石井 |
ところでそろそろ、
卓球タイム、よろしいですか?
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糸井 |
卓球の人って、どうしてこう
薦めるんだろうね!
バレーボールの人が
「やりませんか」って、
ボール持ってきた話は聞いたことないもんね。
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石井 |
(気にしないで歩く)
卓球台のメカニズムを説明します。
ピエゾというデバイスを使った
センサーが8個あって、
ボールが落ちると、
落ちた音をセンサーが聞きます。
すると、それぞれのセンサーが
音を拾った時間というのは、
微妙にずれてるんですね。
その音の波の伝わりのずれから
三角測量しています。
ではサーブしてください。
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糸井 |
はい(笑)。
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石井 |
卓球というのは、
ゼロサムゲームなんですよ。
相手にミスをさせて
自分に点数を入れるんです。
つまり、相手が負けるのが、
おもしろい。
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糸井 |
うーん‥‥上手な人だったら
ラケットを持ちながら
画面を見るなんてことは
たやすいでしょうけど‥‥。
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石井 |
ええ。ヘタな人はダメです。
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糸井 |
そうですよねぇ?
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石井 |
いちど学生が、この画面で
「パックマン」を作ってですね、
それは卓球をしながらパックマンのモンスターに
ボールを当てなきゃいけませんでした。
プロだったらできますよ、
だけどすごくむずかしいです。
しかしいちばん大事なのはですね、いかに
オーディエンスにたのしんでもらうか。
この卓球台だと、ミスをしても、
ビジュアルがたのしいので、
みんながたのしめます。
ゼロサムゲームのコンペティションを
いかに建設的でコラボラティブな
アートパフォーマンスに
変えていくかということで、
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糸井 |
(カーン!)
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石井 |
お!
(スマッシュ、やられた!)
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糸井 |
すみません。
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一同 |
(笑)
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石井 |
この画面にはいろんなものを
出すことができます。
最近、チャイナからきた学生が
こういったゲームをプログラムしまして。
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糸井 |
ややこしいなぁ(笑)。
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石井 |
卓球しながらブロックを消していきます。
戦略的にどこを狙うか考える、
頭と技を使うのはたのしいですね。
こうして誰でも自由に
ゲームをデザインできます。
コードも、プロセッシングという
オープンソースのランゲージを使い、
アプリケーションも作り方も
全部公開しています。
コスト的な問題はプロジェクターだけなんですが、
それさえあれば、あらゆる学校や施設で
100ドルぐらいあれば作れます。
いろんな学校で、
いろんなものを作って
みんなで交流して、
お互いの作った作品を体験する。
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糸井 |
このセンサーがマイクだと
先生はさきほどおっしゃいましたが。
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石井 |
ええ、シンプルなマイクです。
ですから安くできますよ。
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糸井 |
その、工夫のしかたのようなものも、
先生の特徴でしょうか。
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石井 |
いや、まぁ、それは、
技術の部分なんで
MIT的にもいちばん
大切にするところなんですが‥‥
この卓球台を作ろうとしたところには
ぼくなりのストーリーがあるんです。
MITに来たのが、16年前。
1995年です。
けっこう落ち込みましてね。
なぜかというと、
学生のほうが、頭がいい。
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糸井 |
はい、はい(笑)。
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石井 |
数学も、ハンダづけも、
プログラミングも、電気も、
みんなぼくよりできる。
教授という人は、尊敬されないと、
仕事はないわけです。
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糸井 |
うん。
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石井 |
ですからぼくは
アトランタオリンピック仕様の卓球台を
買ってですね、
全員と真剣勝負して、打ちのめして、
畏敬の念と尊敬を勝ち得て、
強いチームを作ることに成功しました。
それはとてもよかったのですが、問題は
研究費を使ってしまったことです。
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糸井 |
はい(笑)。
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石井 |
会計検査院的なものは
ここにはないんですが、
卓球台に研究費を使ったので、
研究をでっち上げて、
「なんらかのセンサーをつけてやろう」
ということになりました。
その結果生まれたこのピンポンプラスは、
パリのポンピドー・センターに呼んでもらったり
ロンドンの
ヴィクトリア・アンド・アルバート・
ミュージアムに
呼んでもらいまして、
コンテンポラリーアートとして、
高い評価をいただきました。
ほとんど怪我の功名みたいなもんですね。
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糸井 |
では‥‥先生が最初に、
イニシアチブを取るために、
卓球台を導入した、ということですね。
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石井 |
はい。尊敬です。
学生の尊敬を得るためには
なんでもしました。
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糸井 |
尊敬と権力と資格と、
そういった全部のものを
逆転して動かすんだ、ということが
先生の発想の中にものすごく
あるような気がするんです。
先生の研究を
たくさん拝見して、
思ったことは、まずそこです。
立ち位置ができない人、
とにかく弱い人や
自分にはできないと思っている人を、
「ここ」に立たせる、
自分がここに立つ。
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石井 |
うん‥‥そうですね。
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糸井 |
それがいつでも工夫されている。
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石井 |
そんなふうに言っていただくのは
はじめてですね、
そんなふうに考えたことなかったけど‥‥。
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糸井 |
この卓球台がすごく
象徴的な気がして。
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石井 |
そうかもしれませんね。
たしかに、弱い人を
いかにエンパワーするか。
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糸井 |
コミュニケーションって、かならずしも
正しい人がイニシアチブを
取るというわけではありません。
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石井 |
ええ、ちがいますね。
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糸井 |
あいつの言うことを聞いてあげる、という
受け手の側が育ってくれないと
絶対にできないんですよ。
先生が、この卓球台で
典型的にそれをやってらっしゃった。
これはすごいものだ、と
ぼくは思います。
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石井 |
ありがとうございます。
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糸井 |
ここの状況と闘って
いまの立ち位置を勝ちとった、というよりは、
こいつを置いて、
そこから起こることに
先生は、いったん懸けたんですね。
(つづきます。卓球のようすを、ぜひ動画で!!)
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