松本人志まじ頭。

第8回 相手に気を使わせへん口実まで

松本 でも、自分で情けないとき、ありますけどね。
もうちょっと偉そうにしたほうが……。
糸井 いや、俺、その1000倍くらい、そういうときあるよ。
松本 たまに情けなくなるときが、あるなあ。
あの……若い子といっしょに飯食ってて、
最後に1個残ってるのを、どうしようかなあていう。
「よし、トイレ行って帰ってきたらスッと食べたれ」って、
トイレ行って戻ってきたら、もうないとか(笑)。
そんなことで怒りたくはないし、
その状況つくったのは俺やし。
うーん、情けないとき、あるなあ。
糸井 でもね「パクッ」をやったやつに
10年経ってから会ったりすると、
意外と「パクッ」の話を覚えてたりするんですよ。
俺も具体的にいるんだけど、
「これ俺のね」って言ってあったのに、タン塩……。
松本 (爆笑)。
糸井 俺はそれが最後の1枚だと思ってた。
実はまだ肉はいっぱいあったんだけど、
アミの上で焼かれているタン塩は俺のなのよ。
ただそれだけなの。
で「これ俺のね」って言ってたのに、よりによって
ちょうどいい焼き加減でパクッってやられて。
あとの何人かは聞いてたんで、
「あいつバカヤロウ」って責めて、
「ばかやろう……」って俺も涙ぐんだんだけど、
10年経つとちゃんとわかってんの。
その10年けっこうパクパクやってきたんだろうけど、
意外となにかでは身になっているのかもしれない。
それを、絶えずクリエイティブに
維持していくっていうのは、難しいと思うんだよね。
松本 そんな自分が好きだったりもするんですけどね。
後輩にそんなことされてる情けない自分が(笑)。
帰りに僕の車にキムとかがいっしょに乗ってて、
自分の家もうすぐそこやねんけど……。
糸井 遠回りでも送っていくんでしょ?
俺もそう。
松本 そうなんですよ!
「ここで、ほな」って言えないときがあってね。
最近はさすがに言おうと思ってるんですけどね。
あと何キロ先があいつの家やったりするわけですよ。
回ってしまうんですよ。
糸井 回るよねぇ。
松本 キムラの家の先に本屋があるから、
「本屋行こうかなぁ?」なんて言ってしまうんですよ。
ほんまは、そんなに、本屋、
まあ、行ってもいいねんけど、
おまえを送りたいから俺は行くんじゃなくて、
本屋に行きたいから。ほなちょうど、降ろせるよな、
って相手に気を使わせへん口実まで
つくってしまっている自分がね……。
糸井 弱気な僕。
松本 ものすごく愛おしかったりもするんですけどね。
糸井 それは治らないと思う。
あとは上手にいばる演技をいつするかとか、
きっと加減がいるんだと思うんだよ。
たしかね「島耕作」って漫画のなかで、
ナカザワさんっていう人が社長になったときの話があって、
もともとすごく気楽な上司だったんだけど、
社長になったら前社長から時計をもらったんですよ。
立派な時計なの。
「いや、私は、これは(いただけません)」
って言ったらね、前の社長に
「これからいろんな人に会うから、今までどおりの
 時計をしているとかえって失礼にあたることがある。
 この時計は自分のためじゃないんだ」って言われて、
「わかりました」って言うシーンがあってね。
ああそうか、って思ったね。
松本 一理ありますよね。
糸井 あるよねぇ。
それから高倉健さんの話。
大勢で座るときには、上座は絶対に健さんなんですよ。
決まってるんですよ。
みんなと一緒に行くと「こちらへ」って案内されて、
上座に座らなきゃいけないんで、
あの人ダンディズムの人だから、
「こちらへ」を言われる前に
トイレに行っちゃうんだって。
松本 ほう。
糸井 みんなが座り終えるまで、
ウンコして待っているのかどうか知らないけど、
最後に席が残るまで、来ないらしいんだよ。
そうすると1個だけ席が空いてるんだよ。
健さんは、ただ空いてる席に座るってことなんだよね。
それが上座になってる。
そのようすを村松具視さんがじっと見ててね、
「健さん……」って。
そういうことをテクとして覚えていっているんですよね。
松ちゃんもそういう小ネタを
集めなきゃなんないのかもしれないね。意味なく。
松本 めっちゃくちゃありますね、そういうこと。
糸井 あと、これからは外国とのつながりが
もっと増えるじゃないですか、時代的には。
外国ってこれまたルールが全部ちがうじゃない。
握手とかしてる自分が、信じられないもん。
握手ってイヤだよねぇ。
松本 イヤですねえ。
糸井 恥ずかしいよねえ。
松本 僕らにはないものですからね。
糸井 「ナイッチューミーチュー」みたいなことを言ってさ、
握手するときに昔は「ちょっとちがうよなあ、俺」
って思ってたのに、今はやるのよ。
本当は「どーもイトイです」で済ませたいのに、
一歩前に出てグッと手を出す自分に
「これが時代の波か!?」って思う。
まあでも、これをやったからって、
自分が失われるわけじゃないでしょう。
松本 (笑)1人やったら、できるんですけどね。
握手しているのを見られるのが恥ずかしいですよね。

2000-01-07-FRI

BACK
戻る