80's
80代からのインターネット入門。
前橋の母Aが、Eメールで原稿を
送ってくるまでの物語。

第7章 レッスン3は、晴れた日だった(4)。


ジグソーパズルにすぐ飽きて、
ワープロをコツコツはじめたミーちゃんは、
果たして何を書いているのだろうか?
こういうものは、普通ある程度お年を召した女性だと、
「あら、見ないでくださいよ」とか、
お弁当をフタで隠して食べるような反応をするものだが、
ミーちゃんは、ちがうようだ。
公になるならなればいい、って感じ?
このへんの度胸が、海外旅行体験数知らずの
経験のせいなのか?

今日はちょっと長めに掲載いたします。
んでは、さっそく南波先生、お願いします。



先日ここに書いた
「皆さんのところにもメールが届くかもしれませんよ」
であるが、本来、このあとに
「驚かないでくださいね」と続いていた。
いや、けっこう驚かれるんじゃないだろうか。(笑)

そして、今回の追加分は、
ノリコさんからミーちゃんへのメッセージで始まる。
どうやら重要書類等の整理をされたらしく、
それらの新たな保管場所を示す文章だ。
これはまた重要なメッセージである。
『ミーちゃんの○○は△△の中』というような極秘事項が
サラリと書かれている。

その下には
『○月×日 今日はよいお天気なので
朝から庭いじりをしました。
8:30から1時間半もやっていて
これだけしか打てませんでした』との文章。
(だいたいこのような内容だったと思う。もう少し長いが)
そして、すぐ下にはまたノリコさんからのレス。
『そうはいっても、なかなか頑張ってます』
という内容の文章2、3行。

ミーちゃんの一生懸命さとノリコさんの母親への愛情が
文字一つ一つからあふれ出ている。
どちらの文章も、そのさり気なさがすごくいい感じ。
全文をそのままここでご紹介したいところだが、
残念、覚えきれなかった。

しかし、素晴らしい。
これは母と娘の交換日記だ。
クラリスワークスやキーボードに慣れるよう、
ちょっと自習しておいていただけたら、とは思っていた。
ところが、お二方は
すでにそんな期待を遙かに超えた空間に突入されていた。
車内を何やらいじっているうちに、
気づいてみたら軽井沢あたりまでドライブしてた。
そんな感じを受ける。

日々の記録として、自己表現の場として、
そしてコミュニケーションが生まれる休憩所として、
どんどん増殖してゆく1つのファイル。
いつか、このHP内に掲載していただきたいものだ。
そんな価値ある逸品。

この調子だと、インターネットをやるにしても、
あれよあれよという間に遙か彼方の波の上。
ブラウザの操作がどうのこうの、
そういう問題ではないのだ。
目の前に広がる新しいスペースに
飛び込めてしまう好奇心と勇気。
これさえあればどうにでもなる。
知識は経験の後からついてくる。

ミーちゃんファイルにひとしきり感激した後、
ミーちゃんから質問。
「全部確定してしまってから
文の途中の部分を変えたくなったらどうしたらいいの?」
そうか、まだご存じなかったのだ・・・。

それまでのレッスンで私がちょこちょこっと
やってみせたデモンストレーションから
一瞬で各作業の手順を悟るなんてできるわけがない。
初めての方にとっては手品みたいなものだ。
その種明かしがなされるのより以前に、
ミーちゃんはご自身で試行錯誤、
そして見栄えのする結果を出してらっしゃる。
しかし、その試行錯誤の最中は、
やはり多くのご苦労があったのだろう。

「修正するには、まずマウスでこれ(ポインタ)を
その部分の先頭に持っていってクリックします。
そして、ボタンを押したまま、横にずらしてゆきます。
直したい場所が選ばれたらそこでボタンを離します。
この、色の変わった部分がもし必要なければ
[delete]で消してしまえます」

「ああ、そうやって消せるのねぇ。
私なんて、消したり直したりしたい部分まで、
書き終わった文の最後からぜ〜んぶ[delete]で消してたの。
そしてまた新たに書き始めるんだから
時間ばっかりかかってしまって。
そんなのの繰り返しだから、や〜っとこれだけ」

そ、それは、かなりの重労働!
せっかくの創作意欲をへこませてしまうような作業だ。

たとえば10行に渡る文章が完成し、
充実感たっぷりで読み返す。
「あら〜〜っ、出だしの部分、間違ってしまったわぁ!」
想像してみただけでも気が重くなる。
今から文の先頭に向かって
削除してゆかねばならないとしたら・・・。

ミーちゃんにそんなご苦労をさせてしまったとは。
ずっと背後で見守らせていただきたかった。
私のエイリアスをiMacの傍ら、
つまり籐のゴミ箱の脇にでも置いてゆけばいいのだろうか。

そこで、私は提案をした。
当然、私のエイリアスのことではない。
フォントが「平成明朝」になっているようで、
文字がクネクネしている。
「ちょっとこの字体は見にくくありませんか?
変えられますけど」
ミーちゃん、画面を見渡して
「そうねえ。クネクネしてるわねぇ」
「じゃあ、こんなのはいかがですか?」
そう言ってちゃっかり「OSAKA」に変えてしまった。
すると
「あぁ、こっちの方がはっきりとしてて見やすいわね!」
でしょう?
Macにはやっぱり「OSAKA」が似合っていると思う。
そして、ミーちゃんにも似合っている。
文字がずいぶん若返った。

