『私は世界一貧しいマジシャン!?』
最近、あちこちから
南米のある国の元大統領の言葉が
聞こえてくる。
「貧乏なひととは、
少ししかものを持っていない人ではなく、
無限の欲があり、
いくらあっても満足しない人のことだ」
あぁ、耳が痛い。
近所を歩けば、お寺の塀に、
『いくらあっても満足しない人のことを、
仏教用語では貪欲(とんよく)という』
などと書かれたボードが掲げられているではないか。
あぁ、耳が痛い、痛すぎる。
ゴミが入ったか、目も痛い。
口内炎がなかなか治らず、しみじみ痛い。
私はこれまで、
まさに貪欲にマジックを追い求めてきた。
それも質より量とばかりに、マジック道具はもちろん、
本やらDVDやらを大量に買い求めてきたのだった。
それらを集め、怒られたり訴えられたりしない範囲で
パクれないかと悪知恵を働かせてきた。
しかし、私は多くを集めても、
「これは面白い~!」
というマジックになかなか出会えなかった。
人前で演じられる面白いマジックとなると、
もう片手で数えられる程度だ。
ほとんどのマジックはただ溜め込むばかりで、
磨きもせずアレンジを思いつきもせず、
ただ箱に詰め込むばかり。
「貧乏なマジシャンとは、
少ししかマジック道具を持っていない人ではなく、
無限の欲に溺れ、
いくらマジックを溜め込んでも
満足しない人のことだ」
あぁ、耳が痛い、痛くてたまらない。
私は欲張りなマジシャンなのだろうか。
だが、私は幸運なことに世間では
『マジックをしない方』と呼ばれている、
世界でも稀有なプロ・マジシャンなのだ。
元大統領風に考えれば、私は、
『ほんの少しのマジックで満足している、
真に豊かなマジシャン』
なのかもしれない。
もう耳は痛くない。
目も口も痛くない。
あぁ、良かった、良かった。
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