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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

11. 一度は天狗になるべき?

フジテレビの三宅恵介さんと、
日本テレビの土屋敏男さんが、
どちらも、経験から学んだことを、
惜しまずに手渡しするように、
話をつづけてくださっています。
「おもしろさ」を生む源が、すでにいくつも出ていて、
「読んでいて、つい、やる気になってしまった」
というメールまで、いただいているぐらいなのでした。

今日は、企画に登場してもらう人と、
どのようにつきあってゆくのかについてのお話です。
「芸人さんは、一度は天狗になっておくべき?」
そんな話を、主に、三宅さんが、してくれるんです。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 ドキュメンタリーは、
放っておいても撮れないものですよね。

たとえば、動物園にも、
元気のない動物を見たい人は
いないわけですよね。

動物園の飼育係が、
動物を元気づけるように、
演者を動機づける腕が必要になる……
そこが三宅さんのすごさだと思います。


『おそく起きた昼は…』の
あの三人も、ただ放っておいたら、
きっといつかは気のゆるみが出て、
つまらなくなってしまうはずなんです。

ああいう番組って、
放っておくとダメになる理由が
いくつもあるんです。
だけど、ずっと見ていても、
ダメになっていない。
それがすばらしいなぁと思いました。
三宅 あの番組は、年に1回
「オンステージ」として、
3人で舞台をやってるんです。
土屋 池袋サンシャインですよね。
三宅 はい。

そこに、ほんとに
お客さんがいっぱいになるんですよね。

六〇歳過ぎた方が、
北海道からひとりで来たり、
幅広いお客さんたちで。
それがすごいうれしかったんです。
あの三人を、
娘みたいに思ってる人もいたり……
どこかで、感情移入するんでしょうね。

貴理子さんは、最近さらに
忙しくなっているんですけど、
おかげさまで
「悩んでいるときに、
 この番組の撮りがあるとホッとする」
と言ってくれているんです。
こちらにとっては、
すごくありがたいことなんですよ。

昔、ひょうきん族でも
そういうことがありました。
当時のたけしさんやさんまさんが、
ドラマとか、外で思うようにいかないときに
『ひょうきん族』に帰ってくると、
うっぷんをぜんぶ出すから、
すごくおもしろくなるんですよね。
土屋 『ひょうきん族』のすごいところは、
やっぱり、
「たけしさんが
 ズル休みをすることはおもしろい」

という、
テレビとしてはありえないルールを、
作っちゃったところだと思うんです。
三宅 いや、ほんとに来ないんですよね。
糸井 芸人さんって、
単純にいい気になる時代があるから、
それを上手に
ドキュメンタリーにしてたわけでしょう?
三宅 そうです。
糸井 今は、そこの余裕が、
もうなくなってきたと思うんだ。
三宅 ああ、それはありますね。
糸井 芸人さんって、
「いい気になるから芸人」なのにねぇ。
三宅 もちろん、そうです。
さんまさんも言うんですけど、
絶対に、一度は天狗になったほうがいいって。
糸井 なったほうがいいですよね。
それを、まわりは、どうやって許したり、
登らせすぎないというか……。

たけしさんが
いい気になったであろう時代って、
自分自身がいい気になった時代と重なるわけです。
三宅 そんな時代、あったんですか?
糸井 ふりかえってみると、
天狗になっていたと思う。

お笑い番組の
審査員みたいなことをしていて、
袖にイヤホンを通して
野球のラジオ中継を聞いてたんですから。
今だったら、失礼だから
絶対にやりませんよね。
でも、いい気になっていた時代には
できるんです。

たぶん、
「そこまでしなくてもいいじゃない?」
という
芸人さんの風俗遊びみたいなものも、
その時期にしかできないものであって……
だから、たけしさんも、
ほんとにズル休みだったんでしょうね。
三宅 朝、入り時間の十分前ぐらいに来ないと、
現場のマネージャーが
そわそわしはじめるんです。

そうすると、さんまさんなんかもう、
「ああ、今日、お休みね」
とわかっていらっしゃるんですけど(笑)。

それで、
たけしさんの出ないぶんだけを撮って、
そのぶん早く終わったから飲みに行くと、
飲み屋で会ったりするわけです。

そうすると、もう
たけしさんもバツが悪いわけです。
本人にしてみれば、収録の時間は
確かにつらかったんだろうと思うんです。

だけど、寝ていれば元気になって、
元気になったらヒマだから飲みにいって……
いちばんおかしかったのは
「オバケが出たから
 こわくて眠れなくて休んだ」

という話でした。
糸井 昔は、それを許す余裕があった。
三宅 まあ、しゃあないですもんね。
だからひねりだす……。
土屋 当時、
テレビ局に入ったばかりだったから
ひょうきん族のそういうシーンを見て
「こういうことがテレビになるんだ!」
と驚いたことは、
自分なりの夢につながりましたよね。
糸井 土屋さんは、ただ単なる
「休んでもいい」
という方法論としては
受け取っていないですよね。
そこがポイントだと思うんです。

さっき、
大事にしたいものがあって、
破りたくない約束があるからこそ、
壊すのがドキドキするという
話が出ていたけど、それと同じで、
「たけしさんが来なかったらどうしよう?」
という、すごいセコイ心があるから、
おもしろいわけですよね?
土屋 ええ。
糸井 いいんだよ、休んでも、ってなったら、
次は紳助さんが休みますもん。
三宅 そうですよね。
土屋 困って困って、
もうこうするしかないじゃんっていう
おもしろさですよね。
三宅 そうです。
糸井 一生懸命やってると、
生まれるんですよね。

今日の仕事論:

「芸人さんって、
 単純にいい気になる時代があるから、
 『ひょうきん族』は、それを上手に
 ドキュメンタリーにしてたわけでしょう?
 『ひょうきん族』を見ていた
 土屋さんにしても、ただ単なる
 休んでもいいという方法論としては
 受け取っていないですよね。
 そこがポイントだと思うんです。
 大事にしたいものがあって、
 破りたくない約束があるからこそ、
 壊すのがドキドキするという
 話が出ていたけど、それと同じで、
 たけしさんが来なかったらどうしよう?
 という、すごいセコイ心があるから、
 おもしろいわけですよね?
 いいんだよ、休んでも、ってなったら、
 次は紳助さんが休みますもん。
 そこで困って、一生懸命やってると、
 なにかが生まれるんですよね」
             (糸井重里)

※次回は、いい番組と思える企画でも、
 なぜか視聴率が低かったりするという現象を、
 土屋さんが話してくださります。これも必見!
 
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 今後も、シリーズ鼎談として続いてゆく連載なので、
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2004-06-29-TUE

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