SHIMIZU_MICHIKO
清水ミチコの試供品無料進呈
(秘密厳守)
1999年9月の日記

第93回

9月1日・水曜日
コドモの始業式。防災の日で、小学校で
「親による子供の引き渡し訓練」もあった。
「防災の話を聞き、頭巾をかぶったコドモと家まで
一緒に帰る」というものです。
しかし、約束の午前11:00に父兄集合の校庭に行ったのに、
誰もいない。青空ひとりきり。
事務の方に「今日、引き渡し訓練ですよね?」と聞くと、
「11時半からです」、と言われ、
カン違いだったと気がついた。

しかたなく、20分ほどコンビニで雑誌を立ち読み。
コンビニって涼しい。本当にありがたい。
でも、これといって欲しいモノがなく、
久々にメロンパンを買った。
メロンパンってよく見るとただの黄色じゃなくて、
メロンだけに薄く黄緑だったんですね。
余裕で到着すると、頭巾をかぶった小学生、
みんな頭がムレムレだった。

9月2日・木曜日
ラジオ2本生放送。
始まる前に、「こないだSFの人喰い人種の語を読んで、
面白かった、なんて話をしたいんだけど、
人喰い人種ってまさか差別用語じゃないですよね」
と、笑いながら聞く。
「当たり前でしょう、存在しないんだから」、
とすぐ言われるかと思ったら「え、ちょっと調べます」、
なんて言うので、「あ、それほどの話でもないから
別に大丈夫。」(本音)と、止めた。
いたりして。禁止だったりして。

用語と言えば、前々から私が気になってたのは、
「バラバラ殺人」という言い方。
ちゃんとしたニュースでも堂々とまかり通ってるんだけど、
いくら「バラバラだったから」って、
けっこう失敬なんじゃないでしょうか。
あまりにもまんまじゃないですか。
もし自分がそういう事態になった時、
「あ、バラバラ」なんて思われたら、
よけいにくやしがりそう。
「バラバラじゃないの! 個別になっただけ!」と、
墓に刻んでほしい。

試写会・「奇人達の晩餐会」を見に行った。
毎週水曜日になると、それぞれが奇人を連れてきて笑う、
というパーティがあり、ある日主人公がこれこそ奇人!
という男を発見するが...。というお話。
私はこの登場する奇人たちがどんなん出るのか
すごーく楽しみでウヒヒヒー、だったんだけど、
けっこうヒューマンなフレンチポップスでした。
まあこれはこれで。

9月3日・金曜日
友だちのみくちゃんたちと、高平哲郎さん演出の
ミュージカル「上を向いて歩こう」を見に行った。
見に行ってよかった。たっぷり面白かった。
今まであんまりプレスリーに興味がなかったんだけど、
中で歌われてた曲がカッコ良くって、
休憩時間に生まれて初めてプレスリーのCDを買った。
CDについてる湯川れい子さんの解説、
湯川さんのしゃがれ声で聞こえてくる。
ちょっと挨拶に行った帰りに、楽屋口にカメラを持って
集まっていたおばさまたちから「お疲れさまー!」
と口々に言われた。出てないのに。

9月4日・土曜日
LFで生放送。そのあと、ヤノッチが「サッカーの試合」を
見に行くと張り切っていた。
帰りに一人でタクシーに乗ると、雨が降ってきた。
もうすぐ家に到着、という頃、コドモが傘をさして
下校している姿が目に止まり、
「あ、やっぱりここで結構です」
と、途中でタクシーから降りた。
「おーい! 傘に入れてよー」と言ったら驚くだろうな、
フフフ、と思ったのだ。

しかし、そう言ってみたら一瞬、うっすら迷惑そうな顔を、
(さっともとに)もどしたのがわかった。
友だち同士の方が良かったのに、みたいな顔を
見てしまった。
わ、成長! 昔と違う! しかし、引き下がるのも変だし、
そのまま一緒に帰った。子供たちも、気のせいかうっすら
「大人用の子供同士の会話」に切り替えてたみたいな。
自分だけはうざったいおかんにならない、
私の場合、なれないのよネ、なんてタカをくくってたのに。

