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雑誌『編集会議』の連載対談
まるごと版。

1.ひさしぶりです、原田永幸さん篇。

第5回 コンビニのおにぎり・吉野家の牛丼

糸井 原田さんの運転手さんに、
内緒のことをきいたのよ。
原田さんに「車出すよ」って言われて、
運転手さんだけ借りて、乗ったの。
「運転手さん、ラーメン食う気ない?」
と言って、ラーメン食いにいったのよ。
原田 (笑)
糸井 いやあ、ぼくはもう、
運転手さん借りているわけだからね。
それはオッケーですよ。
で、食ってるときに、
「原田さんも、忙しいから、
 普段ろくなもん食ってないでしょ?」
ときいたのよ。そしたら、
「そうですねー。車のなかでおにぎりだとか」
って(笑)。

自分とおんなじことを、
このオフィスの社長がやってるわけで、
それをできるひとなんですよね。
昼食会を特別なメニューで催すわけじゃなくて、
社長が、メールチェックをしながら
車のなかでおにぎり食ってるっていったら、
何の因果でって話になりますよね(笑)。
原田 そういう話になりましたので
余談になりますけど、うちの娘は
テレビ局につとめているんですよ。
その娘が、職場で
「それでも社長令嬢か」
って言われるらしいんです。
糸井 ははは。
原田 「うちの父も、吉野屋の牛丼が大好きなんです」
なんて言うと、うそだろって、社長が
行くわけないだろっていうらしいんですけど。
糸井 文化が違うんですね。
原田 ぼく、吉野家に行くのなんて当たり前ですよ。
社長という「ポジション」じゃないんです。
アップルというなかでの「職種」なんです。
広報とかとおんなじように、ただ、
社長というやくわりをやってるだけなんです。
糸井 イメージは、船ですよね。
船で、舵とりをするときには
「えらい」というよりは、
「ちゃんと舵を取る」ことが大事ですよね。
おそらく原田さんは、舵とりをやっているんです。
遠くから双眼鏡で見たときには
原田さんが見えるというくらいなのでしょう。
昔の組織って、ピラミッドをそのまま
車つけて動かしたみたいなところあって、
倒しちゃわない限りは、
見えないし、進まないですよね。
その、アフリカで人類のもとになったひとが
出てきたとき、平原にぽんと出てきたひとが
人類になったわけだけど、
遠くを見るときには、平らな場所で
背伸びをしなきゃいけない。
背伸びをするつもりで立ったんだよ。
原田 わたしはね、
インターネット社会になったからこそ
今申しあげたような、わたしは社長という
ポジションじゃなくて職種なんだよという
経営スタイルに変わってきたと思うんですね。
ウェブパブリッシングもまったくおなじなんです。
大手が力でやっいく時代じゃないんです。
やっぱり質を求めていく。いいものはいいんです。
パブリッシングの昔の伝統があるといえば
いい響きかもしれないですが、
「伝統」イコール「障壁」
かもしれないじゃないですか。
それを打ち破る大きなチャンスなので、
若いやつが無邪気にやってるところが。
ぼくは勝つような気がします。
糸井 「無邪気」。無邪気っていいですね。
原田 アップルはそういう意味で、
とても無邪気なところがある。
たとえば、92年に、
日本女子プロゴルフのスポンサーをやったんです。
そのときは、ちょうどクアドラという商品に
TVチューナーが入るときだったので、
わたしの考えで人工衛星を借りて、
銀座にクアドラを置いて、衛星で中継をやりました。
ただの中継じゃおもしろくないから、
マウスを使って
「何番ホールを見たい」
とかをできるようにもしたんです。
うちの連中がおもしろがっていたらできた。
そのときに、マガジンハウスで発表会をしました。
ゲストのかたを、郵政省まで呼んだんです。
あとで考えたらぞーっとした。
何も考えずに(笑)・・・
だから、あれはアップルだからできたの。
普通はまず郵政大臣に
「よろしいでしょうか?」
ってうかがいに行くじゃないですか。

これを無邪気にやれるところ、ね。
だから「Think different.」って言えるんですよ。
糸井 その無邪気でひどい目にあったことはありませんか?
原田 それは、ありますよ。

(つづく)

2000-04-19-WED

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