糸井 |
原田さんの運転手さんに、
内緒のことをきいたのよ。
原田さんに「車出すよ」って言われて、
運転手さんだけ借りて、乗ったの。
「運転手さん、ラーメン食う気ない?」
と言って、ラーメン食いにいったのよ。 |
原田 |
(笑) |
糸井 |
いやあ、ぼくはもう、
運転手さん借りているわけだからね。
それはオッケーですよ。
で、食ってるときに、
「原田さんも、忙しいから、
普段ろくなもん食ってないでしょ?」
ときいたのよ。そしたら、
「そうですねー。車のなかでおにぎりだとか」
って(笑)。
自分とおんなじことを、
このオフィスの社長がやってるわけで、
それをできるひとなんですよね。
昼食会を特別なメニューで催すわけじゃなくて、
社長が、メールチェックをしながら
車のなかでおにぎり食ってるっていったら、
何の因果でって話になりますよね(笑)。 |
原田 |
そういう話になりましたので
余談になりますけど、うちの娘は
テレビ局につとめているんですよ。
その娘が、職場で
「それでも社長令嬢か」
って言われるらしいんです。 |
糸井 |
ははは。 |
原田 |
「うちの父も、吉野屋の牛丼が大好きなんです」
なんて言うと、うそだろって、社長が
行くわけないだろっていうらしいんですけど。 |
糸井 |
文化が違うんですね。 |
原田 |
ぼく、吉野家に行くのなんて当たり前ですよ。
社長という「ポジション」じゃないんです。
アップルというなかでの「職種」なんです。
広報とかとおんなじように、ただ、
社長というやくわりをやってるだけなんです。 |
糸井 |
イメージは、船ですよね。
船で、舵とりをするときには
「えらい」というよりは、
「ちゃんと舵を取る」ことが大事ですよね。
おそらく原田さんは、舵とりをやっているんです。
遠くから双眼鏡で見たときには
原田さんが見えるというくらいなのでしょう。
昔の組織って、ピラミッドをそのまま
車つけて動かしたみたいなところあって、
倒しちゃわない限りは、
見えないし、進まないですよね。
その、アフリカで人類のもとになったひとが
出てきたとき、平原にぽんと出てきたひとが
人類になったわけだけど、
遠くを見るときには、平らな場所で
背伸びをしなきゃいけない。
背伸びをするつもりで立ったんだよ。 |
原田 |
わたしはね、
インターネット社会になったからこそ
今申しあげたような、わたしは社長という
ポジションじゃなくて職種なんだよという
経営スタイルに変わってきたと思うんですね。
ウェブパブリッシングもまったくおなじなんです。
大手が力でやっいく時代じゃないんです。
やっぱり質を求めていく。いいものはいいんです。
パブリッシングの昔の伝統があるといえば
いい響きかもしれないですが、
「伝統」イコール「障壁」
かもしれないじゃないですか。
それを打ち破る大きなチャンスなので、
若いやつが無邪気にやってるところが。
ぼくは勝つような気がします。 |
糸井 |
「無邪気」。無邪気っていいですね。 |
原田 |
アップルはそういう意味で、
とても無邪気なところがある。
たとえば、92年に、
日本女子プロゴルフのスポンサーをやったんです。
そのときは、ちょうどクアドラという商品に
TVチューナーが入るときだったので、
わたしの考えで人工衛星を借りて、
銀座にクアドラを置いて、衛星で中継をやりました。
ただの中継じゃおもしろくないから、
マウスを使って
「何番ホールを見たい」
とかをできるようにもしたんです。
うちの連中がおもしろがっていたらできた。
そのときに、マガジンハウスで発表会をしました。
ゲストのかたを、郵政省まで呼んだんです。
あとで考えたらぞーっとした。
何も考えずに(笑)・・・
だから、あれはアップルだからできたの。
普通はまず郵政大臣に
「よろしいでしょうか?」
ってうかがいに行くじゃないですか。
これを無邪気にやれるところ、ね。
だから「Think different.」って言えるんですよ。 |
糸井 |
その無邪気でひどい目にあったことはありませんか? |
原田 |
それは、ありますよ。
(つづく) |