めながら、 心の中でひとつの言葉を反芻していた。 「無芸大食、無芸大食、無芸大食・・・」 すべったことを反省しても仕方のないこと。 ウケなかった罰に、せっかくのご馳走を いただかないというのももったいない。 だが、その考えとは裏腹に、 「無芸大食とはお前のことだ。 ウケざるもの食うべからず、じゃないのかい」 もうひとりの自分が僕を責め立てる。 更にもうひとりの、別の自分が僕を弁護し始めた。 「無芸だからこそ、食べて体力を付け、 一生懸命に芸をするべきです。 無芸の上に小食では、増々、 芸がやせ細ってしまうではありませんか。 無芸こそ大食すべきなのです」 弁護人の主張が有利となり、 僕は美味しい料理をむしゃむしゃと食べた。 無芸だって、生きなくちゃならないのだ。 < すってんころりん > 雪が降っていた。 なのに、早朝から羽田に向かわなければならない。 重い荷物を担ぎ、僕は駅へと歩き始めた。 雪はかなり積もっていて、小さい歩幅で 膝を折るようにして歩かなければならない。 「あぁ、こんな冷たい雪の日に、 早起きして歩かなければならないなんて。 あぁ、マジシャンなんて、辛いことだらけだよ」 ついつい、愚痴が出る。 バチが当たったのだろうか、僕はすってんころりん、 見事に転んでしまった。 どこも痛くなかったし、 濡れない素材のパンツだったから、 僕は雪をはたいて再び歩き出した。 ちょっとくらい転んだって、ひどく冷たくても、 元気に生きて働くのさ。 < 友達申請 > FB(フェイス・ブック)の友達申請があった。 名前を見て、すぐに承認を押した。 もうとっくに友達だと、 FBでも繋がっていると思っていた。 彼女には、あまりにも辛いことが起きていた。 彼女は堪え難い辛さに震えながら、 誰かを探していたのだろうか。 僕は、辛いことがあると 何か普通のことをして 時間を埋めたくなる。 彼女も、日常の作業で 時間を埋めようとしているのだろうか。 「どうも、今後ともよろしくね~!」 などと、あえて軽いメッセージを入れようと思うけれど、 それもできやしない。 どうか、ゆっくり元気を取り戻してほしい。 彼女には生きて生きて、 とんでもなく長生きをしてほしい。 < お仕着せ > 担当者から食事券を渡された。 「ご自由に、と言いたいのですが、 もうメニューは決まってまして」 席に着くと、すぐさま料理が運ばれてきた。 「舌平目のムニエル、 ハーブのサラダとコーンのスープでございます」 どれも美味しかった。 舌平目はカリッと、サクサクと。 それでいて中はしっとり、ホロホロ。 なぜか、 「淡白な美味しさって、濃厚な旨さと同じなんだ」 と思ってしまう。 自分で選ぶと、どうしてもカレーとかパスタとか、 同じようなものを選んでしまう。 しかし、今日はお仕着せだから良かった。 お任せだから、この味に出会えたのだ。 時々、仕事をお仕着せだと感じることがある。 僕には合わないと思えるような仕事が 舞い込んだりする。 とても嫌だなぁと思ってしまう。 けれど、やってみると意外に楽しかったりする。 お仕着せの仕事も、がんばってみる価値があるものだ。 人生だって、神様に与えられたお仕着せ、 と言えるかもしれない。 自分で自由に選べることもあれば、 ままならないことだってある。 僕の人生はままならないことだらけ、 出来もしないお仕着せに 四苦八苦することばかりだ。 けれど、お仕着せならではの 格別な味わいもあるのかもしれない。 お仕着せもしっかり噛みしめて、 僕は生きていこうと思う。 |
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2014-02-16-SUN
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