『あるマジシャンの詩(うた)』
雨の日は屋内にのがれ
風の日も屋内にのがれ
雪にも夏の暑さにも弱い芸風で
わりと丈夫なカラダを持ち
出世欲はなく
毒舌でも決して怒られず
いつも静かな笑いをとり
新幹線で朝パンを食べ
昼は楽屋で弁当を食べ
夜は打ち上げで呑み食べ
とりあえず生ビールにさからわず
こっそりと高い酒を頼み
決して払わず
翌朝にはすべて忘れ
小さな楽屋にいて
隣に悩む前座さんあれば
行って先はイバラの道と説き
その隣に疲れた師匠あれば
行って顔色いいですねとヨイショをし
そのまた隣に引退寸前の芸人あれば
行ってそっと背中を押してやり
けんかしている漫才コンビあれば
行って相性悪いと火に油をそそぎ
ひとりの時は思い出し笑いをし
ウケない時はオロオロし
みんなに芸なしと呼ばれ
ほめられもせず
苦にもされず
そういうマジシャンに
私はなりたい
 
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