9月5日・日曜日
「天才てれびくん」収録。
本当は槙原敬之さんの歌をマネする予定だったが、
あの事件で、振り付けの南流石さんと一緒にPUFFY。
南さんとは、たまたま先月も別の番組でお会いした。
その時は私に「踊り以前に、清水さんの身体に芯がない」
と名言し、笑ったのだが、今回は「芯」を持って
張り切り踊る私に「ひざがふざけてる!」と指摘してきた。
ひざがふざけていたのか。
それで踊れば踊るほど、「踊りをコバカにしたような踊り」
になってしまうのか。

ただし南さんは、多少のサービスもあって
あえてきつめに言ってくださってるのだが、
終了後、子供は本気でなぐさめの言葉をかけてくれた。
私も始めはヘタだったの、とか、
でもおもしろいと思うよ、だって。

1999-09-15-WED

第94回

9月6日・月曜日
家に帰ったら、コドモが足にホータイを巻いて
「おかえり」と言うのでひゃっ、と背筋が凍った。
階段から落ちたのだそうだ。捻挫らしい。

しばらくして、大橋君ら3名がやって来た。
お見舞いですー、だって。嘘つけ。
キッチンでさりげなく子供達のうわさ話を聞いていたら、
みんなである一人の男の子の悪口を言い始めた。
そう言うな、とあとでコドモに言おうかと思ってたら、
その噂を聞くうち、そら言われるわ!とアッターきた。

女の子の顔にツバをしたり、机ごとひっくり返す、など。
でも笑ったのは
「注意してもすぐ怒ってさー、
そんで、自分っからぴょーんとジャンプしながら、
頭ごと誰かに自分のデップをつけるんだよな!」
と、いうワザ。
ジャンプ、がかわいい。

おやつを出しながら、
「あんたたち、いっつもゲームして
やりっぱなしで帰ってるから、ちゃんと帰るとき
かたずけてね。特にコンセント!」と言うと、
全員で「はーい」といい返事。

でも、コンセントだけ抜いてあって、
結局放ったらかしだった。
アッターきた。

9月7日・火曜日
友達のみくちゃんと新宿・伊勢丹の
「ピカビア展」に行ってきた。
初めは、うまいのかヘタなのか、
それすらよく分からない絵だなあ、と思って
歩いて観てたんだけど、
後半、すごーく興味が出てきたと同時に、
ぐんぐん気持ちが悪くなってきて、ぐったり疲れ、
強力な睡魔に襲われた。
なんか、絵って見てるとこういう時ないですか?
バシッと頬をひっぱたかれた、というんじゃなくて、
くにゃ、と、音もなくどこかをねじられたような
不快なカンジ。

おもしろいな、と思い、
帰りにピカビアのポスターを1枚買った。
自分の部屋に貼ってみたら、
やっぱり見てるうちにずーんと重くなり眠くなり、
すぐに寝た。催眠絵画だ。

9月8日・水曜日
仕事が早めに終わり、また今日も別の美術館へ。
芸術の秋ですね。
でもこっちはいまいち面白くなかった。

それより読みかけの文庫が面白くなりかけてて、
美術館の椅子に時々座って読みふけってしまった。

もう少しで読み終わる、という帰り道、
今度は近所の本屋さんで「ちょっと寄ってこ!」と、
マンガ「BANANA FISH」を買って読み始めた。

連れの夫、歩きながら「皮膚科の結果が出た」と言う。
原因は、「ストレスの一種」だったそうだ。

あっ。私じゃないよね! 原因は。
ぱくぱく。ぱくぱく。

9月9日・木曜日
ビバリーとCBC。
つくづくラジオは楽しいな。

家に帰ってから、コドモを美容院へ連れて行く。
「段カットでお願いします。段カットで。
では、失礼します」と言って、
時間までスーパーへ行った。
なぜ2度も強調したかと言うと、
前回、この美容室でやはり段カットとお願いしたのに、
できあがったコドモの頭を見たら、
完全に「おかっぱ」状態だったため。
あれっ?ぜんぜん伝わってないじゃん?と思ったのだ。
文句言うのもなんだし、
その時はスマイルでお礼を言ったのだ。

