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雑誌『編集会議』の連載対談
まるごと版。

1.ひさしぶりです、原田永幸さん篇。

第13回 無邪気さとスティーブ・ジョブス

糸井 こないだうちは2度販売をしたんですよ。
1回目がTシャツで、2回目が袋、
「紙袋」って名づけたんですよ。
つまり、捨てて欲しいんですよ。
大事に、これはバッグだよ、と言っちゃうと
他のバッグと競争しなきゃいけないんで、
どんどん「これ原田さんにあげますよ」って、
袋ごと原田さんにあげちゃえるような
風呂敷みたいなものにして。
それが6500セット売れたんです。
それも、今の原田さんの話とおんなじで、
買いたいだけ売ろうと思ったんです。

1000枚売れたら商売になるんだけど、
売れるかなあってどきどきして、6500枚。
うれしかったですねー。
うちは結局、メンバー一緒ですから、
申し込みがたくさん来れば来たで悩むんだけど。
原田 存在するメディアを買い占めて
やるという時代ではないと思いますね。
糸井 100万個売るための方法とは違うと思うんですよ。
原田 社内でもすすめるんですよ。
メディアのイノベーションを起こせと。
存在するメディアをただ買うんじゃなくて、
ないメディアをつくるのがエネルギーだからね。
マラソンレースを見てても、
ゴールのテープにIBMって書いてあるでしょ。
あれだってメディアじゃあない。
表参道の商店街、あの両脇に
「iMacを1台ずつ置かせてください」
って言っておけば、すごいメディアになる。
そういう、ないものをつくるんです。
ウェブパブリッシングだってね、
今までにないメディアをつくれますよ。
バナー広告じゃなくてもつくれるかもしれない。
もっとこう、爆発的な、今までにない、
階層的に自分たちを探求してゆくような
広告宣伝をできるかもしれない。
糸井 全部うちからやります(笑)。
とにかく、実験はただですから。
ウェブのすごさというのは・・・
出版で実験したらそのぶん全部
赤字になるけど、考えを試すためには、
ウェブっていくらやってもただなんですよ。
これはやっぱりすごいですね。

無邪気の英語が欲しいなあー。
イノセント?うーん・・・違うな。
俺、昔ペンギンが好きで。
ペンギンって獰猛で無垢なんですよ。
南極行くとペンギン近づいてくるでしょ?
あれはなぜかというと、
敵に会ったことないからですよ。
それは無垢なんですね。
でも敵だとわかった瞬間に
ものすごく突っつく。獰猛なの。
で、ぼくは自分を
ペンギニストと言ってたんだけど
・・・イノセントかなあ?
もうちょっと楽しそうなのが欲しいね。
原田 無邪気って、直訳じゃないんですよね。
糸井 だってさ、わざわざ「邪」っていう文字入れてさ、
それを消してるわけでしょ?
「邪」の強さが欲しいよね。
原田 今までのものにこだわらない、
既成概念にこだわらない、
常識なんてなくていい、
過去のこと見ない、今のこと見ない、
次のことだけを考えてストレートに言える、
これはすばらしいことなんですね。
糸井 そうか、アメリカは
それをクレイジーにしたんだな。
原田 スティーブ・ジョブスのことを
本当にうらやましいと思ったのは、誰に対しても、
どこでも、自分の思うことを
無邪気に、ストレートに言える。
こいつはすごいや、うらやましい。
給料もらってないですからね。
今年スティーブに
大きなボーナスが出ましたけど。
糸井 アイドンケアって言いつづけなきゃいけないね、
今はねー。
原田 彼、会議やりますよね、意見言いますよね。
誰に対しても、違うと思ったら、
「I disagree with you.」
って来ますから。
相手を傷つけてるなんて思ってないですよ。
彼は自分の意見をストレートに、信念を持って
情熱を持って言っているだけですから。
糸井 彼はだけど、ジョブスっていうひとは、
ぼく本でしか知らないんだけど、
やっぱり一度は普通のひとになったのが
全部取り払って無垢になったんですか?
それとも天然なんですかね?
原田 ぼくは天然だと思う。
ベジタリアンで、水しか飲まないでしょ?
お酒飲まない、ビール飲まない。
こないだ食事してても、
3時間くらいでしたけど、
最初から最後まで仕事の話、どんな商品を
つくったらいいかという、そんな話ばっかり。
糸井 それ、楽しいんでしょ?
原田 楽しいです!
こっちでこうやってぼくが
別のひとと話しているとしますよね。
彼、きいてるんです。
で、話に乗ってくるんです。
すごい耳いいし、ずっとしゃべってて
こっち向いてくるんです。
糸井 聖徳太子だ。
原田 (笑)すごい情熱家ですよ。

(つづく)

2000-05-05-FRI

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