花見会・平成最終章
2019-04-07
< 桜と焼肉 >
「焼肉を食べながら、
桜を見られる店があるんですよ。
小石さん、行きませんか?」
ふたつ返事でOKした私は、
急ぎ足で焼肉店に向かった。
案内されて席につくと、オーナーさんが、
「この席だけ、額に入った桜の絵のように、
窓から道の向こうの桜が見えるんです」
確かに、細い道の向こう側に桜の大木が
満開の枝を四方に伸ばしている。
桜を愛でながら、おいしい肉を焼く。
タン塩にネギをたっぷり乗せ、
そいつをくるりと巻いて口に放り込む。
肉の脂の甘みとネギの苦味、
それらをしっかり噛み締めたら、生ビールを投入。
これぞ三位一体、じゃなくて三味一体。
さて、お次はハラミですよと網に乗せ、
ふと窓の外を見ると、道は大渋滞。
桜を隠すように、大きなトラックが止まったまま
動かない。
サクラの絵が、トラックの絵に変わったのだ。
と、運転席のおじさんと目が合った。
「まだ5時過ぎたばっかり、なのにお前ら、
焼肉でビールかい。
こちとらまだまだ仕事、しかもこの渋滞」
「俺のトラックで桜が見えないから、
とっとと動け、走り去れ、みたいな顔しやがって」
とでも言っているように思えた。
すると同席の友人、タレを絡ませたハラミを
口に入れ、わざとらしく恍惚の表情を浮かべるではないか。
あおり運転ならぬ、あおり焼肉。
おじさんが怒って飛び出してくるかと思いきや、
急に道が空いて走り去った。
再び平和な桜の絵が、窓に戻ってきた。
< 桜とマジックと真実 >
マジシャンが集う花見会が、毎年ある。
幹事の方がマジックに造詣が深く、
氏のおメガネに叶った優秀なマジシャンだけが
招かれるという、
マジック界でウワサの花見会。
ご馳走とおいしいワインを存分に味わい、
ダメなマジシャンの悪口を言い合いながら、
ライトアップされた桜を愛でるという、
実に品の良い花見会。
途中で、自慢のマジックを披露し合う。
「じゃ、小石さん、1枚引いてください」
満開の桜に負けない、鮮やかなマジックの花盛り。
トリはやはり、幹事さんのマジック。
なにこれ、この不思議なマジック。
私もマジシャンだけど、タネがまるで検討つかない。
こんなすごいマジシャンだけを招く花見会に、
よくもまぁ、私を呼んでくれるなぁと、
いつも疑問に思っていた。
しかし、私は初めて気づいてしまった。
毎年欠かさず呼ばれるのは、
私がマジックを見て驚く、とっても珍しい、
おそらく唯一のマジシャンだからということに。
マジシャンばかりの花見会には、
見てびっくりする役、『サクラ』が必要。
おいおい。
ー明るく軽く親切なのに。
ほんの少し悲しみの味がするのだ。
マジックというのが、もともとそういう
素性のものなのだろうか。ー
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