しかし、今日は2度も強調したのだ。
1時間ほどして引き取りに行ったら、
なんと、また「おかっぱ」じゃねえか!
なんだなんだ、ウチの子は「おかっぱ」がお似合いとでも
言いたいのか! ワカメ似か!
と、のどまで出かかったが、やはり言えない。

それにしても、「まちがえました」でもない、
「こちらの方がよろしいかと思いまして」でもない。
伝わってないわけがない。
店員さん、みんなただただ幸せそうに
ニコニコ送ってくれたのだ。

段カットがどうのこうのでさあ、と、
夫に文句をたれてる途中、友達から電話がかかってきて、
また同じ内容をしゃべった。
段カットって言葉ばっかり、何度も口にした日だった。

9月10日・金曜日
午後、番組で山下洋輔さんとお会いした。
すごかった。圧倒的。
なんというか、紳士的でやさしく、カッコ良く、
人と距離を取られるすべを
自然に身につけておられるような。
誰にもやさしいけど、見えない強いバリアー。

もしかしたらカリスマと芸術家の違いって、
「徹底的に人々を寄せつけてしまう術」か、
「(寄る人々を)いかに寄せつけないかの術」を
身につける違いにあったりして、と、ちらっと思った。

それにしても最近の日本の50代は、
会う人会う人みんなが強靭というか狂人というか、
ともかく特殊な人間のように見える。

夕方、気を取り直し(?)、
ヤノッチと坂本龍一さんのオペラへ。
これまた濃厚に面白く、今日は本当に、
ロウソクでも立てたいような豪華な一日だった。

1999-09-23-THU

第95回

9月11日・土曜日
仕事で始まる土曜日。
今日は夕方、たまたまいいテレビを観た。
一回っきりの放送みたいだったけど、フランス制作で、
子供にもわかりやすい宇宙の30分番組。

「こうしている今も、地球はらせんを描きながら、
凄い速度でどんどん中心(ビッグバン)から
遠くに離れて行ってるのです」
って、皆さん知ってましたか?
地球って本当に「船」なんですね。

ナレーションも、まるで詩の朗読でもするかのように
「ビッグバンの爆発以前は、
宇宙はどうなってたのでしょう。
答えは、何も、ないのです」。
何もない。だって。超クール。
あと、
「太陽によって地球は生きています。
しかし、その太陽もいずれは燃料切れします。
じゃあ、私達の子孫はいったいどうなるのでしょう。
ご安心ください。その頃には、
とっくに生物は死滅しています」
など、スケールのでかい話が希望もなく進むので、
小気味よかった。

9月12日・日曜日
このところ毎週ビデオをまとめて7本ほどレンタルし、
一日に1本観るぞ、というのをやってる。

今日は「何がジェーンに起こったか?」。
幼少時代に売れっ子だった妹と、
後年になって演技が評価される女優の姉の、
皮肉な内容のこわーい話。
二人とも今は年寄りになってて、
妹は気が狂ってる設定なんだけど、
そのメークが鈴木その子さんのように白くて濃い。
志村さんのバカ殿にしろ、暗黒舞踏にしろ、
白いメークは妙に恐いものだ。
最近の鈴木その子さんには、
ずいぶん慣れてきたものだけど、
最初に見たananなんかの広告ページでは、
確かにかすかな恐怖が走った。
白いと「死に顔」に近いからかしら。
もしまっ白なメークをした人に、
何か理不尽な命令されても、きっとすぐ服従しそう。

夫が友達と、ロン・セクススミスのライブに行ってきた。
高野寛さんも出演されていたらしく、
きのうよりずっと(本人も)良かったらしい。

9月13日・月曜日
金沢で「おかず屋さん」しきる。
私は「pate屋」に6年もいたので、
調理の仕込みだけは早い。
あれした? これしました? と、チャチャッ。
また予定より1本早い飛行機で帰れた。
pate屋の林のり子さんに感謝ー。
おっとりした人柄でありながら、建築家であり理数系で、
かわいいポエムなお料理ではないが、
ムダな効率というものもない。

