『ダイヤだサファイヤだゴールドだ』
僕はずっと夢見ている。
しょうもない夢だけれど、いつか演じてみたい、
まさに夢のように豪華なマジック。
僕は、右手の全部の指に指輪をはめて登場する。
指輪はすべて本物の宝石で、
重いので右手が下にダランと伸び、
体は重さに負けて思い切り右に傾いている。
中央のテーブルによっこらしょと右手を乗せ、
「これはダイヤでこちらはサファイヤ、
ルビーに真珠にゴールド、これは金無垢。
あぁ~、重くてたまりません」
などとぼやきつつ、テーブルから風船を出す。
左手に純プラチナ製のステッキを持ち、
「ワン、ツー、3億円」
などと呪文を唱えると風船が割れ、
中からゴム製のハトが転がり出る。
指輪やステッキは高価なのに、
肝心のマジック道具はめちゃ安いという、
ひとり格差社会マジック。
面白いと思うんだけどなぁ。
問題は、指輪もステッキも相当に高くつくということ。
それを買えるだけの資金を、
まずは働いて貯めなければならない。
はたして、何年かかることやら。
実はこのマジック、かのPリンセスTさんのために
考えたものだ。
Pリンセスさんならば
宝石をいっぱい持っていると聞いているし、
いわゆるセレブ・マジシャンだろうから、
このルーティンはピッタリだと考えたのだ。
しかし、なぜか僕のアイデアは採用されなかった。
どうやら、マジックの大道具にお金がかかるらしいのだ。
確かに、大ネタとなるとひとネタ100万円、
高いものだと200万円くらいはするだろう。
大ネタって、高いのである。
ただ、普通の人には
大ネタの価値なんて分からないだろうから、
指輪に金かけた方が分かりやすいと思うのだが。
しかし、よくよく考えてみれば、
そんなに多くの金銀財宝を買えるほどの
お金を貯めることができたなら、
あえて働く必要などないのかもしれない。
何百万、何千万もかけたマジックを、
むざむざ数万円のギャラで演じるのも
阿呆らしかったりして。
でも、かの大師匠いわく、
「笑いは緊張と緩和によって起きる」
だから、指輪とかにめちゃめちゃ金をかけているのに
マジック道具はセコいというのは、
お笑いマジックの王道と言えるのではなかろうか。
僕は友人に熱くこの夢を語ったのだが、友人は、
「お客さんは宝石ばかりに目が行くから、
お前さんのヘタなマジックもネタバレしないかもな」
おいおい、それを言っちゃぁお終いだよ。
 
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