『続・続・ジビエ大作戦』
天然鮎のフルコースを堪能した私たちは、
津和野城址に登り、鮎たちの故郷、高津川を眺めた。
あの美味なる鮎たちは、
この清流を今も泳いでいるのだろうか。
城址を降り、津和野の町並みを散策。
道の横に堀があり、大きな鯉が悠然と泳いでいる。
ツアー客を案内する人の声が聞こえてきた。
「堀に落ちる人は、男性が多いんです。
男は恋(鯉)に落ちやすい」
私はメモしようと思ったが、やめておいた。
懐かしい佇まいの喫茶店『げんごろう』でランチ。
メニューは当然のようにジビエ、
イノシシ鍋にイノシシ焼肉。
イノシシの脂は、不思議なくらいにあっさり。
薄切りの肉は臭いなく、柔らかい。
淡白なのに、なんだか元気になれそうな味がする。
昼食後、近くの美又温泉で極楽、極楽。
ここの湯も熱くなくてゆったり。
行くところ訪ねるところに名湯ありって、
心が自然にウキウキする。
待ちかねた夕食は『ケンボロー』で、豚しゃぶ。
ジビエの肉に慣れた舌には、
豚肉の脂の甘みが強く感じられる。
白い砂浜が広がる海辺の国民宿舎『千畳苑』泊。
翌朝、亀谷窯業を見学。
「マジシャンと写真、撮りてぇな」
瓦職人さんと記念撮影。
職人さんは68歳だというが、ずいぶんと若く見える。
「そりゃそうだよ、
瓦職人はいつまでたってもカワラない」
今度はしっかりメモを取った。
やさか村の『ワタブンアートファブリック』を訪問。
シルク編みのタオルを生産していて、売れているらしい。
いつまでも若く美しく、健康でありたいという、
高齢化社会のニーズにぴったりマッチしたのであろう。
私もついつい大人買いしてしまった。
昼飯はジビエ料理『陽気な狩人』のテラス席。
店主をはじめ、スタッフの皆さん
陽気で気さくな方々ばかり。
看板に偽りなく、『陽気な狩人』の店なのだ。
もしも、ジビエ料理を陰気に、
「昨日、山で殺生したイノシシ‥‥、
ナマンダブ、ナマンダブ」
なんて出されたら、食欲急降下だもんね。
皆さん陽気に元気良く、次々に肉を焼いてくれる。
天然のウナギも炭火で焼かれてテーブルに。
天然ウナギって、やはり清流の味がするんだね。
褒章を受けた和紙職人を訪ねて『かわらい工房』に向かう。
細長い和紙を2本の指で挟み、感覚だけで紙を糸によじる。
「見事に紙が糸に変化しますねぇ。
まるでマジックですねぇ」
私のつぶやきに、名工のたまわく、
「紙という漢字は糸偏。
だから糸になって当たり前なんだよ」
今回の旅の食べ収めは『真砂の豆腐』。
島根県産の大豆を使い、
ローテクで作られる豆腐の豆々しさ。
そういえばイノシシ鍋にも入ってたっけ。
ジビエも鮎も豆腐も、すべて地元でとれたものだけ。
山と里と川で、とれたものだけ。
ありましたよ、石見に。
しかも、まだたっぷりと味わえる。
『おはよう小石くん。
次回の使命だが、石見の秋を食べ尽くすことにある』
帰りの機内で、私は早くも石見の秋の味覚を夢想し、
生唾ゴックンするのであった。
(おわり)
 
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