でも、こないだ久しぶりにお会いしたら、
「あなた、こんな時間が止まったような総菜屋に長くいて、
どんなに苦しかったでしょうねえ」と、おっとり言われた。
林さんこそ、得体の知れない無能なバイトの私に、
料理に限らず、よくぞいろいろと
話をしてくださったものだ。

そういえば林さんのお父さまは、
山下洋輔さんのお父さまと同期であり、
たまにお会いすると外国人のような微笑みで
「あんなにやさしくて立派な人はいなかったなあ。
息子さんはジャズを、演奏しておられるの。ああそう」と、
これまたやさしく話しておられたのを思いだす。

夜、家で「乱」を見る。
黒沢明の自伝「蝦蟇(ガマ)の油」を
読んでたところだったので、
よけいにはまる。合戦に参加したい。

9月14日・火曜日
「ホンの昼メシ前」レギュラーに。
そのあとエステへ行き、家に帰ると、
コドモの足がまだ痛むようだったので、
お医者さんへ連れてった。
お医者さん、二人いらして、
若い方の先生がやさしくてカッコいい。
私は気がつかなかったが、帰る時、コドモにだけ、
Vサインして手を振ったそうだ。
カッコよかったね、と言うと、やっぱり? と言った。

スーパーに行って、今日のおかずはここで買うから、
好きなモノをカゴに入れなさい、と言うと、
「松茸というものを食べてみたい」と、
いつのまに発見したのか指をさした。
値段がすこぶる高かったので、
松茸はおかずにならないし……と言葉をにごして
止めさせる。まだその時期ではない(コドモが)。
「じゃあ、これは?」と言って、
今度はさんまを持ってきた。おまえは62才か。
夜、「東京物語」観る。しみじみちこです。

9月15日・火曜日
日テレでナレーションのあと、
ウンナンの「気分は上々」ゲスト。
「引っ越し」がテーマだったんだけど、
今日に限らず、どうも芸人(男)は、
家に帰れない生活のくせに、
引っ越しにこだわりたがるような。好きなような。

いつか、ロンブー(の亮)も、
「引っ越ししたら、またすぐ次の引っ越しに
興味わくねん。きりないねん」とこぼしていた。
衣・食・住のステップアップのうち、
衣(ブランド)は女性タレント、
食(グルメ)は中年タレント、
そして住(引っ越し)は男性芸人、と
興味が分かれているようなのでした。

家に帰ると「もしかしたら、」とニタニタとコドモ。
「このカンジって、初恋なんじゃないかな」。
きのうの先生の事らしい。
「あ、これ、ほぼ日に、書いてもいいよ」と
照れながら言った。成長とは、こうやって
少しずつ口をはさんでこられるものなのか。

1999-09-26-SUN

第96回

9月16日・木曜日
楽しいビバリー昼ズとCBC。
あんまり寝てない時の生放送やライブって、
終わっても、身体は疲れてるんだけれど、
神経はやっぱりコーフンしているみたいで、
くたくたなのにハイテンション。
いつも最後は
「ああ、もうこの時間が終わってしまうのかよ、未練」
と淋しくなり、車の中なんかで瞬間、不思議な夢を見る。

私のような小規模タレントでもそうなんだから、
すごく売れてて、しかもナイーブな人が
クスリ関係にはまってしまった、というあやまちも
なんだかわかる。賛同はしないけれど。
ところで、ユーミンの「ひこうき雲」という歌は、
飛び降り自殺した少女の歌だとばっかり思っていましたが、
あれって、そういうドラッグで亡くなった
少女の歌のようですね。

9月17日・金曜日
さる女流マンガ家から電話。
すごい濃い人生だ。なんて事だ。
でもうらやましい。勇気がある。
生きてる! ってカンジ。
羽ばたき! ってカンジ。

そのあと、さる男性と仕事。
体調すこぶる悪いらしく、めちゃ機嫌が悪かった。
しかし、このままの雰囲気じゃイヤだったので、
「輝け!ミッちゃん!はばたけ私!1999!」と思い、
(絶対笑わせる、絶対笑わせる)と暗示をかけ、
前へ前へと出てみたら、
その人の調子もどんどん軽くなっていった。

