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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

6. ぶつかりあいが生む力

「視聴率」に関するシビアな話からはじまる
三宅恵介さん、土屋敏男さんと糸井重里の鼎談は、
「おもしろい企画を生むための環境はなんだ?」
と、体当たりで語ることになりました。
見てもらってナンボであるのがテレビだけれど、
見てもらうための「勝負」のしかたについては、
三宅さんも、土屋さんも、考えがあるようでして。
ではさっそく、今日の話を、読んでみてください!

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

三宅 ただ、フジよりは日テレさんのほうが、
やっぱり数字にうるさいわけでしょう?
土屋 たぶん、結果としてはそうですね。

「毎分視聴率があがっているコーナーを
 伸ばせば、全体の視聴率はあがるんだ」

「この時間帯に人が集まっているんだから、
 そこに来る人たちがよろこぶものをやれば、
 全体の視聴率はあがるんだ」

そう言っている人の主張は、
マネしやすいわけです。だけど、
「自分がおもしろいと感じたら、
 あとは思いっきりやればいいのさ!」
この考えは、マネが非常にしづらい。
糸井 うん。
土屋 そうすると、
若い連中はやっぱり、
自分のバッターボックスが
まわってきてほしいから、
わかりやすい方向の
マニュアルに寄って行きがちになります。

「土屋さんは、
 『おもしろいことを
  力一杯どんどんやればいい』
 と言うけど、それで視聴率が悪かったら
 もうバッターボックスに
 立たせてもらえないんじゃないか。
 それよりも、視聴率を上げる作り方、
 と言われてることをやるほうが確実だ」


そうやっているうちに
「数字さえあればいいんだから……」
ということになってしまいがちだと。
正直なところ、
そういうことだと思うんですよ。
三宅 わかります。
そういうことはみんな考えますから。
土屋 一瞬なら、誰でも思いますよね。
みんな思うけど……でも、
そこでふんばるよりどころになるのが、
やっぱり「おもしろい」という
節度だと思うんです。

「おもしろい」という節度を、
スタートから捨ててしまわなければ、
「調査会社の車のあとをつけて説得して……」
という事件にまでは至らなかったと思います。
三宅 昔、萩本さんが
編成について言っていたことがあって
「新聞の横のラインをはずしたら、
 絶対に数字があがる」と。
実際に、欽ドンの時も
「七時半から九時」で
八時またぎをやる編成で、
影の編成部長みたいな
言われかたをしていたけれど、
後に日テレさんが、
例えば七時五八分に番組をはじめる
という形で数字を上げましたよね。
土屋 はい。
三宅 あれは、フジからすると、
「ちきしょう、やられた!」
と思うわけです。
「方法論として、
 うまいこと考えたなぁ」と。

だけどそこで情けないのは、
フジテレビで
同じことをやろうとする連中ですよね。
「その手法は、
 もう日テレでやられているんだから、
 もうこれは認めて、
 違うところへ行こうぜ!」

そういう意識を持っている連中が
少ないみたいなところはあります。

たとえば、昔、
「ドリフ」と「ひょうきん族」が
ライバルとして同時に放送していたけれど、
今は
「これがいちばん数字を取っているから、
 この時間帯は二番目でいいや」
という勝負のやりかたをする場合が、
どの局でも多いわけです。

「ドラマがふたつあるから、
 こっちはバラエティで」
という編成をするじゃないですか。

萩本欽一さんに言われたんだけど、

「他局のバラエティが
 当たっているときは、同じ時間帯に
 バラエティをぶつけて落とすんだ」


「流行っているドラマには、
 違うドラマをぶつけるんだ」


ということなんです。
そうすると、両方がよくなってくるし、
存在価値が生まれてくる。

今はそういう勝負をすることが
なくなっているんですけど。
土屋 当てようという気持ちよりも、
「ハズさないようにしよう」
というやりかたですよね。
三宅 そうです。
土屋 「オレは絶対、当ててやる!」
と言ってるのではなくて、みんなが
「ハズさないようにしよう」
と言ってるテレビなんて、
おもしろいわけがないと思うんです。
糸井 もう、テレビを観ることが
前提になっている時代ではないですから、
なおさら、そうですよね。

今の話を聞いていて、
美容師業界のことを思い出したんです。
美容師って、もともとは、
小難しいことを考える子が
やっている商売ではないですから、
出世したとしても、
「ちょっと気分は暴走族」
みたいなところが、あるじゃないですか。

話を聞いてみると、みんなが
「青山にお店を出したい」と言うんです。

あれって、要するに、
「暴走族がいちばん沢山やってくる
 集会に殴りこみに行って勝ちたい!」

というものじゃないですか。

だからこそ、美容院に行きたい子は、
青山に来るわけです。
「そこでやったら失敗するから、
 オレは松濤でやる」
って言ったら、お客さんが来ないですよね? 
テレビの対決も、そういうことでしょう。
土屋 なるほど。そうですね。
糸井 青山に行けば、美容院どうしの
熾烈な競争が見られるから、
わざわざ上京して髪を切りにいくわけですし、
ドリフとひょうきん族をぶつけあうところに、
「テレビを見る」ということをさせる
エネルギーが生まれてくる。

それをしなくなると
「青山に来る」
「テレビを見る」
というエネルギーが
なくなってしまうわけです。

「近い美容院を作る」
と言ってしまったら、次に
「安い美容院を作る」
って、絶対になりますよ。
つまり、価格戦争に入ってしまいますからね。

そうなると、「腕のよさ」とか、
「自分の気持ちよさ」だとかは
二の次になってしまって
「安くて便利」というところに、
あらゆるものが、行ってしまうんです。


そうなってはまずいということについては、
マーケの人たちだって、
考えるべきところだと思うんですよ……。
三宅 そうですよね。
だからジャニーズ事務所も、
キムタク主演のドラマの裏に
クサナギさんのドラマをやれば、
逆にいいかもわかんないですよね。
糸井 そうしたら、
「その時間帯に
 テレビっていうものに
 向かってくる人たち」
が、息せき切りますよね?
三宅 確かに、さんまさんの裏で
紳助さんの番組をやったりすると、
逆におふたり両方の力が
上がるところがあるんですよね。
もしかしたら、そのほうが、
見るエネルギーは増すかもしれません。
糸井 「テレビという町」だと
考えればいいわけですから。

今日の仕事論:

「若い連中はやっぱり、
 自分のバッターボックスが
 まわってきてほしいから、
 わかりやすい方向のマニュアルに
 寄って行きがちになります。
 『おもしろいことを
  力一杯どんどんやればいいと言われても、
  視聴率が悪かったら次はないんじゃないか。
  それよりも視聴率を上げる作り方が確実だ』
 正直なところ、そうやっているうちに
 数字さえあればいいんだから……
 ということになってしまいがちです。
 一瞬なら、誰でも思いますよね。
 みんな思うけど……でも、
 そこでふんばるよりどころになるのが、
 『おもしろい』という節度だと思うんです。
 『オレは絶対、当ててやる!』
 と言ってるのではなくて、みんなが
 『ハズさないようにしよう』
 と言ってるテレビなんて、
 おもしろいわけがないと思うんです」
            (土屋敏男)

※次回は、ものづくりをする企業の発展と
 「おもしろさ」との関係についての話になります。
 
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 今後も、シリーズ鼎談として続いてゆく連載なので、
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2004-06-22-TUE

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