三宅 |
ただ、フジよりは日テレさんのほうが、
やっぱり数字にうるさいわけでしょう? |
土屋 |
たぶん、結果としてはそうですね。
「毎分視聴率があがっているコーナーを
伸ばせば、全体の視聴率はあがるんだ」
「この時間帯に人が集まっているんだから、
そこに来る人たちがよろこぶものをやれば、
全体の視聴率はあがるんだ」
そう言っている人の主張は、
マネしやすいわけです。だけど、
「自分がおもしろいと感じたら、
あとは思いっきりやればいいのさ!」
この考えは、マネが非常にしづらい。 |
糸井 |
うん。 |
土屋 |
そうすると、
若い連中はやっぱり、
自分のバッターボックスが
まわってきてほしいから、
わかりやすい方向の
マニュアルに寄って行きがちになります。
「土屋さんは、
『おもしろいことを
力一杯どんどんやればいい』
と言うけど、それで視聴率が悪かったら
もうバッターボックスに
立たせてもらえないんじゃないか。
それよりも、視聴率を上げる作り方、
と言われてることをやるほうが確実だ」
そうやっているうちに
「数字さえあればいいんだから……」
ということになってしまいがちだと。
正直なところ、
そういうことだと思うんですよ。 |
三宅 |
わかります。
そういうことはみんな考えますから。 |
土屋 |
一瞬なら、誰でも思いますよね。
みんな思うけど……でも、
そこでふんばるよりどころになるのが、
やっぱり「おもしろい」という
節度だと思うんです。
「おもしろい」という節度を、
スタートから捨ててしまわなければ、
「調査会社の車のあとをつけて説得して……」
という事件にまでは至らなかったと思います。 |
三宅 |
昔、萩本さんが
編成について言っていたことがあって
「新聞の横のラインをはずしたら、
絶対に数字があがる」と。
実際に、欽ドンの時も
「七時半から九時」で
八時またぎをやる編成で、
影の編成部長みたいな
言われかたをしていたけれど、
後に日テレさんが、
例えば七時五八分に番組をはじめる
という形で数字を上げましたよね。 |
土屋 |
はい。 |
三宅 |
あれは、フジからすると、
「ちきしょう、やられた!」
と思うわけです。
「方法論として、
うまいこと考えたなぁ」と。
だけどそこで情けないのは、
フジテレビで
同じことをやろうとする連中ですよね。
「その手法は、
もう日テレでやられているんだから、
もうこれは認めて、
違うところへ行こうぜ!」
そういう意識を持っている連中が
少ないみたいなところはあります。
たとえば、昔、
「ドリフ」と「ひょうきん族」が
ライバルとして同時に放送していたけれど、
今は
「これがいちばん数字を取っているから、
この時間帯は二番目でいいや」
という勝負のやりかたをする場合が、
どの局でも多いわけです。
「ドラマがふたつあるから、
こっちはバラエティで」
という編成をするじゃないですか。
萩本欽一さんに言われたんだけど、
「他局のバラエティが
当たっているときは、同じ時間帯に
バラエティをぶつけて落とすんだ」
「流行っているドラマには、
違うドラマをぶつけるんだ」
ということなんです。
そうすると、両方がよくなってくるし、
存在価値が生まれてくる。
今はそういう勝負をすることが
なくなっているんですけど。 |
土屋 |
当てようという気持ちよりも、
「ハズさないようにしよう」
というやりかたですよね。 |
三宅 |
そうです。 |
土屋 |
「オレは絶対、当ててやる!」
と言ってるのではなくて、みんなが
「ハズさないようにしよう」
と言ってるテレビなんて、
おもしろいわけがないと思うんです。 |
糸井 |
もう、テレビを観ることが
前提になっている時代ではないですから、
なおさら、そうですよね。
今の話を聞いていて、
美容師業界のことを思い出したんです。
美容師って、もともとは、
小難しいことを考える子が
やっている商売ではないですから、
出世したとしても、
「ちょっと気分は暴走族」
みたいなところが、あるじゃないですか。
話を聞いてみると、みんなが
「青山にお店を出したい」と言うんです。
あれって、要するに、
「暴走族がいちばん沢山やってくる
集会に殴りこみに行って勝ちたい!」
というものじゃないですか。
だからこそ、美容院に行きたい子は、
青山に来るわけです。
「そこでやったら失敗するから、
オレは松濤でやる」
って言ったら、お客さんが来ないですよね?
テレビの対決も、そういうことでしょう。 |
土屋 |
なるほど。そうですね。 |
糸井 |
青山に行けば、美容院どうしの
熾烈な競争が見られるから、
わざわざ上京して髪を切りにいくわけですし、
ドリフとひょうきん族をぶつけあうところに、
「テレビを見る」ということをさせる
エネルギーが生まれてくる。
それをしなくなると
「青山に来る」
「テレビを見る」
というエネルギーが
なくなってしまうわけです。
「近い美容院を作る」
と言ってしまったら、次に
「安い美容院を作る」
って、絶対になりますよ。
つまり、価格戦争に入ってしまいますからね。
そうなると、「腕のよさ」とか、
「自分の気持ちよさ」だとかは
二の次になってしまって
「安くて便利」というところに、
あらゆるものが、行ってしまうんです。
そうなってはまずいということについては、
マーケの人たちだって、
考えるべきところだと思うんですよ……。 |
三宅 |
そうですよね。
だからジャニーズ事務所も、
キムタク主演のドラマの裏に
クサナギさんのドラマをやれば、
逆にいいかもわかんないですよね。 |
糸井 |
そうしたら、
「その時間帯に
テレビっていうものに
向かってくる人たち」
が、息せき切りますよね? |
三宅 |
確かに、さんまさんの裏で
紳助さんの番組をやったりすると、
逆におふたり両方の力が
上がるところがあるんですよね。
もしかしたら、そのほうが、
見るエネルギーは増すかもしれません。 |
糸井 |
「テレビという町」だと
考えればいいわけですから。 |