糸井 |
でも、吉本さんは聞いていたかどうかわからない
ですけど、失礼な話なんですけど、
吉本さん家のお母さんが、
「お父ちゃんのいい人ぶりは、
お父ちゃんのお父さんに比べると本物じゃない」という。
船大工のお父さんのことを
本当にこの人っていうのはいいなあと思ったけど、
お父ちゃんのはそのまねだからって。(笑) |
吉本 |
いや、そうです。それは子供にも言われて。
だけど、下の子からあまり聞かないけど、
上の子からは聞いたことがあって、
要するに、まだ小さいときですよ。
小さいときっていうか、
中学生か高校に行き始めぐらいのときに、
要するに、
「お父ちゃんは人間を愛してるんであって、
私たち子供を愛しているっていうんじゃないんだよ」
って言って。 |
糸井 |
はーっ、すごい。 |
吉本 |
意識的なんでしょうね。
意識的で、つまりまねしてるっていうか、
本物じゃないというあれなんでしょうね。
これはちょっと、やられたなっていう感じで、
これは今でも僕は覚えてて。 |
糸井 |
もう自分のせいじゃないところですよね。 |
吉本 |
そうなんですね。
これはそうで、僕はそういうことは、
自分の考え方の中にも入ってます。
今でも大まじめな考え方にも入っていますけど、
要するに、泳ぐというのはかなり早いときから
できたんだけれども、潜るというのはできないんですよ。
潜るというか、水の中で少しあれしているとか。
うちの子供は得意でよく潜ったりなんかする。
底から何か拾ったとかなんかいってやっているけど、
あの潜るというのはできないんですよ。
できないのはなぜかと言ったら、怖いというのが。
恐怖なんですね。
それからもう一つは、やっぱり潜るために息をつめると、
普通だったら一分間ぐらいちゃんとしないでできるぜっと
思うんだけど、陸地ではできると思うんだけど、
あれを、意図的に、よしっていう、
息つめるぞとかいって潜ると、
たちまちのうちに苦しくなって上がっちゃうんですよね。
そうなんですよ。僕はものすごく潜るのが
今でも怖いというのがあるんですよね。
それはなぜかと考えると、僕は、
おふくろさんには悪いけどね、
おふくろさんの胎内にいたときに、多分、
おふくろはうんと苦労したり、
うんと不安とか心配とかがあったり、
そういう状態があったんだろうなと
いうふうに理解しているんですけどね。
だから、重要だぜっていう、
つまり胎内というのと、
生まれてから一歳未満といいますか、
それはものすごく重要だぜというのが
僕の考えにありますけど。
今でもありますけど、僕はやっぱりそういう、
どうもおれは潜るのが、
水の中へ潜るのが怖いっていうのは
やっぱりそれじゃないかなって思うんですね。
そういうあれがあるからじゃないかな
という解釈をとるんですよね。
それは、もう一つだけそういうのがあって、
証拠があってというか、証拠があってね、
僕、米沢の高工にいたときに、
夏の水泳大会だとか、ああいう、
クラス対抗水泳大会だとかいって、
寒いところですから、
本格的にあんまり泳げる人というのは少ないわけですけど、
それで、おまえ、息が続くだろうから
ちょっと何もしないで、泳がなくていいから
プールのあれにつかまって潜ってるっていう、
潜ってる長さをあれする、それに出ろなんて言われて。
よし、出ようかなんていって出たんだけど、
たちまちのうちに、
三十秒もたたねえうちにもう上がってきちゃって、
何だおまえはって、とんでもねえじゃねえかとかって、
言われたのを覚えているんですけどね。
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糸井 |
水泳は上手だったのに……。 |
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吉本 |
そうなんですよ。
だから、やれやれって言われて、よしっなんてやったら、
とにかく三十秒もたたねえうちに、
うんっていってもう出てきちゃったんです。
すごいやつはね、やっぱり4分ぐらいいましたよ。 |
糸井 |
おー、行者みたいな人ですね。 |
吉本 |
同級生でいましたよ、同じクラスのやつ。
こうやって4分ぐらい平気だっていうのが
ありましたからね、
やっぱりすげえやつもいるもんだなと思って。
僕はね、そんな一分ぐらいなら、
1分ちょっとならできるだろうなんて、
こういうふうにやってたらさ、冗談じゃねえよなんて、
とにかく、すぐ、ほとんど、
30秒ぐらいで顔上げて。
