福本伸行という漫画家は、
『カイジ』の大ヒットで
知らぬもののない流行作家になったけれど、
『カイジ』以外の入り口から、
福本伸行を読みはじめたファンが多数いる。
麻雀コミックで連載されていた『天』や『アカギ』
という作品で彼を知っていた人たちもいるし、
ぼくのような『銀と金』を入り口にして
夢中になりはじめた読者もいる。
福本伸行をおもしろがりはじめた読者が、
ほとんど同じように口にするのは、
「画が、あれなんだけどさぁ‥‥」という台詞である。
人にすすめたいのに、「画」に問題があるので、
相手が好きになってくれるかどうか心配、なのだ。
それでも、「画がなぁ」と思いつつでも
読みはじめてくれる人は「おもしろい!」と言ってくれる。
それだけのすごみのあるシリーズなのである。
もともと、ぼくはマンガ評論家の呉智英先生に、
なんだったか差し上げたときに、
お礼ということでいただいたのがきっかけである。
「ちょっと画があれなんで、
気に入るかどうかわからないんだけどさ、
イトイは、たぶん知らないと思うんで」と、
さんざん注釈をつけられながら渡された。
たしかに、画のことは気になったけれど、
読みはじめてすぐに引き込まれた。
一巻読み終わるごとに、家人が引き継いで読み出した。
競輪や競馬、麻雀などのように、
男性におもしろがられるマンガだと思っていたが、
女性も惹きつけるということも、よくわかった。
「画がねぇ‥‥」と言いながらだったけれど。
一切、内容に触れずに、『銀と金』を紹介した。
ちなみに、もうっちょっとだけ付け加えると、
「画」は、なれると「わぁ、これこれ!」と、
なつかしいようなうれしい感じになります。
ニンニクとかパクチーみたいなものと同じです。
そして、この『銀と金』というマンガ、
「全巻コンプリート」はできません。
疑似的にはできますが、マンガ、まだ終わってないのです。
「休載中」という建前のまま、10数年とか経ってないか?
(糸井重里) |