芸人おじさんが絶品ランチに出会うまで
2019-08-25
私は世間知らずである。
なんせ長い芸人生活、
世間の常識を知らぬまま、
おじさんになってしまった。
世間知らず芸人に世間は冷たい。
猛暑だけど。
「今日のランチは、ペースト状になった納豆と
アサリの出汁の絶妙なる味わいのパスタ、
これで決まり」
いそいそと出かけたパスタ屋さんの店先に、
『◯日までお盆休みをいただきます』
の張り紙‥‥。
お盆休みとあらば仕方ない、
ではあのカフェの
梅山豚の白ワイン煮、これでいきましょう。
テクテク歩いてきた私の眼前に、
『◯月◯日まで、お盆休みをいただきます』
という、残酷な張り紙。
むむむ、これはいかんと歩き出し、
今度こそと精進中華の店へ。
この店の五目あんかけ焼きそばが大好きだ。
クロレラ麺のツルッとした喉ごし、
キクラゲ、白菜、海老の香り喉ごし舌触り。
2度あることは3度ある。
『今日のランチまでお盆休み、夜から通常営業』
激しく混乱した私は、
思わず夜まで待とうとさえ思ったが、
それでは餓死するかもしれない。
こうなりゃ仕方ない、
電車に乗って蕎麦を食いに行こう。
ここの鴨せいろは美味しい。
熱く濃いめの出汁に鴨の脂が浮かんでいる。
そこに冷たい蕎麦をちょいとつけ、
あとはただ
たぐる、たぐる。
3度あることは何度でもあるのか。
『本日、内装工事のため休業いたします』
こうなれば、何でもある
デパートのレストラン街へ。
だが、和洋中、どの店先も長蛇の列ばかり。
途方に暮れていると、
奥の方に行列なしの店を発見。
なんと、とんとご無沙汰の鰻屋さん。
お盆休みに翻弄され続けた芸人おじさんに、
ご褒美のような鰻重、香ばしい鰻重、
柔らかくとろけるような鰻重。
「来年のお盆休みにも、鰻重を食べよう」
気も早く決意する私であった。