第5回 卓球台を作ったきっかけ、 アメリカでの出発点。

石井 ところでそろそろ、
卓球タイム、よろしいですか?


糸井 卓球の人って、どうしてこう
薦めるんだろうね!
バレーボールの人が
「やりませんか」って、
ボール持ってきた話は聞いたことないもんね。

石井 (気にしないで歩く)
卓球台のメカニズムを説明します。
ピエゾというデバイスを使った
センサーが8個あって、
ボールが落ちると、
落ちた音をセンサーが聞きます。
すると、それぞれのセンサーが
音を拾った時間というのは、
微妙にずれてるんですね。
その音の波の伝わりのずれから
三角測量しています。
ではサーブしてください。
糸井 はい(笑)。

石井 卓球というのは、
ゼロサムゲームなんですよ。
相手にミスをさせて
自分に点数を入れるんです。
つまり、相手が負けるのが、
おもしろい。

糸井 うーん‥‥上手な人だったら
ラケットを持ちながら
画面を見るなんてことは
たやすいでしょうけど‥‥。
石井 ええ。ヘタな人はダメです。
糸井 そうですよねぇ?

石井 いちど学生が、この画面で
「パックマン」を作ってですね、
それは卓球をしながらパックマンのモンスターに
ボールを当てなきゃいけませんでした。
プロだったらできますよ、
だけどすごくむずかしいです。

しかしいちばん大事なのはですね、いかに
オーディエンスにたのしんでもらうか。
この卓球台だと、ミスをしても、
ビジュアルがたのしいので、
みんながたのしめます。
ゼロサムゲームのコンペティションを
いかに建設的でコラボラティブな
アートパフォーマンスに
変えていくかということで、
糸井 (カーン!)

石井 お!
(スマッシュ、やられた!)
糸井 すみません。
一同 (笑)
石井 この画面にはいろんなものを
出すことができます。
最近、チャイナからきた学生が
こういったゲームをプログラムしまして。


糸井 ややこしいなぁ(笑)。
石井 卓球しながらブロックを消していきます。
戦略的にどこを狙うか考える、
頭と技を使うのはたのしいですね。
こうして誰でも自由に
ゲームをデザインできます。

コードも、プロセッシングという
オープンソースのランゲージを使い、
アプリケーションも作り方も
全部公開しています。
コスト的な問題はプロジェクターだけなんですが、
それさえあれば、あらゆる学校や施設で
100ドルぐらいあれば作れます。



いろんな学校で、
いろんなものを作って
みんなで交流して、
お互いの作った作品を体験する。


糸井 このセンサーがマイクだと
先生はさきほどおっしゃいましたが。
石井 ええ、シンプルなマイクです。
ですから安くできますよ。
糸井 その、工夫のしかたのようなものも、
先生の特徴でしょうか。

石井 いや、まぁ、それは、
技術の部分なんで
MIT的にもいちばん
大切にするところなんですが‥‥
この卓球台を作ろうとしたところには
ぼくなりのストーリーがあるんです。

MITに来たのが、16年前。
1995年です。
けっこう落ち込みましてね。
なぜかというと、
学生のほうが、頭がいい。
糸井 はい、はい(笑)。
石井 数学も、ハンダづけも、
プログラミングも、電気も、
みんなぼくよりできる。
教授という人は、尊敬されないと、
仕事はないわけです。
糸井 うん。
石井 ですからぼくは
アトランタオリンピック仕様の卓球台を
買ってですね、
全員と真剣勝負して、打ちのめして、
畏敬の念と尊敬を勝ち得て、
強いチームを作ることに成功しました。
それはとてもよかったのですが、問題は
研究費を使ってしまったことです。
糸井 はい(笑)。


石井 会計検査院的なものは
ここにはないんですが、
卓球台に研究費を使ったので、
研究をでっち上げて、
「なんらかのセンサーをつけてやろう」
ということになりました。

その結果生まれたこのピンポンプラスは、
パリのポンピドー・センターに呼んでもらったり
ロンドンの
ヴィクトリア・アンド・アルバート・
ミュージアムに
呼んでもらいまして、
コンテンポラリーアートとして、
高い評価をいただきました。
ほとんど怪我の功名みたいなもんですね。
糸井 では‥‥先生が最初に、
イニシアチブを取るために、
卓球台を導入した、ということですね。
石井 はい。尊敬です。
学生の尊敬を得るためには
なんでもしました。
糸井 尊敬と権力と資格と、
そういった全部のものを
逆転して動かすんだ、ということが
先生の発想の中にものすごく
あるような気がするんです。

先生の研究を
たくさん拝見して、
思ったことは、まずそこです。

立ち位置ができない人、
とにかく弱い人や
自分にはできないと思っている人を、
「ここ」に立たせる、
自分がここに立つ。
石井 うん‥‥そうですね。
糸井 それがいつでも工夫されている。
石井 そんなふうに言っていただくのは
はじめてですね、
そんなふうに考えたことなかったけど‥‥。
糸井 この卓球台がすごく
象徴的な気がして。
石井 そうかもしれませんね。
たしかに、弱い人を
いかにエンパワーするか。
糸井 コミュニケーションって、かならずしも
正しい人がイニシアチブを
取るというわけではありません。
石井 ええ、ちがいますね。
糸井 あいつの言うことを聞いてあげる、という
受け手の側が育ってくれないと
絶対にできないんですよ。

先生が、この卓球台で
典型的にそれをやってらっしゃった。
これはすごいものだ、と
ぼくは思います。
石井 ありがとうございます。
糸井 ここの状況と闘って
いまの立ち位置を勝ちとった、というよりは、
こいつを置いて、
そこから起こることに
先生は、いったん懸けたんですね。



(つづきます。卓球のようすを、ぜひ動画で!!)


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2011-05-17-TUE

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN