第5回
プロセスの価値。
- 三國
-
皆川さんが、
自分の分担として
デザインの仕事をなさっているときに、
いちばん興奮するのはどういうときですか?
- 皆川
-
図案を描いてるときは、
「絵を描く」個人の満足がものすごくあります。
そして、描きながら、
工場の人に渡すときのプロセスを考えるのも、
醍醐味があるんですよ。
モノの価値から離れて、
プロセスの価値に変換するということなんですが、
それはそれで、とてもたのしいことです。
- 三國
-
それはとてもよくわかります。
モノからプロセス、そうですよね。
「プロセスの価値」というのは発見だ。
すごくいいです。
- 皆川
-
はい、ほんとうに、そうですね。
三國さんがなさっている、
編みものはとくに
そういうものだと思います。
- 三國
- はい。
- 皆川
-
最終的に、お客さまが受け取って、
その方なりの喜びになっていくときに、
また変換されるんですよ。
喜びの形がお客さまによって最後に変換するときに、
そのプロセスにいた人たちすべてが報われます。
それをどうやって組み立てれば
「誰もがいい」という状態になるだろうか。
もちろんうちの社員も、
それによって暮らすわけです。
「それがみんなOKかな?」と
チェックするのがぼくの仕事のたのしみです。
- 三國
-
「みんなニコニコして仕事してるかな?」
って、気になりますね。
- 皆川
-
そうそう、ほんとうに。
そして、ぼくたちは
たのしいだけじゃない、
いろんな感情を持って生きています。
- 三國
- そうですね。
- 皆川
-
「ここ、しんどいな」と思ってる先に、
「あ、こんなことが待ってたか」
ということもあるでしょう。
山を登るのと同じように、
生きるか死ぬかの先に
何かが起こることもあります。
- 三國
-
誰にもわからないところに
ひとりずつが行って、
取り組んでいかないといけないです。
- 皆川
-
そうですね、安全なことばかりではありません。
さきほども言ったように、
トライアルをどう入れていくかも肝心です。
でも、それはまったく無理なことじゃなく、
ほんとうにちょっとずつ、
「あ、気づいたら行けた」というようなことが
いい気がします。
「ほんとうはここに行きたいんだけど、
いまの状態を考えれば、今シーズンはここまでだな」
そういうことを考えるのも、
自分の仕事だと思います。
- 三國
-
できないことは、
できることの積み重ねで
いつかできていくものですね。
- 皆川
-
そうそう。
急にむずかしいことを言われて
「できない自分はだめだ」というふうに
思っちゃわないで、
自分の力の積み重ねで
「行けるところまで行っちゃった」
ということがあると思います。
- 三國
-
私の場合、本を読んでくれた人に
「編んでもらう」という仕事を作っているのが、
じつは誇りなんです。
- 皆川
-
ああ、ほんとに。
読者が編むんですよね。
喜びの段階が広がっている、
すごいことです。
- 三國
-
自分の仕事をここに見つけてくれたら、
とてもうれしい。
- 皆川
- うん、そうですよね。
- 三國
-
今回の本を発売して、
3週目くらいにイベントをしたら、
もう編んで、
着てきてくれる人がいらっしゃいました。
- 皆川
-
そうなんですか。
すばらしいですね。
- 三國
-
それから、今回、
この本に登場してくれた方々も
私たちのプロセスのよろこびに
おおいに関わってくださっています。
じつはどなたも、編みものをする人が
いなかったんですよ。
ですから、リクエストが正直でした。
どんなセーターがいいかと訊くと、みなさん
「軽いのがいい」
「チクチクしないのがいい」
ということが最優先。
着る人にとっての都合が身にしみました。
それがいかに大事なことか
気づきました。
- 皆川
-
こういったテーマの本を
どうして作ろうと思ったんですか?
- 三國
-
編みものと関係のない人たちと
編みものについてしゃべりたかった、
ということがきっかけでした。
手編みのニットって、だんだん、
要らんものになってきてる気がします。
なので、
「ニットよ、がんばれ。
もうちょっと人の役に立つものになれ。
そのために、みんなのリクエストを聞いて、
いま、編んでみよう」
と思ったのだと思います。
- 皆川
-
これが広がって、もういちど、
家族のためのニットを作るような風習になったら、
とてもいいなぁ。
昔、子どもの服を親が作ったみたいに。
- 三國
-
そうですね、
お姉さんのセーターを
皆川さんが着ていらしたように‥‥。
編みものをするとき、たぶん最初に気にするのは
自分の編む手加減くらいなもので、
あとは「なんとなく」「ざっくり」でできます。
だから、みなさんに
気軽にやってみてほしいなと思います。
- 皆川
-
いつかこの製図をパッと見て、
グラフィックにしか見えていないものが
「あぁ、これはこうだな」と思えてきたら
たのしいでしょうね。
ぼくにも編めますか?
- 三國
-
編めます。
いつか、いっしょに編みましょう。
- 皆川
-
ありがとうございます。
今日はお会いできてうれしかったです。
- 三國
-
こちらこそ、お話できて
うれしかったです。
ありがとうございました。
(おしまいです)
2017-03-02-THU