- ──
- 芹沢銈介さんから教わったことで
いちばんのことって、何ですか?
- 望月
- そうだね、やっぱりさ、
何でもチャレンジしろってことだね。
- ──
- なるほど。
- 望月
- 考えてみりゃあさ、あの人だってさ、
年食ってからも
新しいもの、はじめてのものに
いろいろとチャレンジしてたんだよ。
最後のほうはシルクで作品やったり、
陶芸なんかも、やろうとしてたよ。
- ──
- そうなんですか。
- 望月
- だから俺も「マンネリ」になるのが
いちばんイヤなんだ。
何かしら、チャレンジしてねえとね。
- ──
- 望月さんにとって
動物って、どのような存在ですか?
- 望月
- わかんないけど、
タヌキやらフクロウやらゾウの尻やら
いろいろやってるとさ、
人間も動物も、同じような気がするよ。
- ──
- それは、どういう意味で?
- 望月
- いや、まあ、たとえばだけどさ、
サルなんか見てると
ハッキリと「親分子分」があるわけだ。
腕っぷしが強けりゃあ天下だってんで
サル山のてっぺんで
にらみ効かせて威張り散らしてるけど
弱けりゃ、エサにもありつけない。
- ──
- ええ。
- 望月
- やつらの、そんなようなのを眺めてると、
俺たちの社会の縮図だ、
人間の世界と同じじゃねえのって思うよ。
人間は動物がでっかくなったもんだしさ、
動物は人間がちっちゃくなったもんだよ。
- ──
- 多摩動物園に通って、動物を見てたら
そう思うようになったってことですか。
- 望月
- こないだなんか
知り合いが入ってる養老院に行ってさ、
いろいろ聞いてきたけど
ああいうとこにも親分と子分がいて、
「あいつは好きだの、
こいつは好きじゃねえだのって
ごちゃごちゃやってて
こっちはもう80のジジイなのに困る」
なんつってさ、嘆いてたよ。
- ──
- そうなんですか。
- 望月
- 人間と動物で、同じことやってるんだよな。
俺たち人間だ人間だって威張ってったって
所詮は動物だって思うし、
下等な動物だっつっても
けっこう利口だよって思うこともあるしね。
- ──
- そういう気持ちでつくってるから
望月さんの動物って
なんかこう‥‥
人間みたいに見えたりするのかも。
- 望月
- そうかい。
- ──
- 望月さんは、絵を描く人で言うと
どういう人が好きだったんですか。
- 望月
- グタイのヨシハラ。
- ──
- グタイ‥‥の、ヨシハラさん。
- 望月
- そうそう、グタイ。昔の。
知ってるでしょ、グタイ。
- ──
- すみません、
はなはだ不勉強で存じ上げないので
すぐにスマホで検索します。
‥‥具体美術協会の、吉原治良さん。
- 望月
- そう。
- ──
- あ、この真っ赤なマルを描いた絵は
竹橋にある
国立近代美術館で見たことあります!
- 望月
- 生誕100周年のときは
大きな美術館で回顧展をやってたり、
有名な人なんだけど
その吉原さんが親方やってた
具体美術協会ってグループの考え方が
好きだったんだ、俺。
- ──
- どんな考え方だったんですか?
- 望月
- 「ぜんぶ新しいものでなきゃあダメだ。
古いものは捨てろ。
自分でなきゃならねえものを、やれ」
- ──
- おお。
芹沢さんの教えとも通ずる感じですね。
- 望月
- 俺も、そういうふうにやりたいけど、
なかなか、うまくいかないねえ。
- ──
- じゃあ、望月さんが
次にやりたいことって、何ですか?
- 望月
- 最近「木口木版」はじめたんだよ。
輪切りにした木の切り口を版面にする
版画の方法なんだけどね。
- ──
- それで、どのような作品を?
- 望月
- 今は森とか樹木の姿を刷ってるけれども
動物だっていいし、
あとでまた、
人間のイヤな顔でも描きてえと思ってる。
- ──
- またイヤな顔ですか(笑)。
- 望月
- うん。
- ──
- でも「イヤな顔」って、
いい意味でおっしゃってるんですよね?
- 望月
- まあ、いい意味も悪い意味も、
イヤな顔って、いちばん難しいんだよ。
人間の顔のなかでも。
- ──
- いつも「顔」を観察してるんですか?
- 望月
- 別に、誰かの顔ってわけじゃねえけど
自分の顔と混ぜたり、
電車のなかで
知らないばあさんの顔を描いたりさ。
- ──
- へえ。
- 望月
- 電車で顔を見てると、おもしろいよ。
「この親父、
母ちゃんと夫婦喧嘩してきたけど、
知らーん顔して乗ってるな」
とか、いろんなことを想像するんだ。
- ──
- なるほど(笑)。
- 望月
- 俺、よく「青春18きっぷ」で行くんだ。
2150円で博多まで行けるし。
東北だったら、青森まで行けるわけよ。
- ──
- ‥‥行くんですか、今でも?
- 望月
- 行くよ。青森まで行くってなると、
乗り換えがね、
何しろ10回以上あると思うんだ。
夜中の11時ごろに着くんだけど
安酒を持ってさ、
ビール半ダースくらい持ってさ‥‥。
- ──
- 持っていきすぎじゃないですか(笑)。
でも、そうやって、
えんえんと鈍行電車に揺られながら、
人の顔を観察してるんですか。
- 望月
- まあ、顔だけじゃねえけどね。
あるときなんかさ、
夜中で酒のつまみがねえなと思ってたら
真夏で暑いもんで
目の前のばあさんの「花柄のパンツ」が
丸見えになってたんだよ。
- ──
- ‥‥‥‥‥‥。
- 望月
- もう、まいっちゃってさ、
とんだ酒のつまみがあったもんだなって
友だちと笑ってさ。
‥‥で、何の話だったか?
- ──
- いや、望月さんがお元気なのって
やりたいことがあるからなんでしょうね。
- 望月
- そろそろ、ご臨終だけどね。
- ──
- なかなか、そうならなさそうな感じが
すごくしますけど(笑)。
- 望月
- まあ、またこのギャラリーで
展覧会やらしてもらう約束があるんだ。
来年になるか、再来年になるか。
- ──
- おおー、2年後に個展ですか!
それじゃあ
まだまだお元気でいるしかないですね。
- 望月
- まあ、うん、しょうがねえよ。
でもさ、このごろ、
同級生が、バタバタ死ぬんだよ(笑)。
- ──
- な、なるほど。
- 望月
- このあいだも同級会があったんだけど
「最後に残ったやつが
誰からも香典もらえなくなる前に
このへんで
集まりもやめとくか?」って(笑)。
- ──
- ともあれ、楽しみにしてます。
2年後の個展。
- 望月
- どうなることやらわかんないけど、
まあ、がんばってやるよ。
畑も今年いっぱいはがんばってやって
身体も動かそうと思ってんだ。
去年なんかは
スイカつくるのもイヤだったんだけど。
- ──
- 体力づくりですね。いいですね。
- 望月
- うちの女房なんかさ、6キロのスイカ、
半分は食っちゃうんだよ、1日で。
- ──
- 3キロも? すごいですね‥‥。
- 望月
- だから俺もあの元気を見習ってさ、
来年だか再来年だか、ま、がんばりますよ。
<おわります>
2015-05-14-THU