坂本美雨のシベリア日記。
一日一日が、かけがえのない一日。




1/10/2001
シベリア鉄道の旅 DAY 15
ウリァーナとの別れ、市場、
そしてウオッカの夜。


昨日書きわすれたこと。
ウリァーナのおうちを出て
迎えに来たロケバスに乗り込んで、
機材とかをまとめるのに
ちょっと時間がかかっていたCREWを
ロケバスの中で待っていた時に、
ウリァーナが車に乗り込んで来てくれた。
名残惜しく、明日の予定や、
列車の時間などを話して、
送りに行くよ!
と言ってくれる。
駅まで遠いのにわざわざ‥‥
その気持ちが本当にうれしい。
ずっと長く長くバイバイをして、別れた。

昨晩上野さんと話して昨日の誤解を色々と解いて、
また方向性が少しずつ見えてきた ので、
今日は頭がハッキリしていて気分もいい。
今日はうまく笑える気がする。

エカテリンブルグはシベリア最果ての地。
シベリアといわゆる‘ロシア’の境界線。
町の風景は、少しずつモスクワへ
近付いていることを予感させる。
午前中は市場へ行くことに。



屋内市場。
天井の高いスペースに、生活の空気が溢れている。
色とりどりの野菜に、ウキウキしてくる。
場内に鳥が何羽か住み着いているようで、
鳴き声がエコーしている。
思い描いていたロシアの雰囲気。



ハッと横を見ると、ブタの頭、
というかカオが身体中の他のパーツと共に
並べられているのにギョッとする。
ふわぁ! と思わず目をそむけてしまう。
おじさんがオノででっかい肉の塊をぶった切っていて、
あまりのグロさに見ていられない。



だけどそれを自分も食べているわけだし、
そういう光景を‘キモチわる〜い’とか
言っているのもズルくてかっこ悪いなと思いなおし、
耐えてじぃっと見てみる。
とにかくブタの身体を丸ごと、
どこもムダなく売っていて、
あまりに豪快に身体ごと吊るしてあるので、
眺めているうちになんとなく納得した気持ちになる。
必要な分だけ、感謝して頂くなら、納得がいく。
(でも血抜きがちゃんとされていないので、
 食べれないな‥‥。)
おじさんおばさん達だって、
自分達で育てた豚を自分で殺さないと
いけないのかもしれない。
それを思うと、可哀想だなんて、とても言えない。

雨宮さんは早速キャビア、チョコレート、
ウォッカなどを購入してうれしそう。
花は意外とイキがいいけど、
そういえばロシアで生の切り花を見るのは珍しい。
肉売り場の横にはミルクと
サワークリームとヨーグルト。
おばさん達が自分のうちの牛の乳で作って売っている。
どんどん試食させてくれるけど
どれも同じ味に思えるんだけどな‥‥。
こっちのヨーグルトは酸っぱくてちょっとニガテかも。
こういうの、母親は好きだろうなぁ、
買っていってあげたいけどムリか、と思う。
その隣には漬け物売りのおばさん達。
それぞれの畑でとれた野菜と、
瓶づめの漬け物が色鮮やかに並ぶ。
ピクルス、ピーマンの漬け物などが
山積みになっている。
ピクルスが主流だけど、
他にはキノコ、ナス、ニンニクなど。
漬け物などは家庭によってそれぞれ、
味が違うのかもしれない。
母の味だ。
野菜は太いナス、外が真っ赤な大根や、
ビーツなども。きゅうりのピクルスを
試食させてもらってものすごくおいしかったので、
列車で皆で食べる事を考えて
思い切って1キロ購入。
1キロで50ルーブル。



あとは果物。
リンゴ、みかん、バナナなどは普通に揃っていたけれど、
ロシアでとれる果物というのはほとんど無いので、
輸入しているらしい。
他はおばさんばっかりなのに、
果物売りはお兄さんだった。
列車で食べる用にミカンを買ったら
(6コで20ルーブル?)
バナナをおまけしてくれた。
すっかり満足して外に出ると、
場外にも市場があって、
洋服とか生活雑貨(ホースとか蛇口まで)が
売られている。
外でシシカバブや魚を焼いていて、
ものすごくいい匂いだったのでトキメいたのに、
「今焼いているのは予約分で
 次焼き上がるのは15分後だよ」
と言うのでしかたなく諦めて、バスに帰る。



シベリアの人々は、自分の食卓に誇りを持っている。
それは、“自分が育てたものを食べる”ということと
繋がっている気がする。
自分が愛情をもって、
責任をもって育てたという自信。
だからその食材を使って
心から客人をもてなすこともできる。
愛情を注いだものを、
感謝を抱いて食べるというサイクル。
自分が大きなサイクルの一部だという事。
身体に染み付いた土のにおいと感触。
それ無くしては人間は生きれないということを
本能で分っている人達。
都会にいるとすぐに忘れてしまう、
大地に「生かされている」という事。

