糸井 |
すごく雑なことなんだけど、ぼくは最近、
「サラリーマンって会いたくない」
と言うんです。
リーダーシップを持っていないひとの話って、
きいてもおもしろくも何ともないんですよ。
ところが、どんな小さい商店の親父でも、
社長はぜんぶおもしろい。
それは、最終的に俺が決める、
というところが、勝負なんですよね。 |
田坂 |
おっしゃる通りです。
リスクを取らない人間とか
退路を断たない人間の話って、
おもしろくないんですよ。
一億総評論家の時代で、
リスクを取らずにええかっこしたい人というのが
テレビにあふれていますから、
みんながそれを無意識にやってしまうんです。
総理大臣に対してもみんないろいろ言いますが、
「じゃああなたが総理大臣をやったら?」
と聞きたい。でも、そう聞いたら
「なってみなきゃわからないな」と。 |
糸井 |
スポーツ選手を尊敬する理由はそこなんです。
絶対的なもので、代わりがないから。
スポーツ選手に会うときだけは緊張する。 |
田坂 |
マイケル・ジョーダンって
歳の割に見た目がものすごく
成熟した感じがあるじゃないですか。
プロ野球選手でも、スポーツ選手って、
けっこうみなさん修行僧のような
表情をしているときがある。
彼らは退路を断っていますよね。
この試合で結果を出さない限り、
来年はクビだというところでやっている。
人間の精神は、ああいうところに置かれ続けると、
かなりのレベルまで行くんですよ。
自己責任を持ってリスクを取って、
退路を断ってやっている人は、言葉が生きている。
暗黙知とか潜在意識が活性化しているんですよ。 |
糸井 |
インターネットを持つことで
メディアを全員が持てるようになった、
つまりそこではリーダーシップを取っている。
例えば、ぼくは掲示板をつくらないんです。
責任をもてないということと、
掲示板のレベルに思われるのが嫌だと。
つまらない意見が2日も続くと、管理人は苛立つ。
だから、実際にページをつくっている人は、
ぼくが掲示板をつくらない理由をわかると思う。
会社ではサラリーマンかもしれないけど、
自分のページでは責任者、みたいな、
そういう人が増えるのがいいなあ。 |
田坂 |
そのあたりはすごくおもしろいテーマで、
教育の根本を変えてしまえばいいと思うんです。
知識詰め込み教育だったらCD-ROMに絶対負ける。
責任を持って何かを決めるとか、
自分がいない限り何も進まない状況に立つ、
そういったことが最高の教育だと思います。
人間の知識の量と智恵とはあまり関係ない、
それが最近よくわかってきて、
知識を10倍詰めこむと智恵も10倍かというと、
全然そうではなくて。
智恵はむしろ、自分を追いつめて、
責任や情熱や志を持って
何とかしようとするときに、わきあがってくる。
潜在意識の活性化から起きるものなんです。
潜在意識から湧きあがるものを仕掛けるような
スキルって、あるんですよ。
さきほどの司会の30秒前というのはそれで、
もう自分の番だ、何も思いつかなくても、
30秒前になれば来るというのがわかるから、
何となく待っているというか。
プレッシャーはあるけど、
やはりいい感じで浮かんでくる。
本屋で友人が来るのを20分も30分も待ってて
「あいつ遅いなあ」と本屋を一周すると、
本が一冊書けるくらいの物語が
頭のなかに生まれてきますよね。 |
糸井 |
本屋に行ったら、
タイトルがいくつも浮かびますよね。
あれは、ありがたい。 |
田坂 |
本屋で見ていて、
何でこの言葉とこの言葉が
ひっかかるんだろう?と帰りの道で考えると、
そこに物語が浮かんでくる。 |
糸井 |
買うのを我慢したほうがいいかな、
というのも課題ですね。
気になるものをどんどん買うと、
いっぱいになって、読みっこない。
ぼくは今まで、
買うことにも意味があると思ってた。
目次を見るだけでも、もっと言えば
買っておしまいになっても意味がある。
もしかしたら、もっと飢えたほうがいいのかな、
買えないと思いながら本屋を歩いたほうが
もっとぴかぴかするかなあ、というのが
気になりはじめています。 |
田坂 |
それは悩ましいところですね。
さっきの話ですが、
速読法の秘訣がもしひとつあるとしたら、
著者が何を言おうとしているかを
読んではだめですよね。 |
糸井 |
そうです。 |
田坂 |
俺が何でこの人の本を読みたくなったのかを
考えるという、傲慢だけどそんな感じですよね? |
糸井 |
本を、景色として見ないとだめです。
時々は、彼の言う通りに歩いてみようというのも
おもしろいですけどね。
「もう、何でも言うことききます」
と目をつぶって著者のうしろについていくと、
「ほら、落ちた」という瞬間がある。
ぼくは最近のビジネス書を読むときに
ほとんどその読みかたをわざとするんです。
すると、問題意識のかたまりがあるから、
前半が絶対におもしろい。
で、その先、お前どうするんだ?
と読んでいったら、何にも書いていなかったり。
本を半分に切るとおもしろいかもしれない。 |
田坂 |
この著者は認めちゃう、という場合は、
自分流に読み解くのは却って失礼だから
「この人は本当は何が言いたいのかな?」
と襟を正して読むときがあります。
そこら辺は読書って多様なんです。
ただ、自分の持っている問題意識の強さ以上に
読み解けることはないということだけは、
はっきりしています。
(つづく) |