これだ! 人はどんなに偉くても、
目の前の人間に単純に影響されるものなんだな!
明るいって事は単純にすごい力だな!
今後ももっと解放したろ、と、
本日は正解をもらったような、すごくいい仕事を実感した。

9月18日・土曜日
参観日。
LFの生放送があるので、
コドモが発表する頃には間に合わないんだけど、
大橋君のには間に合いそうなので、車を飛ばしてもらった。

しかし、結局間に合わなかったのがわかった。
大橋君の顔を見たら、すでに
「終わってホッ」とした余裕だったので。
ちぇっ。

終わってから、展示してある夏休みの工作をながめてたら、
ある女の子(ちょっとケチ)がやってきたので、
「○○ちゃん、工作は何を作ったの」と言ったら、
「ペットの亀の成長記録!」と言うので、
「なんていう名前?」と聞いたら
「ゼニ子!」だった。
この言い方をうまく書けないのが残念。
ふりしぼるような声だった。
一人うつむいて笑った。

そのあとコドモとハムスターのエサを買いに行く。
○○ちゃんのマネをしつつ、
その時の会話をリピートしたら、うけた。
ハムスターのかーわいい赤ちゃんを見ると、
また欲しくなる。

家でコドモ、
「一度このエサ(ビスケット)
どんな味なのか食べてみたいんだ」
と言う。
「別に食べても大丈夫じゃないの?」
と言ったら本当にかじった。
実は私も、実家でドッグフードを見ていて
妙に味を知りたくなり、かじってみた事があった。
まずいったらなかった。
粘土みたいな味だった(なんで知ってる)。

しかし、コドモは「あ、普通の味」と言ってたんで、
こっちはそうまずくはなさそうだ。
みなさんもぜひ一度、お試しください。

9月19日・日曜日
休日。ベッドで、
「せっかくの休みなんだから、
だらだらすごくリラックスしようかな、
いや、こういう時こそ積極的に外に出ようかな」と迷う。
私はパーティも嫌いで、
黙ってたらずうっと家の中にいたい、
すごいインドア派の、日陰人間なので。

とりあえず今日だけは、自分中心で機嫌よく、
おだやかに、地球最後の日のように大切に、
と心を決めて、まずはコーヒーを煎れた。

結局はピアノに気が向いた。
いつもは近所に遠慮して閉めているフタを開け、
左手ばっかりで弾く。
左手って、あかの他人みたいなのだ。
いつまでもなつかない継子。

ところでこないだ、東京駅で
エレクトーン奏者の演奏を久しぶりに見た。
私はエレクトーンの音や、指の触感、
そのフタのデザイン、ハデに弾く(そう見える)姿が
昔っから大幅に嫌いなんだけど、その人は上手かった。
でも、センスが古かった。
エレクトーンによる歴史的名曲がないのもわかった。
聞くというより、弾くための楽器なんだな。あれは。

9月20日・月曜日
粗大ゴミを出す。
みなさん、粗大ゴミって、
出す前に掃除会社に電話
→コンビニなんかでシールを買う(500円)
→きちんとわかるようにゴミに貼る
→必ず指定された日の早朝にのみ出す、
ってルール、知ってましたか?
都会生活じゃのう!(と、菅原文太の声で)。
どうりでいっつも清掃車に無視されっぱなしだったのか、
とわかりました。ライフ。

コドモが塾へ行くと同時に、
久しぶりに夫と電車に乗って、映画「リトルボイス」へ。
夫と私は昔から席をひとつ空けて座る、
または一列ずらして観るのが常識だったんだけど、
混んでて隣の席。
映画は、ちょっとふざける役の女性が
ふざけすぎかなあ、と思った。
品のいい映画なんで、ちょっとでも下品だと
かえって目立ってしまうカンジ。

帰りの電車、
これもどちらからともなく席を離れて座るんだけど、
(でもこの気持ちは結婚するとわかる。)
本を読んでたら、2つ駅を飛ばしてしまったようで、
見たら夫は乗っておらず、
アナウンスの「明大前ー」を聞いてあせった。

