松本人志まじ頭。

第9回 糸井さんそんなん言われました?

糸井 みんなに見られてると、何かがこわれる感じするよね。
それはしょうがない。
まあでも、松ちゃんはいいネタ振ってあるよね。
「松本はいばる」っていうネタを振ってあるから、
ちょっと期待されてる部分もあって得してるよね。
松本 なんかそういうイメージがついてしまいましたからね。
本当はそうじゃないんですけどね。
糸井 わかる人はわかるよ。
俺、テレビだけでもわかるなあ。
松本 そうでしょう!
わかる人は、すぐわかってくれるんですけどねぇ。
そうそう。
糸井 それ絶対わかるはずなのに、絶対わかられないよね。
いばるイメージがブランド化しちゃってるんだろうね。
昔の話で、俺20代のころ露骨に姿勢が悪かったんですよ。
で、女の子と歩いているときに、
「姿勢が悪いね」って言われて、
「それが俺なんだっ」って言ったのよ。
そしたら「へえ、それが“俺”なの?」って言われて。
いたくプライドを傷つけられて「ハッ!」として、
その日から姿勢がよくなった。悔しくて。
そんなことの連続のような気がするんだよね。
この部分は譲らないと言ってたものが、
実は意外とたいしたことなかったりして。
ロンゲ切るとかさ、みんないろいろあるじゃないですか。
ロンゲ切ったらお前はいなくなるのかって言ったら、
いるんだよね。
そのあたり、にさしかかっているのかもしれない。

おもしろいですよ。
40歳すぎてからがおもしろいよぉ。
ほんとにもう、問題がぜんぶ複雑になってきて、
半分はなにやってもオッケーなのにねぇ。
けれど同時に、そういうときって、
なにしてもイヤだっていう人が、ハッキリするんですよ。
そのときに「どうしよう」って思うのが、
すごく楽しいんですよね。

俺はこれ自慢することにしてるんだけど、
「糸井はもうダメ」って3、4回言われて
生きているんですよ。
最近でいうと、ファンみたいな人が
教えてくれたことなんだけど、
「いろんな人とくっついちゃあ、生き延びてるヤツ」
という存在なんですよ、悪い見方をすると。
でも、ずっとくっつけてきた理由があるはずなんですよ。
それは書かないとゆーか、書けないわけで、
もう永遠にわかられないから、そこはもういいんですよ。
松本 そうですか?
糸井さんそんなん言われました?
糸井 実は半分は嫌われてるんですよぉ。
松本 そうですか……?
糸井 要するに俺のことを「太鼓持ち」って言っちゃえば、
言った人はそれで全部言えた気になると思うんですよ。
でも、創っている立場どうしだと、
「ああ、これはわかるな」っていう部分があるから、
自分のこと納得してもらえるですよね。
まあ悪く言おうと思ったら簡単じゃないですか。
松本人志もいまだに「チンピラの立ち話」と言われる。
でもさ、チンピラの立ち話って、
なにもいけなくないじゃないですか。
松本 なにもいけなくない。
それを僕はいつも言うんですよ。
チンピラの立ち話でおもしろかったら、
これに越したことはないわけですよね。
糸井 俺、おもしろい立ち話してるチンピラ見つけたら、
スカウトして連れてくるよ!
松本 そうなんですよ。
ぜんぜん悪口になってないんですよね。
糸井 それは俺も前から思ってるんだ。
でもそれを誰も言ったことないから。
本人もそこまで言っても、
それ以上わかられたくもないし、
そのあたりだよね。
松本 そうですね。
たとえば談志さんみたいにほめてくれる人が、
ちょこちょこいるので、まあ、なんとかねぇ。
糸井 談志さんもやっぱりおもしろいよね。
松本 談志さんはやっぱり衝撃的でしたね。
なんば花月に談志さんが来たときに、
僕もすごく興味あったんでね、
「どんな落語するのかな」って行ったんですよ。
通路まで人でうまるくらいの満員で、
「天皇は・・・」って、きっついこと言いましたからね。
糸井 はあ、はあ。
「ガーッ!」とつかんで。
松本 客がまた笑いましたからねぇ。
僕はもうその頃、
自分でもかなり言いたいこと言ってるつもりでしたけど、
度肝を抜かれましたね。
糸井 それは計算だね。
松本さんといちばん違うのはね、
談志さんは説明をしたいタイプなんですよ。
そこだけが欠点。説明しちゃうんだなあ、全部。
「笑いとは」「客とは」……ぜんぶ辞書もってるんですよ。
それだと「談志がいた」っていう年表は、
長いレンジでいうと消えると思うんですよ。
けれど松本は、年表にのらないかもしれないけれど、
長いレンジの年表だと、意外といたりすると思うんですよ。

生の談志さんで、
僕が見て驚いたのは、小さい声でしゃべりだしたこと。
客がどうも落ち着かないときに、小さい声でやった。
マイクがあっても声が聞こえないんですよ。
みんな静かになったんだよねぇ。
そしたらだんだんボリュームを上げて落語を始めたの。

で、こないだ談志さんに初めて会ってそここと聞いたの。
そしたら「そう!」だって。計算ですよね。
それはたぶん、前に先輩がいたんだと思いますね。
談志さんものすごくモノマネがうまいんですよ。
CDで志ん生のモノマネしている部分なんて、
俺そうとう志ん生が好きなんだけど、そっくり。
声が違うのに志ん生。
悔しいほど似てる。
松本 ああ、そういうモノマネね。
“間”とか、そういうモノマネですね。
うーん……。
糸井 あれには驚いたね。
あの人こそ本当に刻苦勉励タイプの
超努力家なんじゃないかなあ。

話かわっていいですか。
あのね、お笑いのことで訊きたいんだけどね、
なんで俺はもうおもしろくないんだろうね?
松本 え、それは……?
糸井 自分で明らかにわかるんだけど、
自分が楽しんでいる笑いと今の笑いはもう絶対違うんだよ。
で、「ひとりごっつ」って番組で、
お笑い共通一次試験があったじゃないですか。あの時に
「俺、お笑いのジャンルは、もうやめたほうがいい」
ってハッキリ思い知らされたんだよぉ(笑)。
松本 (笑)それは、すばらしいことですけどね。
すばらしいことやと思いますよ。

2000-01-08-SAT

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