糸井 |
こないだ、清原を教えている
ケビン山崎さんというひとと話してて、
パワーという言葉について、
ケビンさんは全然違う解釈をするの。
パワーっていうのは、筋肉の分量じゃなくて、
ある力を伝達することなんだ、と。
子供がね、公園をお父さんと一緒に歩いてて、
噴水まで行こうっていうときに、
子供って、往復を何度もするでしょ?
あれがパワーなんですって。
つまり、お父さんと子供が歩いてて、
お父さんは噴水に向かって
まっすぐ歩いていきますよね。
だけど子供はもう噴水までたどりついていて、
また戻ってきて手をつないで、
また犬見つけて向こうに行ってわーわー言う、
ものすごい運動量ありますよね。
あれをパワーと言うそうです。 |
原田 |
なるほどね。 |
糸井 |
今の原田さんの話とおんなじじゃないですか。
目的地まで早くつくのって、意味ないんですよ。
行ったり来たり、きょろきょろしたり、
全部を何でもなくこなせるのが、
パワーなんです。 |
原田 |
ぼくドラムやってるでしょ?
ゴルフも大好きなんですね。
ゴルフは力入れちゃだめだと、
よく言われます。ゆっくり振る。
ゴルフのスイングは速く打つよりも、
ゆっくり打つことのほうがむつかしいんです。
ドラムを練習するときに、
ものすごくむつかしいパターンを
毎日おぼえていくんです。
テンポのひとつひとつを習って、家でやる。
やるときに、最初はいらいらするんですよ。
体があわない、こっちを2回、こっちを・・・
いろいろなパターンがあるんですよ。
その何十種類を覚えるときに、
ものすごく肩こるんです、最初は。
で、あるときに、「はっ」と
ブレークスルーするんですよ。
できるようになる。
そのときどうしているかというと、
何にも力入れてない。
で、すっごいパワフルな音が出る。 |
糸井 |
それ、パワーですね。 |
原田 |
それをやって、人間の体とは
すばらしいものだとぼくは思いました。
どうやって叩くかというと、
叩いたところからスティックが戻ってくる
その感触をつかまえて次のストロークに入ってく。
これは絶対に現代のロボットはできない。
ロボットであの動き、
リズムをたたかせることは絶対できない。
それくらい人間の体はすばらしい創造力を。
人間のパワーっていうのは、力じゃない。
表現の質みたいなもの。
ドラムのむつかしいパターンを覚えるのは
ぼくのドラムの先生の神保さんに言わせると、
自転車に乗るようなものなんです。
最初は体をこっち、とかやるけど、
乗ってしまえば、口笛を吹いて
隣のひとと話しながら
サイクリングをできるじゃないですか。
ドラムも、やってしまえば頭は考えてない。
テレビ見ながらできる。それもパワーですよ。 |
糸井 |
これ、もう余談どころか、
そんなに突っこんでどうするんだっていう
話になってきましたけど。
とても上手なひとと、
世界最高のドラマーとの違いって
何だと思いますか?
上の上で紙一重で何重にもランキングつきますよね。 |
原田 |
例えば田村さんに今スティック持って
ドラムをやらせてみせるとしますよね。
彼女とぼくのドラムのテクニックの差を、
まあ100倍くらいにしましょう。
神保さんとぼくの差っていうのは、
彼女からは違わなく見えるかもしれませんが、
ぼくから見たら100倍以上違う。
それくらい、プロの世界は違う。
ゴルフで言うと、90切るには家庭を捨てろ、
80切るには仕事を捨てろ、と言われますけど、
そこまでは大抵凡人でもできるんです。
その通り家庭も仕事も捨てれば。
ぼくも、80切ったことあるんですよ(笑)。 |
糸井 |
家庭、ばんばん捨てて(笑)。 |
原田 |
仕事を捨てたときもある(笑)。
だけど、プロでシングルプレーヤーになると、
ワンストロークあがるのに、
ものすごいハードルがありますよね。
それはもう、テクニックじゃないですね。
田村
何でしょうね、その差は。 |
原田 |
・・・表現力。 |
糸井 |
あ! |
原田 |
自分の世界をつくるエネルギー。
だからぼくは同じテクニックでも、
会社から帰ってきてさっとドラムに座っても
乗らないです。もちろんリズムは外さないけど、
創造していないですから。
日曜とか朝起きてまっさらなときにやると、
がんがん乗るんですよ。 |
糸井 |
表現力! |
原田 |
そう、自分の世界をつくるんですよ。 |
糸井 |
そこはもう、100倍100倍って
2度やっても足りない何かがあるんでしょうね。 |
原田 |
書道でも、黒いところよりも
白いところの美を求めろって言いますよね?
ドラムもそうです、音楽もそうです。
叩いてる瞬間じゃなくて、
音の出ない時間をどう組み立てるかが
心を揺さぶるんです。 |
糸井 |
嬉しそうだなあ(笑)。 |
原田 |
タンタン叩くのは簡単なんです、
タンタン、ターンと入るこの空間ね、
この音のでないところにリズムを感じるんです。 |
糸井 |
ぼくが何でそうきいたかというと、
今のデジタル革命って、
100倍のもう1回100倍までして、
というのは全部みんな権利がありますよ、
そのあとのことはものすごく不平等になります、
ということを、知ってて、そこまで行くのが
おもしろいと思ってるんですよ。
つまり、とんでもないものが見たくて。
みんながウェブできますよとか、
みんなが何々できますよとかいうのは、
基礎にしたうえで、やっぱりサミー・ソーサの
バッティングが見たい、っていう。
(つづく) |