弱い僕。 元気のない松尾スズキさんが、すごいエネルギーで弱々しく。
その2 アングラな僕。
松尾 僕はとにかく財津一郎が好きで。
糸井 (パンと手を打ち、左手を頭の後ろから回し
 右耳をつまみながら)これですか。
松尾 (同じポーズをして)ハイ、
「キビシ~っ!」とか、
ずうっと真似してるような子どもで。
糸井 それが芝居になったんですか。
松尾 うーん・・・・、結局は、
ずっと漫画描いてることから、
芝居に移ったっていうのは、
変な動きが出来る、
っていうことなんですけど(笑)。

糸井 それを、対談じゃなくて、
自分の原稿で書いたら、
またふざけたこと言ってるって、
信じてもらえないでしょうね。
松尾 本気なんですけど。
だから、ちょうど思春期の頃に、
トーキング・ヘッズとか。
糸井 あの人(デヴィッド・バーン)も
変な動きしてたものね。
松尾 ええ。ね。
トーキング・ヘッズとか、
巻上公一さんとか。
糸井 ヒカシュー?
松尾 ええ。ああいうの観て、
ああいう動きがしてみたいと。
だから、ダンスじゃないんですよね。
要するに決められた動きじゃないのかな。
糸井 今、舞台で自分でやってるやつなんかは。
松尾 もう、やってることに
ブレがないですね(笑)。
糸井 好きそうにやってますよね。
トーキング・ヘッズが絡んでくるっていうことは、
音楽少年みたいな時代も?
松尾 いや、でも、僕、悲しいことに
ロックを通過してないんですよね。
兄貴がフォーク聴いてて、
その後、すぐYMOに行っちゃったんで。
それで、細野さんがやってた民族音楽とか、
そっちのほうに行っちゃったり。
トーキング・ヘッズも
わりとその流れにあるというか。
アフリカンを取り入れてたりしましたから。
で、巻上さんとこも、
やっぱりテクノの流れで聴いてて。
だから、今、逆に宮藤(官九郎)君とかが、
パンクだ、ロックだって言ってるのがね、
ついて行けないんですよね。
糸井 尖がってねえじゃねえか、みたいな?
松尾 いや、尖がってるのは
尖がってるんでしょうけど、
もう分かんないんですよ。
糸井 うねるやつね?

松尾 ギターサウンドがね。
糸井 パンパンパンッとしてるのが、お好み?
松尾 そうですね。今も一貫して
テクノを聴いてますね。
糸井 コンサートに行ったっていうブログを
読みましたよ。
お疲れがあったせいで、乗りにくかったって。
松尾 WIREですね。
もうさすがにフロアには出られないですね。
悪目立ちするし。
気遣われたりするんじゃないかって。
糸井 体力的なことだけじゃないですよね。
松尾 見た目がどうも。
糸井 「動きです」って言われると、
もう、「はあー」としか
言いようがないんだけど。
松尾 だって、昔のアングラの演劇って、
戯曲読んでも
意味が全く分からないじゃないですか。
糸井 分かんない、分かんない。
松尾 戯曲分かんないし、
それを評論してる人たちの言葉も分かんないし。

