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雑誌『編集会議』の連載対談
まるごと版。

1.ひさしぶりです、原田永幸さん篇。

第10回 一生懸命すりあわせる

糸井 朝日広告賞でアップルが
企業部門で一等賞になったんですけど、
あれ、広告クリエイティブとして
どんなにすごいかっていうのでは
ないんですよ、実は。
あれは。製品をつくるときから
表現まで一環して
クリエイティブが勝負しているというのを
伝えたってことが1番大事だったんですよ。

つまり、どういう風に上手に言えば
広告がつくれるんだろうという発想ではなくて、
作ってるときからクリエイティブははじまってて、
そのクリエイティブをあったかいうちに、
おれたちの思う方法でただ出すという表現ですよね。
うまいことひとつも入ってないんですよ。
ぽん、と出してる。
あれが、インパクトがある・・・。
結局、あのときに入ったのは、
アップルとユニクロとナイキです。
さっきの言葉で言うと、
おにぎり食ってる社長のいる会社ですよ。
これは、古い審査員はびっくりします。
ぼくは、すごくうれしかったですよ。
ぼくらの仕事っていうのは、どういう風に
最終的にいい顔つくっていい表現をすれば
届くかということをしてたんですけど、
そうじゃなくて、ものはつくるときから、
・・・もっと言えば、
どんなものが欲しいかわからないときから、
全部クリエイティブに一環しているものが
はじめてお客さんに届いたっていうのがあったから。
原田 ぼく、広告の大賞が
どんなにすごいかよくわからない。
だから、何でうちなのかがわからなかったんです。
糸井 そうですよね。
サントリーでも資生堂でもない。
どう上手に伝えるかっていうのを測ったら
いろいろやりかたあるけど、
ぼくは、それじゃあもうだめだというのを、
なぜ君たちはわからないんだ、
という立場で審査員の席にいました。
ぼくがコピーライターっていう言いかたを
なるべく今やめようとしているのは、
今までの「言葉の錬金術師」とか
いろいろなおだてられかたがあるけど、
名文がものを売るなんていうのなんて、
ありっこないからなんです。

それは最後に、セールスマンのトークが
うまいというのとおんなじで、
やっぱり、さっきも言ってるように、
いい商品がちゃんとクリエイティブを
つくってるから届くんだということを、
一環してわかる人間って今誰かと言うと、
今は社長がやってるんですね。
で、ぼくらがやることって、
社長とパートナーシップを組んで
企業とパートナーを組んで、対等に、
そのデスクに一緒になってついて、
アイデアにフィーをもらうようにならない限りは、
今の広告は全部おしゃかですね。
代理店は単なる不動産屋に
本当になりさがりますね。
原田 わたしは、マーケティングの
クリエイターをやってるときには、
広告代理店のクリエイターだとかと、1年間話す。
ひとつの言葉を使います。
1年間、わたしが何を考えて
何をユ−ザーさんに伝えたいと思っているのかを、
いろんな場で何回も話すんです。
で、クリエイターのかたと感性とが、
だんだんこうすりあわせがあって、
こう、よくなってくるでしょ。
そこで、頂点に達するんですよ。
そうするとぽんと言葉が出てくるんです。

で、「創造力が目を覚ます」
という言葉が出てきたんですよ。
「感動はじまる、マッキントッシュ」
という言葉が出てきたりね、
凝縮した言葉が出てくる。
1年くらい時間かけて・・・。
今はワールドワイドでやってますから、
日本の広告もアメリカもヨーロッパも
全部おんなじなんです。
今誰がやってるかというと、ジョブスです。
ジョブスが最後に。
糸井 中小企業とおんなじなんですね。
原田 とにかく、企業のトップが、
理念を、一生懸命語って、
クリエイターのかたと感性のすりあわせをして、
想像力がピークに達したときに
出てくる言葉ですよ。
それを一生懸命伝えようとする。
糸井 それを、新日鉄の社長とはできないですよね。
原田 (笑)

(つづく)

2000-04-29-SAT

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