最近、どうにも調子が上がらない。
周辺の方々は、
「いや、いつも通りですよ」
だが、普通の出来では困るのだ。
ほんのたまに、自分の思った以上に
素晴らしい出来事があったりする。
それは実力とはまるで関係なく、
神様が気まぐれにプレゼントしてくれた、
まぐれ当たりのホームランのようなものなのだ。
そうだ、困った時の神頼み、
僕はお詣りに出かけた。
するとその夜、奇妙な夢を見た。
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僕 |
「最近、他の芸人さんの
有り余っているような天賦の才能が
羨ましくてなりません。
もう、羨ましいのを通り越して
腹が立つほどなのです。
なにとぞ、
僕にもマジシャンとしての、
芸人としての才能を
与えていただきますように。
これは些少でございますが、
お賽銭でございます」
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神様 |
「本日はお忙しい中、
かつまた生活の苦しい中、
数ある神社仏閣の中から、
当社ご指名ご来社いただきまして、
誠にありがとうございます。
はいはい?
才能でございますね?
それなら、あなた様には
過不足なく与えられておりますよ。
世に言うところの2対6対2の法則、
つまり人間の2割が優秀、
6割が普通、
残りの2割がちょっと残念。
あなた様は、普通とちょっと残念の
境目を行ったり来たり
されておりますね」
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僕 |
「はっ?
今のお声は、ひょっとして神様?」
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神様 |
「はいはい。
といっても私はここら辺、
半径10キロくらいを
管轄している神様でして。
もし、
あなた様がご自分の才能について
詳しく知りたいならば、
あなた様の生まれた所の神様に
訊かないと、確かなことは
分かりませんねぇ」
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僕 |
「ということは、僕は故郷に帰って、
地元の神様に訊かなくてはいけない、
ということですね」
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神様 |
「いえいえ、
今は便利な時代になりましてね。
このパンフレット、じゃなくって、
このタブレットの地図の、
生まれた所をタッチすれば
地元の神様を呼び出せます。
実に便利なサプリ、
サプリじゃないよ、
アプリというものがありましてね」
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僕 |
「はぁ、神様には
ひとりボケ・ツッコミの才能が
おありのようで。
そうですか、
神様も最新のものをお使いになって、
今やデジタル化していると
いうことなんでしょうか。
まさに、オー・マイ・ゴッド。
では、僕の故郷はここだから、
ここにタッチして‥‥」
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むらかみ |
「はいはい、むらかみです」
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僕 |
「村上さん?
神様ですよね?
神様にも、
普通に名前があるんですか?」
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むらかみ |
「あぁ、勘違いなさるのも
無理はありませんが、
私は村の神様、
略して村神でございます、
ははは。
はいはい、私が確かにあなた様を
この世に送り出しました。
あの頃は、
団塊の世代っていうのが
過ぎましてね、
私どもも少し余裕が
できた時代でして。
だから、あなた様のことも
時間をかけてお創りしたと
記憶しておりますがねぇ。
何か、足りないと
思っていらっしゃるとか」
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僕 |
「はぁ、村の神様で村神さんですか、
なるほどね。
でね、
村神さんにお尋ねしたいのですが、
僕には芸の、
マジシャンとしての才能が
足りないのです。
で、やはり神様に
おすがりしようという次第でして」
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村神 |
「分かります、分かります。
足りませんねぇ、確かに。
あなたにはマジシャンとしての才能が
相当に不足しているようですねぇ。
不足というより、むしろ、ない、
ははは」
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僕 |
「むかっ。
そのように断定されてしまうと、
いくら神様のお言葉でも
少々不快な気持ちになりますが」
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村神 |
「おっと、
これは失礼をいたしました。
でもね、芸人、
あるいはマジシャンとしての才能は、
残念ながらご出生の際には
あなた様に天賦されておりません。
悪しからず」
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僕 |
「えぇ?
与えられてないのですか?」
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村神 |
「私は村の、
地元の神でございますから、
地元で生きてゆく分の才能しか
与えていないのでございますよ。
いや、他の都府県の神様も、
その土地で生きてゆく分の才能を
与えているだけなのですよ。
だから、
山里に生まれたあなた様には、
たとえば山に登ったり木登りしたり、
アケビや野いちごを穫ったり、
川で泳いで魚を捕ったりなどの才能は
充分に与えておりますよ」
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僕 |
「そうかぁ、そうだったんですね。
確かに、そんな才能は
たくさん与えていただきました。
山菜を見つけたり、
ウナギを捕まえたりは
得意中の得意でした。
あ、いや、でも、
僕は10代のおしまいくらいから
都会暮らしで、
しかもマジシャンという職業に
就いたのでして。
そうなると、
ウナギを見つけて捕ったりする才能は
まったく不要で、
芸人、マジシャンという職業のための
才能こそが必要なのです」
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村神 |
「はは~ん、なるほど。
確かに、マジシャンが
帽子から取り出すのは
ウサギであって、
ウナギじゃないですもんね。
ですが、残念ながら
素晴らしいマジシャンに
なるための才能は、
後天的に身につける
才能の部類なんですよ。
先天的に与えられる才能は、
あくまで地元限定のものに
限られるのでして」
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僕 |
「となると、
後天的な才能を身につける努力が
不足してたってことですか?」
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村神 |
「そうそう、
そういうことですね、ははは」
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僕 |
「はははって、笑い事じゃないですよ。
じゃ、僕は優秀なマジシャンへの道は
諦めろってことでしょうか」
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村神 |
「いえいえ、
そんなことはありませんよ。
えぇっと、では、
ここだけの話に
しておいてくださいね。
実は、
素晴らしいマジシャンになるための
才能を与えてくれる神様も、
ちゃんといらっしゃるのですよ。
そこにお詣りいただければ、
ダメなマジシャンのあなた様にも、
すべってばかりのあなた様にも、
ネタバレ続きのあなた様にも、
起死回生の才能を
もらえるかもしれせんよ、
ははは」
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僕 |
「ずいぶんな言い方ですねぇ、
むかっ。
しかしながら、
神様のお言葉ならば仕方ない。
ぜ、ぜ、ぜひとも、
その神様のいる場所を
教えてくださいっ!」
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村神 |
「承知しました。
その神様の居場所を、
このタブレットで探しましょう。
あれれ、電源が切れていますねぇ。
この機種はもう古いタイプでして、
バッテリーが持たないんですよ。
新しいのに買い替えるにしても、
何かとお金がかかりますしねぇ‥‥」
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‥‥そこで目が覚めた。
仕方ない、神様の新しいタブレット購入資金の
足しになるよう、
今日もお賽銭を持ってお詣りに行こう。 |