逆行して笹塚駅に着いたら夫が待っており、
照れながら走った。
「まさか、降りないとはさー」と、
責めるカンジでもなくのんびり言った。
私なら皮肉のひとつでも考えておいたところだろう。
ペットショップをちょっとのぞき、
レンタルビデオを借り、無事に帰宅した。

1999-10-06-WED

第97回

9月21日・火曜日
日テレの番組に出演し、お化粧を落とし、
化粧水だけのえらいシンプルな顔のまま車に乗り、
有楽町の試写室で「グレン・グールド」の
ドキュメンタリーフィルムを見た。
ピアノを弾きながら、足でリズムをきざみ、
口ではそのメロディーを歌い、
休んでる片手では指揮棒をふり、という、
とてもクラシックの常識ではいけない事ばかりの演奏家。
気持ちいいだろうな。
ところで男性のピアニストは
どの人を見てもキリッと整った顔だ。
ウクレレ関係の顔と違う。失敬な。

映画が終わって、帰ろうとしたら、
映画関係者の人に「一言でも!」と、
感想を求められた。困った。
こういう時、気の利いたコメントを
さっと言える人を私は尊敬する。
自分はこの映画を観てどうよかったのかを
頭の中で即座に言語化できない。
「あとで、電話します」と約束。

ずいぶん昔に、水道橋博士に聞いたのだが、
試写会に行ったら、たまたま隣の席の山田雅人さん、
途中でぐっすり眠っていたらしい。
時々いびきが聞こえてくるので、
自分とまちがえられないか、ちょっと心配だったという。
映画が終わって、カメラを向けられ、
インタビューをお願いしますと言われたのだけど、
そういう場が「苦手なので」と、断ってるその横で、
山田さんが、
「ホンマにええ映画でした。泣きました、
 とくに主人公のコドモの心情、どうのこうの……」と、
本当に上手に映画を再現し、
感想もうまくまとめてあったのに俺は舌をまいたね、
と言っていた。

山田さんもなんだかたいしたものだ。
タレントによる
「見てもいないまま、
 即座にアドリブでコメントしあうゲーム」
みたいなのって、あってもよさそうな。

9月22日・水曜日
生まれて初めて京劇を観に行ってきた。
東京芸術劇場の「楊門女将」。
チケットを2枚手配してあったのに、
夫も、近しい友人も、
誘うなりこぞって「その日はたまたまダメ」と。
結局マネージャーの矢野様に御同行願った。

幕があがったら大中の店内と同じ香りがした。
甘いような青いような、竹みたいな匂い。
字幕スーパーが大きな電光掲示板で出るので、
ストーリーもよくわかった。
ハデなメイクに、ハデなドラ、
そしてハデな歌声がよく合い、
まったく晴々と、気持ちのいいものだった。

父を亡くした女性陣や
子供による仇討ちの話なんだけど、
ときどき、
「あっ、どうしてそういう心情の時に
 ばくてんするか? あれまた」
と思いながらも、結局最後は泣けてしまった。
“けなげな”姿は、海外や時代を問わず泣かせるもの。

9月23日・木曜日
ビバリー。
いつもブースに週刊誌が豊かに置かれてあるので、
本番前はいつも集中して読む(趣味で)。

それにしても雑誌は偉いなあ。
ちゃんと定期的にネタを見つけ、
ちゃんと毎週、刷り上がっている。
下世話な話にしろ、
常に全員がプラス思考で、いつもアンテナをはって、
かつ好奇心がなければできない仕事だなあ、と思う。
(ちゃんとした仕事はね)。
そして多少は軽薄でないと、
神経参っちゃう仕事かもねえ。

ところで番組の中で、たまたま教師の話になり、
「国語の先生はだいたい人格者が多い。
 数学の先生は神経質でやせている。
 社会の先生はいつも中立を求めてるわりに反体制で、
 理科の先生は実験好きな変人型。
 美術の先生は職員室でひとり浮いててー」
と勝手に決定してるうち、
校長は肥満気味で体制派、
教頭ちくり屋、
給食の先生料理好き、
緑の先生は旗好きが多い、など、
ぜんぜん先生でもなくなってきたところでお時間。

