『さくら祭り』
『◯◯町さくら祭り』というイベントに招かれた。
当日はあいにくの花冷え、花曇りのお天気であったが、
イベントは予定通り開催されるとのことであった。
会場に着くと、
まるで冬に逆戻りしたような冷たい北風が
ビュービューなのに、
特設ステージの周りは人、人、人の大盛況であった。
控え室でステージ衣装に着替え、
早めにステージの裏側で待機することにした。
相変わらず風は強く吹いていて、
凍えるくらいに寒かった。
「なんだよ、この風は。
こりゃぁ、冬物の衣装の方が良かったかなぁ」
などとぼやいていると、派手なジャケットを着た
ひとりの老人がやってきた。
「あのぅ、私ね、今日の司会を務めますんで、
よろしくお願いします」
「どうぞよろしくお願いします」
私は挨拶しつつ、心の中で、
「おいおい、大丈夫かなぁ、このご老人。
ちゃんと司会なんてできるんかいな」
などと、いぶかっていた。
時間がきて、司会者の紹介が始まった。
「さぁ、いよよよ、
ニャピリオンしゃんの、と、登場~。
ど、どうじょ~」
私は袖で、
「やっぱりだよ、なに言ってんだか分からないよ、
このお爺さん」
周りのスタッフと笑いながら、
ステージに出てしゃべり始めた。
ところが、
「み、皆ちゃん、ニャ、ニャピョレオンズでゃす。
ミャ、ミャジックですよ~」
なんと、ステージを吹き抜ける冷たい風に、
私の口もすっかりかじかんでしまい、
まるで舌が回らないのであった。
「司会の方も年のせいではなく、
凍えて滑舌が悪かったのか。
てっきり齢のせいと思い込んでしまい、
本当に申しわけありませんでした」
私は心の中で深く陳謝するのであった。
我々の後に出演した演歌歌手の女性が
控え室に戻ってきた。
「お疲れさまでした。
寒かったですよねぇ、あのステージ」
私の問いに、彼女は、
「ううん、全然、暑いくらいよ。
だいたいねぇ、着物って暖かいのよ。
それに、今日はいつもより厚化粧だから、
気温なんてまるで感じないのよ、おほほほほ」
余裕の笑顔を浮かべるのであった。
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