14時05分バイカル号発。
列車がホームにすべりこんでくるのを眺める。
あまりの地面の冷たさに底冷えをして、
早く乗りたいなぁと思いながらボーッと立っていると、
後ろからいきなり抱きついてきた人がいて、
ウリァーナだった!
ウリァーナが見送りに来る、
というのは昨日の時点で知ってはいたはずなのに、
その瞬間はすっかり忘れていて、
本当にびっくりして
「こんなところで何やってんのーー!?」
と感激。また昨日の片道2時間の道のりを、
わざわざ貴重な休みの日に見送りに来てくれるなんて!
寒くて顔の感覚がないので
どんな表情をしているのか自分でもわからないけど、
うれしくて笑いながら泣いていた気がする。
彼女も笑いながら少し泣いてて、
「やっばいなーこれじゃほんとに感動のテレビだなー」
とか頭の隅で思いながら、
身体中がうれしくてしょうがない。
でも、もう列車が発車する時間。
ギューーっとハグしてバイバイして、
列車に乗り込んで、
ウリァーナは寒い中ホームにずっと立って
列車が出発するまで見送ってくれた。
列車が走り出すとやっぱりとても切なくなって、
そして雪に反射した午後の太陽の陽が美し過ぎて、
窓の外眺めながら涙が出そうでしょうがなかった。
そうしたら、太陽の周りに
おおーーきく虹がかかっていて、
くっきりと7色が浮かび上がっていて、
鳥肌がたつほど感動した。
30分ほど走ったところで、ウリァーナが
‘またオベリスクが見えるから’と教えてくれたのが
左側に見えて、一瞬で通り過ぎた。
昨日見たのとは違うけれど、
これでやっとヨーロッパに入った…。

その後、市場で買った豪快なピクルスを、
もちろん切ったりせずに手でつかんで豪快に食べる。
めちゃくちゃウマイ!
ロシアチームのコンパートメントは
ピクルスとさきイカのニオイがプンプン‥‥。
雨宮さんが市場で見つけてきたウォッカは
とてもまろやかで、飲み込む時のアルコールの
ウッとくる感じが全然無くて、
すごく飲みやすい!
どんどん飲めてしまう。
コンパートメントで、アンドレイさんに
‘ウォッカの正しい飲み方’講座を開いてもらう。

1)一気にハァッと肺から息を吐き出して、
2)息を吸わずにウォッカをクッと飲んだら、
3)次の呼吸でピクルスの匂いを肺いっぱいに嗅いで、
4)ピクルスを食べる。

夕方までにロシアチームは
ウォッカ一本半開けてしまった‥‥。

車掌はすごくいい人で、愛想の良いお姉さん。
こまめに気をつかってくれる。
廊下、個室、トイレの掃除。
お湯や毛布の世話、窓ふきなど。
働き者じゃないと車掌の仕事はやっていけないのだなぁ。

夕飯は食堂車。今日はチキンではなくビーフを頼む。
今夜は車内最後の夜だから、
なんとなく離れがたい空気がある。
夜、杉山さんが隠し(?)持ってた
ウォッカの瓶を無理矢理開けさせてしまい、
樋口・雨宮・杉山・藤井・坂本チームで
若者コンパートメントで飲む。
コップで飲んでいたので、かなり飲んだはず。
雨宮さんの持ってたオレンジを絞って飲んだら、
これがウマい。特に雨宮さんがお気に入り。
飲めなかったはずなんだけどなぁ‥‥。
なんだか皆ウキウキして、20分停車駅で降りて、
陸橋の上にのぼったり、写真を撮ったりする。
置いて行かれないか心配しながら、
ホームの向こう側のキオスクまで走ったりして。
そのキオスクで、藤井君がパックのジュースを買う。





ホームでまた犬を呼んでしまったよう
(なんか引き付けてしまうらしい)。
野良なのかもしれない。



列車の入り口の所に座ってこっちを見上げていて、
そのつぶらな瞳に、離れがたくなって、
つまみにしていたソーセージをあげたりする。
ムシャムシャ食ってるうちに
もう一匹同じような犬が現われて、
2匹でバーーッとどっかへ走り去ってしまった。
私達なんかよりもずっと
別れには慣れているんだろうなぁ。

発車してからもまだ雨宮さん杉山さんは飲んでいて、
樋口さんはバタッと倒れ込んで寝てしまう。
藤井君もスヤスヤ寝ちゃったところで、
西野さん達が食堂車から
コンパートメントに帰ってくる。
食堂車では、ロシアンチーム大論争が起きていたらしい。
私もさっさと寝ようとして横になった途端
クエッと戻しそうになってびっくりして
水ガブガブ飲んで無理矢理眠る。
飲み過ぎたなー、雨宮さん強いなー、
でもこの雰囲気、合宿っぽくて不思議と幸せだなー、
と思いながら、いつのまにか眠りにおちる。

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冷たい水に触れる、指先。

透明感のある繊細なエレガンス、
毅然としたハードさ、フェミニンな揺らぎ。
耳から首筋、鎖骨へのしなやかなラインは
女性の美しさの象徴のような気がします。
そこを、水滴が一粒流れ落ちるような...。
そんなイメージを抱いています。

幼い頃から、母親や友人や自分のために
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好きでたまりませんでした。
最近、人を綺麗に見せるラインの洋服が
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そんな中で、おもわず背筋がピンと延びるような、
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坂本美雨さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「坂本美雨さんへ」と書いて
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2003-10-16-THU
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