9月24日・金曜日
「おかず屋さん」今日は公録。
いつもはペラペラとよくしゃべる
べらんめえの料理の先生が、
お客さんとカメラの前で、
すごい大人しくなってしまった。
本番前は
「俺にゃあ、そんなもなー関係ねえ」と、
ちょっとビール飲みながら高らかに言ってたのに。

「多数の人間を目の当たりにするとアガる」という
誰でも持つこの心情は、本当にどこからくるのだろう。
私は本当に本のひとつでも執筆したいくらい、
この謎について考えてきた。
人にもよく聞いた。でも、まだわからない。
どんな大スターだって、小物だって、
本番前になると、これが歴然として「やってくる」。
ステージングブルー、というやつ。
また、
スピーチとかぜんっぜん平気っていう人のスピーチが、
(うまいけど)意外とつまらない、というのも謎だし。
アガってしまうと、とたんに身体が硬直して
脳から神経から筋肉から、
スムーズにいうことをきかないのも、
これまた面白く、知りたくなる。

人前で自然に振る舞う、のではなく、
本当に自然にいられる、というのは
ステージの回数という、キャリアでもなさそう。
私は
「今日は、やに堂々としてたな!」という時もあるけど、
そんな時ですら終われば、次のステージの不安への戦いが
すでにちらりと始まっているんです。
まるでふと、次はアガらなきゃ、と思っているかのように、
「アガる」のを回避しながら求めてるようなのだ。
この謎を、言葉ですごく知りたい。
悩みでなくて、好奇心で。

9月25日・土曜日
LF生放送。
そのあと宝島の顔マネを撮る。
お化粧なんかより、人を選んだり考えるのに
あんがい時間がかかる。
でもこうやって、ほこ先がちょこっと変わるという
仕事ライフは面白いな。
まあ、(大きくとらえれば)私のやりたい事は
ひとつなんだけど、どんなに
「ひとつのパターンに集中しなければいけない職種」
だって、きっと細分化されてないわけはないですよね。

実家のスパゲッティ屋だって、
茹でるだけじゃ務まらないわけです。
ソースの作り方や、値段の設定からサービスの仕方、
ナプキンの折り方、バイトへのうまい注意の仕方、と、
目的の仕事と関係ない事が
たっくさん出てくるもんなんですよね。
そっちの方が多いものかも。
だから「マルチタレント」とか書かれると、
とても無能なイメージがしますよね。
たいへんなのは主婦の仕事。
見返りナシ、ですぜ。

1999-10-09-SAT

第98回

9月26日・日曜日
弘前の映画祭に行ってきた。
青森!「青森」の青(ブルー)ときて、
森で緑、りんごで赤っすよ。
しかもねぶたの光よ。
なんかゴダールみたいな色彩。
らっせーらー!ですよ。
これも、日本語っぽくないしね。
矢野顕子さんの弟さんのお店も近所なのだそうだ。
関係ないが。

黒田勇樹くんと御一緒。
私とは別の映画でゲストで、
(映画館が一気に6つもあるんです)
私が始まる頃は、時間差で黒田くんは
帰りの飛行機に乗ってるはずが、
「ちょっと勉強しようと思って」とかいって、
わざわざ飛行機を遅らせて私のを見にきてくれた。
帰りにお礼の変わりに、ちょうど聞きまくっていた
真心ブラザーズのMDをさしあげた。

ところで、黒田くん、
「ウルルン滞在記」で、すごい国の奥地に行った時、
初日から虫を食べたのだそうだ。
ところが、これがけっこう
「あれっ、おいしい?」だったという。が、週末には
「かなりおいしい!もっと」に変わってたんだそうだ。

「それって、その土地にいたからそうなるのかな、
たとえば東京だと、虫見ても食欲沸かないわけでしょ?」
と私が言うと、
「それが不思議で、コンクリートについてたかもしれない、
と思うと食べたくなくなるんだけど、
それを忘れてじっと見てると、あー、こいつの触角取って、
尻尾をとってから軽く焼いたらうまそうだな、
と、思えるようになった」のだそうだ。
進化。
というかその逆なのか。
でもまだ高校生なのだ。
私ならロケの段階で断る。
ミュータントは増殖中だ。

