<♪ろっくんろーる・うぃどー♪>
気がつくと、そこには、赤い傷口。
なめてもなめてもなおらない傷をつくって。
なめてなおすのが仕事だからと。
頭を垂れて、脚を伸ばして、反復運動。
執拗に。
だから、規則正しく。
だれも、見ていないけれど、
気が遠くなるほどの、傷の手当て。
気がつくと、そこには赤い傷口。
わたしとTが、心ならずも深刻ぶって、頬づえついて、
ゆくえ知らずのふたりのゆくえや、
ゆうべのひみつめいた、ことばじりや、
いちにちがだれよりも、
はやくおしまいになってしまうことや、
漢方の効きかたを受け入れられないでいることや、
無脂肪乳のみるくを買い忘れてたことに、
いらだちを隠せないでいるとき。
どうしても、声はあらがうときの声になり。
あんたなんかわたしの人生のどこら辺から、
関わってきてるのかさえ定かじゃ無いんだから、
何処にでも行っちゃってよ。
誰かとさすらってきちゃってよ、今すぐ。
なんて、じぶんの声がりえぞんしながら高くなってるとき、
まるっこい彼は、とにかく傷に差し向い、なめはじめる。
『あいつの傷、どんどん深くなってる。
かさぶたなんかになりっこないくらい』
それが、傷を癒しているのではなくて。
つくらなくてもいい傷を、懸命にこしらえていたのだと
気づいたのは、ついこのあいだのことだった。
ときどき、わたしとTはよどんでくる。
もうこれ以上、沈澱することが間に合わないほど、
よどんでしまえば、しまうほど、
赤い傷口は、ずんずんと突き抜けてしまう。
まるっこい生き物は、聞きたく無いのだ。
どうであれ、わたしとTの不毛めいてる争いごとの声など。
だから、耳を塞ぐかわりに、傷をこしらえる。
とびきり赤い傷を。
『もう、な〜んも聞いちゃいませんぜ』って。
無心になれる唯一の傷をつくって、時間をやりすごすのだ。
ふたりの喧嘩の火種は、血統書もなんもない
名も無き猫の脚に飛び火する。
そういえば、小っちゃかった頃、
ママ&パパのこぜり合いを聞きたく無くて、
わたしも赤い傷口をこしらえた。
ふたりの痛い声を遠ざけて、ふたりの寝室へゆき。
お布団をすっぽり頭だけにかぶせて、
お尻だけをだして。
クマのプ−さんのさし絵みたく唄うのだ。がなるのだ。
休み時間にもいっぱい流行っていたあの唄を。
お布団のなかでこもってるから、おばちゃんみたいな声で。
♪ろっくん・ろーる・うぃどーあはは♪を思いきり。
聞きたく無い声を拒んでしまおうと、育まれてゆく傷口。
それがめっちゃくちゃへたっぴぃ〜な
♪ろっくん・ろーる・うぃどーぉぉぉあはは♪
だったんだよ〜んって、笑わせたいのよ、
ほんとうは、いますぐTを。
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もりまりこの第一歌集『ゼロ・ゼロ・ゼロ』の
(フーコー/星雲社)
ブックでザインをてがけてくださった
立花文穂さんの個展『体からだ』が、
表参道の『ア−トショップナディッフ』
(03-3403-8814)
にて開催されています。(〜2.28)
なお、開催中は歌集も同時販売されています。
みなさまお誘いあわせの上、どうぞお越し
くださいませ。
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