だから友達から何だよって怒られちゃってね、
とんでもねえなんて言われちゃったことが
ありましたけどね。
だから僕はだめなんです、水の中。 |
糸井 |
対立的に水といるんですね。 |
吉本 |
そうそう。水に潜るということが怖いんですね。
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糸井 |
それとさっきの鶴見和子さんの話に関係して、
周りの人に迷惑をかけないとか、
甘えたくないということとのつながり方というのは
はっきりありますね。 |
吉本 |
ありますね。僕はあると思います。
それはそうだと思います。
だから、大抵、そういう人、過剰に気を使い過ぎだとか、
そういうのであんまり人のあれ、迷惑にならんように、
そういうふうに考えてあれする人っていうのは、
多分、胎内か一歳未満ぐらいの赤ん坊ぐらいのときの
あれがよくなかったんじゃないかなというふうに。
僕はそういう解釈をしちゃいますね。
自分がそうだから、そう解釈しちゃいますね。
それで、僕は、逆に、なぜそうなのか、
なぜそうなったかを考えたんですね。
そしたら、やっぱり僕の一歳未満とか胎内というのは、
要するに、おやじさんとかおふくろさんが
郷里から無断出奔、東京に出奔してきてね。
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糸井 |
佃にいた。
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吉本 |
そこら辺にあれして、さて、就職を、
どこで働こうかとか、就職をどうしようかとか、
そんなことをやっていた時期に該当するんですよ。
だから、おれはそれだというふうに
思っているわけですけどね。
思い決めているわけですけどね。
それで、かなりこれは確かな理論じゃないかと思って
今でもいるわけですけどね。
僕は何かそんな気がするんですね。
それで、本当ならば、
おふくろさんやおやじさんが生きているとき聞けば、
聞いてみたいわけですけど、それはきっと聞いても、
多分正直には言わんだろうなとは思いますね。
言わんだろうなと思いますけどね。
だけど、弟の嫁さんなんかには、おふくろは、
あの子は赤ん坊のときに苦労したからねーとかって
言ったことがありますよとかって言ってましたけどね。
赤ん坊で苦労っていったって、
何も、お乳飲んであれしてただけじゃないかということに
なるんだけれども、
多分そういうことを言ってるんじゃないかなという。
自分が大変だった時期に赤ん坊だったという、
そういうことじゃないかなと思いますけどね。
何か言ってるのね。
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糸井 |
多分、僕は、吉本さんの書いたものとか
理解し切れていないんだけど、
感情的につながった感じがする.
特に詩のときとかそうなんですけれども、
なじまない世界と
どういうふうに自分が折り合っていくか
っていうことに触れる部分で、
いつでも、わかるんだよなという。(笑)
同じ、だから、きっと、
おなかの中をきっと経験したんでしょうね。
転んだときにでも、
助け起こされるよりは、
見てないでくれ、起きるからっていうようなところ。
つまり甘え下手(へた)な。
とにかく自分は迷惑かけないでいたいと。
それは発想としては相当貧乏くさいと思うんですよ。
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吉本 |
それは貧乏くさいんだけどね。そうですよね。 |
糸井 |
やっぱり平気で甘えられる人っていうのは、
豊かに思えるんですね。
どっちが人間的かというと、
やっぱり平気で甘えられるところにいる人のほうが
かっこいいと思うんですよ。
できないから、無理やりに、
過剰にえばったふりをしてみたり、
えいやって言わないとできない。(笑) |
吉本 |
そうですね。
だから、僕がよく知の三馬鹿だというふうにからかっている
蓮実重彦というのは、多分経済的とか社会的には大変いい、
あの人は昔のあれで言うと、爵位を持った家だから、
男爵家ですから、そういう意味合いでは、
銭とか生活とかっていう意味ではあれだったんでしょう
けど、僕はあいつに会ったとき、
いっぺんで何となくわかったと思ったってところは、
やっぱりこの人、育ちよくないよと。 |
(では、今回はこのへんで) |