邯鄲(かんたん)夢の枕
2018-10-21
マジシャンになる以前、
マジック道具やマジック関連の本を売る店で働いていた。
マジック道具のカタログ本も多数あり、
その中に『邯鄲(かんたん)夢の枕』という
マジック道具があった。
『邯鄲、夢の枕』マジックは、
美女が竹竿1本の上に横たわり、
まるで竹竿を枕にして
眠っているように見えるというマジック。
そんなマジックが、
なぜ『邯鄲、夢の枕』というタイトルなのか?
昔のことだから、スマホで調べることもできない。
そこで、名付けた店主に聞いてみると、
「昔々、ある青年が中国の邯鄲というところを
尋ねたそうな。
で、老人から枕を借りて眠っていると、
青年の未来、栄耀栄華を極める人生の夢を見た。
しかし、目覚めてみれば、
ほんのわずかな時間の夢にすぎなかった。
つまり、人生のはかなさを
『邯鄲の夢の枕』で知ったということじゃのう」
私は店主の教養の高さに驚くとともに、
『邯鄲、夢の枕』というマジックが、
とても素晴らしいマジックに思えたものだ。
『邯鄲、夢の枕』というタイトルのマジックは、
英語では何という名が付いているのだろう?
気になって外国のカタログをめくってみると、
『 Floating Lady 』とあった。
『浮いている淑女』。
そのまんま。
小学校を巡って公演してきた。
マジックを通して、子供たちに人間の盲点、死角、
思い込みなどを感じてもらう、特別授業である。
そこで驚くのが、最近の子供たちの名前。
『楓(かえで)』さんかと思えば、
『楓(ハイジ)』さんだったり。
ネットで調べてみると、
最近の人気キラキラ・ネームは
篤朱(アッシュ)さん、蘭人(ランド)さん、
奈七(ナナナ)さん、などらしい。
激しく困惑していると、担任の先生が、
「小石さんの名前は『至誠(しせい)』さん。
すごいキラキラ・ネームですよね」
そうなの?
ー明るく軽く親切なのに。
ほんの少し悲しみの味がするのだ。
マジックというのが、もともとそういう
素性のものなのだろうか。ー
糸井重里(帯コピーより)
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