松本 |
でも、自分で情けないとき、ありますけどね。
もうちょっと偉そうにしたほうが……。 |
糸井 |
いや、俺、その1000倍くらい、そういうときあるよ。 |
松本 |
たまに情けなくなるときが、あるなあ。
あの……若い子といっしょに飯食ってて、
最後に1個残ってるのを、どうしようかなあていう。
「よし、トイレ行って帰ってきたらスッと食べたれ」って、
トイレ行って戻ってきたら、もうないとか(笑)。
そんなことで怒りたくはないし、
その状況つくったのは俺やし。
うーん、情けないとき、あるなあ。 |
糸井 |
でもね「パクッ」をやったやつに
10年経ってから会ったりすると、
意外と「パクッ」の話を覚えてたりするんですよ。
俺も具体的にいるんだけど、
「これ俺のね」って言ってあったのに、タン塩……。 |
松本 |
(爆笑)。 |
糸井 |
俺はそれが最後の1枚だと思ってた。
実はまだ肉はいっぱいあったんだけど、
アミの上で焼かれているタン塩は俺のなのよ。
ただそれだけなの。
で「これ俺のね」って言ってたのに、よりによって
ちょうどいい焼き加減でパクッってやられて。
あとの何人かは聞いてたんで、
「あいつバカヤロウ」って責めて、
「ばかやろう……」って俺も涙ぐんだんだけど、
10年経つとちゃんとわかってんの。
その10年けっこうパクパクやってきたんだろうけど、
意外となにかでは身になっているのかもしれない。
それを、絶えずクリエイティブに
維持していくっていうのは、難しいと思うんだよね。 |
松本 |
そんな自分が好きだったりもするんですけどね。
後輩にそんなことされてる情けない自分が(笑)。
帰りに僕の車にキムとかがいっしょに乗ってて、
自分の家もうすぐそこやねんけど……。 |
糸井 |
遠回りでも送っていくんでしょ?
俺もそう。 |
松本 |
そうなんですよ!
「ここで、ほな」って言えないときがあってね。
最近はさすがに言おうと思ってるんですけどね。
あと何キロ先があいつの家やったりするわけですよ。
回ってしまうんですよ。 |
糸井 |
回るよねぇ。 |
松本 |
キムラの家の先に本屋があるから、
「本屋行こうかなぁ?」なんて言ってしまうんですよ。
ほんまは、そんなに、本屋、
まあ、行ってもいいねんけど、
おまえを送りたいから俺は行くんじゃなくて、
本屋に行きたいから。ほなちょうど、降ろせるよな、
って相手に気を使わせへん口実まで
つくってしまっている自分がね……。 |
糸井 |
弱気な僕。 |
松本 |
ものすごく愛おしかったりもするんですけどね。 |
糸井 |
それは治らないと思う。
あとは上手にいばる演技をいつするかとか、
きっと加減がいるんだと思うんだよ。
たしかね「島耕作」って漫画のなかで、
ナカザワさんっていう人が社長になったときの話があって、
もともとすごく気楽な上司だったんだけど、
社長になったら前社長から時計をもらったんですよ。
立派な時計なの。
「いや、私は、これは(いただけません)」
って言ったらね、前の社長に
「これからいろんな人に会うから、今までどおりの
時計をしているとかえって失礼にあたることがある。
この時計は自分のためじゃないんだ」って言われて、
「わかりました」って言うシーンがあってね。
ああそうか、って思ったね。 |
松本 |
一理ありますよね。 |
糸井 |
あるよねぇ。
それから高倉健さんの話。
大勢で座るときには、上座は絶対に健さんなんですよ。
決まってるんですよ。
みんなと一緒に行くと「こちらへ」って案内されて、
上座に座らなきゃいけないんで、
あの人ダンディズムの人だから、
「こちらへ」を言われる前に
トイレに行っちゃうんだって。 |
松本 |
ほう。 |
糸井 |
みんなが座り終えるまで、
ウンコして待っているのかどうか知らないけど、
最後に席が残るまで、来ないらしいんだよ。
そうすると1個だけ席が空いてるんだよ。
健さんは、ただ空いてる席に座るってことなんだよね。
それが上座になってる。
そのようすを村松具視さんがじっと見ててね、
「健さん……」って。
そういうことをテクとして覚えていっているんですよね。
松ちゃんもそういう小ネタを
集めなきゃなんないのかもしれないね。意味なく。 |
松本 |
めっちゃくちゃありますね、そういうこと。 |
糸井 |
あと、これからは外国とのつながりが
もっと増えるじゃないですか、時代的には。
外国ってこれまたルールが全部ちがうじゃない。
握手とかしてる自分が、信じられないもん。
握手ってイヤだよねぇ。 |
松本 |
イヤですねえ。 |
糸井 |
恥ずかしいよねえ。 |
松本 |
僕らにはないものですからね。 |
糸井 |
「ナイッチューミーチュー」みたいなことを言ってさ、
握手するときに昔は「ちょっとちがうよなあ、俺」
って思ってたのに、今はやるのよ。
本当は「どーもイトイです」で済ませたいのに、
一歩前に出てグッと手を出す自分に
「これが時代の波か!?」って思う。
まあでも、これをやったからって、
自分が失われるわけじゃないでしょう。 |
松本 |
(笑)1人やったら、できるんですけどね。
握手しているのを見られるのが恥ずかしいですよね。
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