糸井 その言葉を内々で発明してるように
聞こえますよね。
僕らは、松尾さんより前の世代ですから。
分かろうとして諦めるまでに、
随分時間が掛かったんですよ。
「分かんないじゃないですか」
って言えたらもっと簡単だったのに、
分かんないことで遊ぶ時代が長かったでしょ?
今、松尾さんが言ったみたいに、
動きが面白いだとかっていう言い方を、
正直に言えるようになるまでに、
多分、何だろうな、
サブカルの歴史が30年ぐらい
掛かってるんじゃないですかね。
「動きが面白いですよね」って、
今だと言えるわけですよ。
松尾 ああ、ああ。
糸井 でも、途中は言えないから、
唐(十郎)さんが、「満州の」とか言ったら、
「満州な、満州だよな」って、反芻したりね。
でも、本当に面白かったのは、
動きとか、声の出し方とか、
それから、単語の選び方とか、
それが面白かったんです。
果たしてやってる本人が
どのくらい分かってたんだろうかっていうのは、
僕らはもう今更聞けないですけど、
怪しいものですよね。
松尾 役者さんはあんまり
分かってなかったと思いますよ。
唐さんの中でとか、
野田(秀樹)さんの中ではちゃんと
ルールがあるんでしょうけど。
だから、勿論、僕も、
例えば唐組を観に行って、
宴会に呼ばれて、前に立って、
「唐さんの動きが面白かったです」
とは、とても言えないんですけど。
糸井 言えませんね。
松尾 でも、やっぱり唐さんとか、
超インテリだから、うーん・・・・。
哲学とかそういうのも入ってて、
引用も多いじゃないですか。
やっぱりそういうの、
ついていくのは不可能だな。
糸井 でも、その引用って、
当時、要するに、唐さんなんかだと、
横に並んでていろんなグループが
あるじゃないですか。
暗黒舞踏とか。
そういう人たちの話とか、
聞こえてくるのを総合すると、
本で言えば、背表紙を読んでたっていうか、
目次を読んでたっていうか。
「いい言葉だな」と、
そういう使い方をしてたかもしれないですよね。
僕は、もうそれ以上何とも言えないですけど。
例えば、赤テントの中で、
パッと唐さんが剣を抜いてね、
「剣にとって、美とはなにか」
とか言うわけですよ。



と、みんな大笑いするわけだよ。
だけど、それは明らかに吉本隆明さん
『言語にとって美とはなにか』を、
剣に変えたものじゃないですか。
それで、わっと笑ったうちの一人に
僕もいるんだけど、
すごく愉快なわけですよね、
分かんなかった人にしてみれば。
でも、唐さんは、
それを誹謗したわけでもないし、
さっきの面白い動きと同じように、
面白い言葉を出していた、
ともいえるんですよね。
怒られるのを覚悟で言うならば。
そういう意味では、裸の王様じゃないけど、
「そんなに繋がった意味ないんじゃないの?」
って言えたら、もっと面白かった。
松尾 そうでしょうね。
糸井 松尾さんとかは、
もう言える世代なんじゃないかな。
動きが面白かったとか。
松尾 だって、「沼の中から箪笥背負って出た」
とか書かれたら、
それだけでワクワクしますよね。
糸井 たまらないですよね(笑)。
で、例えば、僕は一度ぐらいしか
そういう場所にいなかったけど、
唐さんの芝居が終わった後で
みんなで飲み会みたいにして、
順番に感想を言わせるじゃないですか。
村松友視さんとかは中央公論社の人として
ちゃんと言えるわけですよ、
クマちゃん(篠原勝之さん)は、
「うーん・・・・」って言って、黙って、
「いまどき、なぁ」って言うんですよ。
とにかく、どんな芝居でも、
だいたい下向いて酒を見て、
「いまどき、なぁ」って。
本人に訊いたら、
「そうやって俺は凌いできた」って。
松尾 (笑)面白いですねぇ。

糸井 松尾さんの芝居、感想とか言わせますか。
松尾 いや、そんな場はないですね。
糸井 そんな場はないですか。
感想を言われたら、どう思うんですか。
松尾 いや、まあ悪い感想っていうのは、
ほぼ言わないですから、
単純に嬉しいですけど。
糸井 でも、言えますよね、感想って。
で、本人もその感想を引き出す、
チラリズムをいっぱいやりますよね、
劇作家って。
闘牛みたいに、
「ここ、引っ掛かるな」っていうか。
自分もそこのところで反応があったら、
またもっとしたくなったり。
あの遊び、なんですか。
松尾 いやぁ、そんなこと
考えたこともなかったです。
やっぱり、なんか芝居観終わった後に、
人が楽屋を訪ねてきてくれた時って、
緊張感あるんですよね。
どうしていいか分かんないみたいな。
僕なんかもう、相手がなんか
感想を言えずに黙るのが怖くて、
先に別にことを話し始めちゃったりとか。
糸井 僕は演劇の作り手じゃないから、
分からないですけど、
訪ねていくほうも困ってると思うんですよ。
松尾 困りますよね。
糸井 大人計画の人たちも、
「この芝居について、簡略に
 ちょっと述べてください」とか言ったら、
多分、本当は困ると思いますけどね。
松尾 うちの連中、観に来ても、
ニヤニヤ笑ってるだけですから(笑)。
  つづきます。
2008-10-09-THU