クラリスの初期設定も同様に変更。
何するにも、何かを変えたい場合には、
まずはその部分を選択する。
このことをちょっとしつこく強調しておいた。

ついでに、ミーちゃんの文章とノリコさんの文章を
一目で区別できるよう、ノリコさんの方の文字色を
変えてしまおうと計画、提案。

紺色っぽくしてみた。これで区別がつく。
少し後になってノリコさんがひょっこりとお顔を見せると、
「ノリコのは青くしておいたから、
今度からそうしてちょうだいね」
ミーちゃん、学んだことをさっそくノリコさんに伝授。

ノリコさんからの質問。
「文頭を1文字空けたいときはどうするの?」
「この長いスペースキーを押せば1つ空きます」
「それでいいの? やってみたけどできなかったのよ。
なんでかしら」
う〜ん、なんでかしら。
カーソルが別のところにいたとか?
「あと、文と文の間を1行空けたいときは?」
「カーソルをここに置いて、
この[return]を押すと1行下がります」
やっぱりカーソルが別のところにいたとか?
下げたい文の文末とか。

お2人ともいろいろと試して
ワープロに挑戦してくださっているようだ。
iMacをいじり回すたびに
「五里霧中」が「四里霧中」になり、
そのうちすぐに「一里霧中」くらいになるであろう。
そして霧もいつか晴れる。

さて、お待ちかね、ワープロ実習。
「え〜っと、今日は何か書こうかしら」
ミーちゃん、あたりを見回す。
「新聞の記事でも写そうかしら。
う〜ん、でも、新聞じゃあ文章がかたすぎるわね」
私もあたりを見回してみる。
するとミーちゃん、ひらめいた。
「あ、そう、そう!
昨日は巨人が勝ったのよね! それがいいわね」
キラキラと目を輝かせてキーボードに手を伸ばす。

しかし、その喜びも束の間。
何かに引っかかりを感じてらっしゃる表情。

「ところで、これは何なの? この棒みたいな恰好の」
「あ、これですか?
これで文字を入力する位置を決めるんですが」
クラリスのファイルを開いて以来
ずっと存在していたポインタだが、
改めて疑問に思われたようだ。
マウスを動かせば矢印が動くものだと
覚えてらっしゃるのだろう。
ところが、その矢印はどこかに消えてしまっている。

「よーくご覧になっていてくださいね」
私はその先割れ棒状ポインタを
ゆっくりとウィンドウの端に向かって持ってゆく。
棒はスクロールバーに触れたとたん、矢印に変身。
ミーちゃん「あっらぁ〜、不思議ねぇ!」
私は手品師にでもなったかのような気分だ。

「ポインタはそれが今いる場所によって
いろいろに変わるんです。
文字を入力する場所ではこういう棒状になってますけど、
デスクトップなどですと、矢印になっていろいろ選んだり
移動したりできるようになるんです。
自動的に変わっちゃうんですよ、ほら」
「まぁ〜・・・!」
お馴染み、感嘆のお声。

「では、そのポインタを書き始めたい場所にもってきて
クリックしてください。それを確認しないで
打ち始めてしまうと、あらぬ所に文字が
挿入されてしまうのでびっくりしちゃいます」
ミーちゃん、納得の表情。

「えーっと、『昨日』だから『き』、『き』・・・
あ、あった、あった。[k]と[I]・・・、
次は『の』、『の』・・・」

ローマ字なんてお手のもの。
頭の中でアルファベットの組み合わせは
ばっちりできている。
あとは、そのアルファベットを
キーボード上で見つけるだけだ。

思わず私が
「あ、そこにありますよ」などと指でもさそうものなら
「あ、教えないでっ」・・・ターゲットは自分で狙う!
かっこいい!
最高の生徒さんだ。先生は見守るだけでよし。
真剣な横顔、華麗に舞う指先。
そのうちすぐにキーボードをマスターされるであろう。

『昨日は巨人が大勝しました。』
入力、変換、大成功!

そして数分後、もう1つの文が仕上がった。

『誰かさんもきっと喜んでいることでしょう。』

さすが、ミーちゃん、思いつくこと、センスが違う。
「巨人が大好きなのよね、あの子」そう言って笑う。

「あの子」さま(笑)、巨人の大勝が続くといいですね。

このあたりでちょうど時間切れ。
しっかりとファイル保存。




どうもどうも、誰かさんです。
いえ、誰かさんこと、「あの子」です。
ありがとうございます。

加速感がたまりませんね。
読者も、お気付きのように、登場人物のなかに、
ノリコさんが見え隠れしていますね。
なんというか、その、かなりやっぱりゴーカイな印象ですが
これから、もっと露骨に見え隠れして、
なんかやらかしてくれそうな気もします。
こっちもたのしみになってきました。

(で、明日につづくわけだ)

1999-07-04-SUN

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