ちょっと昔の秋の中頃、
庭のすみっこに1本の新人が現れた。
初めはありふれた草と思っていた。
でも数日後、小さな赤い粒々を並べた穂を
2本ひゅんひゅんと空に向かって伸ばし始めた。
といっても身の丈せいぜい20センチくらいだから、
まだまだ幼児ではなかろうか。
アカマンマ(イヌタデ)に似ているけれど
ずっと細くてキリッとしている。
ねじ花にも似ているけれど
何しろキリッとしてねじれていないから違うのだろう。
虫めがねで見た。
交互に並んでいる赤い粒々は花らしかった。
何者か? すぐに牧野植物大図鑑を繙く。
何かっていうと牧野先生の図解に頼る生活が
もう何十年も続いている。
そのときも新人の履歴はすぐに判明し、
ミズヒキであるという。
ミズヒキというからには、冠婚葬祭の包み物にかける
きれいなあの紐のたとえだろうか。
確かに両者ともきりっとしている点では
通じるものがあるが、いまいちもの足りない。
たとえば早春庭木の下に
ひそっと一穂小さな白い花を付ける植物を、
まるで静御前のように可憐で美しいから「一人静」、
それとは別種の花穂が二手に分かれているのは「二人静」、
と呼ぶと知ったときの
「な〜〜〜るほど!」という驚きが足りなかった。
けれど今回、柳生さんからミズヒキの秘密を教わり、
目からウロコが剥がれ落ちた。
穂が水引のようにススッとしている点以外に
ミズヒキと呼ぶその理由は、
「赤い花の裏は白い」ってことだったのだ。
エッ? と思って裏を見ると、つまり下から見ると、
白の行列でつまり“紅白”、水引そのもの。
うまい、座布団50枚!
てなもんで、いや〜、名付け親はどなたであるか。
頭が下がる。ちなみに、白一色のギンミズヒキ、
黄色一色のキンミズヒキもある。 |