『久しぶりに岐阜に帰った』
久しぶりに岐阜に帰った。
岐阜駅に降り、迎えに来てもらった車に乗り、
変わらない風景の長良川沿いを走った。
岐阜の長良川と言えば、有名なのが鵜飼である。
地元の偉い人がおっしゃることには、
「岐阜はとても安全なところ。
なんせ、台風や水害という、天災がまるでない。
天災は全部、う回(鵜飼)するんだよ、わっはっは」
鵜舟に乗って川面を見つめていると、
かがり火が水面に落ちるジュッ、ジュッ、
鵜が潜るチャポン、チャポンという音だけが
聞こえてきて、
はるか昔にタイムスリップしたような気になる。
松尾芭蕉の句を思い出す。
『 面白うて やがて悲しき 鵜舟かな 』
ある日の昼下がり、急に焼肉が食べたくなった。
平日の昼間とは思いつつも、
最近気に入っている生マッコリビール、
上タン塩、ハラミを注文する。
始めは固かったタンが、炭火でしんなりとしてくる。
表面に脂が浮いて、ほんの少し焦げ目がついてきた。
そいつにレモンを絞り、ガブリ。
ハラミも焼いて、こちらはタレにどっぷりつけて
モグモグ。
生マッコリビールが美味い。
乳酸菌のほんのりとした甘みと酸味を、
ビールの喉越しでゴキュン、ゴキュン。
しかし、
「昼日中、働きもしないで
生マッコリビールを
ゴキュン、ゴキュンですかぁ?
いいのかなぁ、 いいのかなぁ?」
と、もう一人の自分が問い詰めるけれど、
その後ろめたさが更に酒を美味しくしてしまう。
散々飲んで食べて赤ら顔で店を出ると、
すれ違う人々の視線が突き刺さるようだ。
気のせいだろうか。
『 美味しゅうて やがて哀しき 昼の酒 』
今年の春も、Y家のM子さんお手製の
お稲荷さんを食べることができた。
以前のこと、私はM子さんのお稲荷さんを食べながら
泣いてしまったことがあった。
その時は、こんな美味しいお稲荷さんを食べさせてもらう
ありがたさに、つい嬉し涙が出たと思っていた。
ところが、今頃になって気づいた。
M子さんのお稲荷さんは故郷の味、お袋の味だと。
先週、実家で故郷の味を懐かしむうちに、
「あぁ、あのお稲荷さんの美味しさは、
母の作ってくれたお稲荷さんの味だ」
そう、気づいたのだ。
私がまだ小学生だった頃、運動会のお昼に食べるのは
母の手作りお稲荷さん。
運動会の日の母の定番は、お稲荷さんだったのだ。
『 ありがとうて やがて愛しき 稲荷かな 』
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