ざんねんなマジシャン
『ざんねんないきもの』という本が売れているようだ。
アライグマは食べ物を洗わない、
サイの角はただのイボなど、
動物のざんねん情報が満載らしい。
面白そうだから買ってみようと本屋さんに向かう
途中、あるマジシャンのことを思い出した。
そう、彼こそ『ざんねんなマジシャン』だった。
彼は、たくさんの動物を出現させるマジシャン。
ハトやウサギはもちろん、犬や猫も出現させた。
空っぽの箱から、何匹もの犬を出現させるマジック。
彼は犬の頭を持って、強引に引っ張り出す。
3匹目の犬を引っ張り出そうとした瞬間、
犬が彼の手をガブリ‥‥。
飼い犬に手を噛まれて苦悶する、
ざんねんなマジシャンの悲鳴が小さく聞こえてきた。
それでも、彼は次々と動物を出現させ続けた。
すると、会場に詰めかけていた
動物愛護団体らしい外国人たちが
『 Save Animal 』と書かれた横断幕を掲げつつ、
「 Save Animal ~!」
と叫び始めた。
ところが、彼は英語がまったく理解できないようで、
「サンキュー、サンキュー」
と、ざんねんな返事を返した。
動物マジシャンは、小さな猿も飼っていた。
家では放し飼いにして可愛がり、
「頭が良くてね、夜中に冷蔵庫を開けて
バナナを食べちゃうんだよ」
「ただ、冷蔵庫を開けることはできるのに、
閉めることはできないんだよ。
だから、朝になると冷蔵庫の中のものが
全部ドロドロになっちゃってて‥‥」
ざんねんなマジシャンのペットは、
ざんねん動物であった。
もうひとり、ざんねんなマジシャンがいた。
彼は、白い紙を1万円札に変えてしまうマジシャン。
初日は10枚の白い紙を10万円に変えていたが、
翌日は8枚の紙を8万円に変え、
翌々日は6枚を6万円に‥‥。
最終日には、10枚の紙を
10枚の千円札に変えるだけだった。
「いやぁ、毎晩の飲み代に使っちゃってさ」
錬金術のような、夢のようなマジックは、
最終日に侘しく、
ざんねんなマジックに変貌していた。
様々にざんねんなマジシャンを思い出しながら、
「そういえば、私も相当に
ざんねんなマジシャンなのかも、へへへ」
ついつい、ざんねんな苦笑いをした。
 
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