9月27日・月曜日
ここんとこ、自宅にかかってくる電話に
ロクなものがなくって、たいがいが墓地やら土地やら
塾やらエステやらの勧誘ばっか。
敵もさるもので、
「初めに会社名を名乗ると、すぐに断られる」
と悟ったらしく、
「鈴木ですが、」とか、「佐藤と申します」、など、
名前から名乗るんで、
えっと、誰だっけ、と思ってるあいだに勧誘、という手口。

今日、また墓地野郎から電話がかかってきて、
「こないだも言いましたっしょ!」と、
凄みを効かした声でカンジ悪く切ったら、
怒ったのか、また即座に電話が鳴った。

恐るべし、この執念。むかつきながら出たら、
「もしもし、山田ですが。」と言う。
おや、やさしいな、と思ったが
「はい」とまた低音で憮然と出る私。

少しの沈黙があって「清水ミチコさん?」と言う。
あれっ、と思うと、
「山田洋次です」と続いた。
私は山田さんのお嬢さんと同期だったので、
電話番号を知っておられたらしい。
危険な赤色手旗信号が、黄色いハンカチとなって点滅。
出演のお話をいただいた。
スケジュール次第、というカンジだったが、
切ったあと、どっと疲れた。
感じよく出るんだった! 勧誘電話め!

9月28日・火曜日
ここんところ、ずーっと腰が痛かったので、
近所にある整体へ行ってみた。
そしたらそこは、中国人の経営だった。
顔を見るなり、「アナタ、ニジューダイカ!」と言う。
口角を上げないように「いいえ」と否定。
全く中国人系による日本語は、発音が強くて、
しかも嘘っぽくない。
だからニヤニヤを止めるのに必死。

でも整体終わったあと、いちおう保険証を見せたら、
「ア、コンナトシカ!トシトッテタカ!」と、
語調強く、人様の前で大きく驚く。
ニヤニヤするしかなかった。
人様もニヤニヤしてた。

9月29日・水曜日
「天才てれびくん」に出る。
子供達にモノマネを。

夕方、あがた森魚さんのレコーディングに参加した。
鈴木慶一さんのプロデュースによる「日本少年2」。
行ってみたら、ご本人さんの歌入れの最中だったので、
ラッキー!とばかりにしばらく拝聴する。

あがたさん、歌っていくウチに、
どんどん歌詞を変えて行かれるので、
「なるほど、レコーディングって
こうやって一言ずつ作っていくんすね!」
と鈴木さんに言うと、
「普通は違うからね。普通は!」、
と苦笑いで言っておられた。
そして私の番。
あがたさんによる、歌への注文も独特で、
「ローレライがさ、いるよね、ローレライ。
海の向こうにセイレーンを見つけたんだね。
そのセイレーンが歌うんだよ。かすかな感じで」とか、
「ランドセルがまだ重たい子供の歌う、
あの小学校唱歌みたいに、
たくましいけど、まだおぼつかない感じ」など、
詩人のようで、
フレーズをヤノッチにメモしてもらうように頼んだ。

帰りに、鈴木さんに
「ほぼ日の“アッコちゃんを誉めよう”
どうもありがとう。」
と、お礼を言ったファン心理。



9月30日・木曜日
大好物のラジオ。
そのあとテレ東
「デュエットソング特集」のレモンスタジオへ。

小堺さん、鈴木史朗さんと私の3人で司会。
先週、青山で見つけた、
「テーブルクロスの一部を張りつけた」という
ブルーのアンティーク生地のかーわいいドレスを着用。
値段はかわいーくはなかった。
テレビ用の洋服って、
普段も着られるようなものも多いんだけど、
この服はたぶん一回っきりかもな。

ところでこの番組で感じたわけではないんだけど、
(しかも私が言うのもナンだけど)、
最近のTVタレントさんは全体的に
どんどん口が悪くなってきた、ような気がする。
あけすけ、というか。
鈴木史朗さんと話してたら、逆に新鮮!な気がした。



1999-10-14-THU

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