糸井 |
みんなに見られてると、何かがこわれる感じするよね。
それはしょうがない。
まあでも、松ちゃんはいいネタ振ってあるよね。
「松本はいばる」っていうネタを振ってあるから、
ちょっと期待されてる部分もあって得してるよね。 |
松本 |
なんかそういうイメージがついてしまいましたからね。
本当はそうじゃないんですけどね。 |
糸井 |
わかる人はわかるよ。
俺、テレビだけでもわかるなあ。 |
松本 |
そうでしょう!
わかる人は、すぐわかってくれるんですけどねぇ。
そうそう。 |
糸井 |
それ絶対わかるはずなのに、絶対わかられないよね。
いばるイメージがブランド化しちゃってるんだろうね。
昔の話で、俺20代のころ露骨に姿勢が悪かったんですよ。
で、女の子と歩いているときに、
「姿勢が悪いね」って言われて、
「それが俺なんだっ」って言ったのよ。
そしたら「へえ、それが“俺”なの?」って言われて。
いたくプライドを傷つけられて「ハッ!」として、
その日から姿勢がよくなった。悔しくて。
そんなことの連続のような気がするんだよね。
この部分は譲らないと言ってたものが、
実は意外とたいしたことなかったりして。
ロンゲ切るとかさ、みんないろいろあるじゃないですか。
ロンゲ切ったらお前はいなくなるのかって言ったら、
いるんだよね。
そのあたり、にさしかかっているのかもしれない。
おもしろいですよ。
40歳すぎてからがおもしろいよぉ。
ほんとにもう、問題がぜんぶ複雑になってきて、
半分はなにやってもオッケーなのにねぇ。
けれど同時に、そういうときって、
なにしてもイヤだっていう人が、ハッキリするんですよ。
そのときに「どうしよう」って思うのが、
すごく楽しいんですよね。
俺はこれ自慢することにしてるんだけど、
「糸井はもうダメ」って3、4回言われて
生きているんですよ。
最近でいうと、ファンみたいな人が
教えてくれたことなんだけど、
「いろんな人とくっついちゃあ、生き延びてるヤツ」
という存在なんですよ、悪い見方をすると。
でも、ずっとくっつけてきた理由があるはずなんですよ。
それは書かないとゆーか、書けないわけで、
もう永遠にわかられないから、そこはもういいんですよ。 |
松本 |
そうですか?
糸井さんそんなん言われました? |
糸井 |
実は半分は嫌われてるんですよぉ。 |
松本 |
そうですか……? |
糸井 |
要するに俺のことを「太鼓持ち」って言っちゃえば、
言った人はそれで全部言えた気になると思うんですよ。
でも、創っている立場どうしだと、
「ああ、これはわかるな」っていう部分があるから、
自分のこと納得してもらえるですよね。
まあ悪く言おうと思ったら簡単じゃないですか。
松本人志もいまだに「チンピラの立ち話」と言われる。
でもさ、チンピラの立ち話って、
なにもいけなくないじゃないですか。 |
松本 |
なにもいけなくない。
それを僕はいつも言うんですよ。
チンピラの立ち話でおもしろかったら、
これに越したことはないわけですよね。 |
糸井 |
俺、おもしろい立ち話してるチンピラ見つけたら、
スカウトして連れてくるよ! |
松本 |
そうなんですよ。
ぜんぜん悪口になってないんですよね。 |
糸井 |
それは俺も前から思ってるんだ。
でもそれを誰も言ったことないから。
本人もそこまで言っても、
それ以上わかられたくもないし、
そのあたりだよね。 |
松本 |
そうですね。
たとえば談志さんみたいにほめてくれる人が、
ちょこちょこいるので、まあ、なんとかねぇ。 |
糸井 |
談志さんもやっぱりおもしろいよね。 |
松本 |
談志さんはやっぱり衝撃的でしたね。
なんば花月に談志さんが来たときに、
僕もすごく興味あったんでね、
「どんな落語するのかな」って行ったんですよ。
通路まで人でうまるくらいの満員で、
「天皇は・・・」って、きっついこと言いましたからね。 |
糸井 |
はあ、はあ。
「ガーッ!」とつかんで。 |
松本 |
客がまた笑いましたからねぇ。
僕はもうその頃、
自分でもかなり言いたいこと言ってるつもりでしたけど、
度肝を抜かれましたね。 |
糸井 |
それは計算だね。
松本さんといちばん違うのはね、
談志さんは説明をしたいタイプなんですよ。
そこだけが欠点。説明しちゃうんだなあ、全部。
「笑いとは」「客とは」……ぜんぶ辞書もってるんですよ。
それだと「談志がいた」っていう年表は、
長いレンジでいうと消えると思うんですよ。
けれど松本は、年表にのらないかもしれないけれど、
長いレンジの年表だと、意外といたりすると思うんですよ。
生の談志さんで、
僕が見て驚いたのは、小さい声でしゃべりだしたこと。
客がどうも落ち着かないときに、小さい声でやった。
マイクがあっても声が聞こえないんですよ。
みんな静かになったんだよねぇ。
そしたらだんだんボリュームを上げて落語を始めたの。
で、こないだ談志さんに初めて会ってそここと聞いたの。
そしたら「そう!」だって。計算ですよね。
それはたぶん、前に先輩がいたんだと思いますね。
談志さんものすごくモノマネがうまいんですよ。
CDで志ん生のモノマネしている部分なんて、
俺そうとう志ん生が好きなんだけど、そっくり。
声が違うのに志ん生。
悔しいほど似てる。 |
松本 |
ああ、そういうモノマネね。
“間”とか、そういうモノマネですね。
うーん……。 |
糸井 |
あれには驚いたね。
あの人こそ本当に刻苦勉励タイプの
超努力家なんじゃないかなあ。
話かわっていいですか。
あのね、お笑いのことで訊きたいんだけどね、
なんで俺はもうおもしろくないんだろうね? |
松本 |
え、それは……? |
糸井 |
自分で明らかにわかるんだけど、
自分が楽しんでいる笑いと今の笑いはもう絶対違うんだよ。
で、「ひとりごっつ」って番組で、
お笑い共通一次試験があったじゃないですか。あの時に
「俺、お笑いのジャンルは、もうやめたほうがいい」
ってハッキリ思い知らされたんだよぉ(笑)。 |
松本 |
(笑)それは、すばらしいことですけどね。
すばらしいことやと思いますよ。
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