後悔、反省を美化する
B師匠の独演会にゲスト出演できた。
我々の持ち時間は25分、本当に久しぶりに
良い出来の高座をつとめることができた。
楽屋でB師匠が、
「もう20年、1年1回、ここでやっとるからねぇ。
始めはお客さんも落語なんぞ
知らん人ばっかりやったから、ポカ~ンとしとったわ」
「それが、続けるもんやねぇ、
お客さんが育ったんやねぇ。
今はちゃんと、ツボで笑ってくれるもんねぇ」
そうか、そうだったのか。
いつもいつも、B師匠の高座に出させてもらうと
良い出来で、それが私の実力だと思っていた。
「おいらだって、やればできるんだよ。
ふっふっふ」
なんてね。
なんのことはない、B師匠が育てたお客さんだから、
演芸を見ることに慣れていて、
それで反応がめちゃ良かったのだ。
このところ、どうにも出来の悪い仕事が続いていた。
なんだか笑いがうすく、さびしい。
そりゃそうだ、私の仕事は
ホテル開催の企業パーティにゲスト出演することが多く、
特に演芸を楽しもうと
集まった観客の前で演じることは少なかったのだ。
お客さんにしてみれば、会食の途中に突然、
「さぁ、マジック・ショーを楽しみましょう~!」
なんて言われても、戸惑うばかりだろう。
やっとステージを見つめてくれる頃には、
最後のネタになっている。
やれやれ。
どんな観客であろうと、すぐさま一気に
観客の関心をつかみ、ドカンドカンとウケるのが
プロだとは思うけれど。
思うけれど、さ。
しかし、出来が悪い、ウケがさびしいからと反省、
後悔してはいけないと思う。
反省しても後悔しても、
次の仕事に良い影響を与えることなんてない。
むしろ、気持ちがドヨ~ン。
そこで私は考えた。
出来の悪い日は、それでもややウケたこと、
まぁまぁ笑いをとれたことを手帳に書く。
暗い過去を、
「まぁ、良かったんじゃないの。
うん、がんばったよ。
客が悪かったわりには、しっかりウケた、むふふ」
くらいに美化してしまうのだ。
そうすると、次の仕事にも明るく臨めるというもの。
「ふっふっふ、こりゃぁいい、へっへっへ」
さて、今日の仕事も大変だった。
手帳には、
「いやぁ、最後のネタはドッカ~ン!
大爆笑~!」
そう書こうと、出番が終わった直後に思う私であった。
 
|