第8章 4度目のレッスンは、蒸し暑い午後だった(2)。
「鬼のいないまに洗濯」という言葉がありますが、
南波あっこ先生は鬼じゃないので、
いない間に何が起こっていても、おもしろがるばかり。
「あっこのいないまにiMac」というのが、
新鮮なプロブレムを生みだしてくれて、
かえって好都合のようです。
マックのあまりにも有名な「ゴミ箱」にも、
そんな弱点があったとはねぇ。
では、南波先生、苦闘をたのしんでくださいね。
「さっき、これ(iMac)いじってたんですけどね」
とノリコさん。
「……ゴミ箱のフタが開かなくて困ってたのよ」
「そ〜なのよぉ」他の方々、うなずく。
えっ?フタが開かない……?
「えーっと、フタは
ゴミ箱にモノが入っている時にしか開かないので
何も入っていなかったとか?」と私。
「いや、どうだかわからないんだけど、
とにかく開かなくて」
相当お困りだった様子。
ゴミ箱ごときにもてあそばれてしまうのでは、
さぞかし悔しい思いをされたであろう。
ここでようやく電源オン。
ほどなくデスクトップが現れる。
しかし、なんだかいつもと様子が違う。
「あの〜、これでもいいんですけど、
わざわざこのようなふうに?」
アイコンが小さいのだ。
もちろん、問題のゴミ箱も縮小サイズだ。
一辺が数ミリのアイコンたちが、
それも重なり合うように並んでいる。
何か意味があってのことに違いない。
「えっ? ああ、これね。ホント、小さいわねぇ。
どうしたのかしら。こうなっちゃったのよ」
ミーちゃん、ちょっとコギツネにでも
つままれているかのよう。
メニューバーの「表示」から「表示オプション」を選ぶ。
当然、そこの「アイコンの大きさ」は
小さい方が選ばれている。
「ここでこうやって大きさを変えられるのですが、
大きくしておいていいですか?」
「はい、もちろん。う〜ん、でも、こんなところ、
いじってなんかいないのよねぇ……」
iMacが夜な夜な自己操作でもしているというのだろうか。
「今日の気分は小アイコンだ」などと言いながら。(笑)
重なり合っているアイコンを整頓する。
すると、先ほどまでは小さくてあまり目立たなかった
フォルダが目に飛び込む。
読者の皆様ならたぶん想像がつくであろう。
何を隠そう、お馴染み「新規フォルダ」だ。
律儀に3つ存在している。
「これは空っぽですか?」一応尋ねてみる。
必要なものかもしれない。
「あぁ、これねー。
またこんなのが出てきちゃって、困ってたんですよ」
私はミーちゃんの次の台詞を心の中で咄嗟に予想。
そして見事的中。
「・・・いつまでたっても消えてくれなくて」
ミーちゃんの声と私の心の声が重なった。
おっと、予想が当たってのんきに笑ってる場合ではない。
レスキュー隊出動だ。
「こちらでアクション起こさないと
消えてくれないんですよ」と私。
「そうよ、ミーちゃん、ゴミ箱に捨てなくちゃ」
どなたかの声。
「ああ、そうなの?
やだわぁ、毎回一からの繰り返しだわ〜(笑)」
これは、ちょうどいい。
「フタ開かず疑惑」が持ち上がっている、
問題のゴミ箱への移動になる。
「じゃ、よーくご覧くださいね。
この要らない『新規フォルダ』をゴミ箱に入れます。
今、フタは閉まってますよねぇ。それが・・・」
スポン! めでたくフタが開く。
そうだ、開くではないか。普通、開く。
「あらーっ? なんで〜?
さっきやったときは開かなかったのよ、ねぇ!」
ノリコさんやジュンコさん、
それにユキエさんも、びっくり。
「中身を出すとまた閉まりますよ、フタ。・・・ほら」
何度か繰り返してお見せする。
納得いただけるまでゴミ箱と戯れる覚悟。
ノリコさん、突然、トリックを見破った
手品ショーの観客のように
「はは〜ん。わかった」
何がどうわかったのか、さっぱりつかめぬ「エセ手品師」。
「フタが開くのはゴミ箱にモノが入った後なのね」
とノリコさん。
「あ、そうです。フタが開いてるのは
ゴミが入っているということを示すもので・・・」
「な〜んだぁ、そうなの〜?
ゴミをゴミ箱に持っていくと
フタが開くのかと思ってたのよ」
「え? フタなら開きますけど」
「違うのよ。
日常生活でね、フタが開いてないゴミ箱になんて
モノを捨てられないでしょう?
だから、捨てたいモノを持ってきて
ゴミ箱に重ねたところで、ずーっと待ってたのよ、
マウスのボタン押したまま。フタが開くまで!」
「そうそう。いつになっても開いてくれないわねーって。
これじゃゴミ捨てられないわねーって。
そういうのじゃないのね(爆笑)」
な・る・ほ・どー。
やっと「フタが開かない」の意味がわかった。
マウスのボタンを離して
初めてフタが開く構造になっているのをよく
理解されていなかったわけだ。
それまでゴミ箱について
特にそのような疑問は出ていなかった。
たぶん、捨てる際に、すでにたまたま
ゴミ箱のフタが開いていた、
つまりもう別のゴミが入っていた状態であったから、
問題意識を持つこともなく、捨てられたかもしれない。
「たとえば、ハードディスクは押し入れ、
メモリというのは作業台の大きさだと思ってください。
Macは、実際の生活等に照らし合わせてみれば
納得ゆくようなコンセプトで作られていますから
難しくないですよ」
私がよくそんなふうに説明していたからであろう。
しかし、日常生活の中で、フタの閉じているゴミ箱に
どうやってゴミを捨てられようか。
さすが、女性、気付くところが違う。
私も女性だが、気付かなかった。
かなり大雑把な人間だからだろうか。
「ゴミを運んできたら自動でフタが開くように
変えてもらいましょうよ、アップルさんに。
現実に沿ってもらわないと、ねぇ。
ほら、足で押すとポンとフタが開くような、
ああいうゴミ箱でもいいじゃない?」
フタを開けて「さあ、どうぞお捨てください」と
待ちかまえるゴミ箱。
ご主人様に忠誠を誓ったゴミ箱。ちょっと笑える。
女性軍、笑いながらも、
ひとつ革命でも起こすかのような勢い。
ゴミ問題・・・やはり、なかなか、深い。
「ゴミの種類によって分別しなくてもいいの?」
なんて質問も出るかもしれない。
ここはひとつ気持ちを引き締めてゆこう。(笑)
ミーちゃんの登場が少なくなってしまったが、ご安心を。
ちゃんとそこにいらっしゃる。
一つ一つに笑ったり、驚いたり。
ただ、ミーちゃんはゴミ箱のフタ以前に
「要らないファイルやフォルダが消えてくれない」悩みが
解決されたことでご満足だったのかもしれない。
「フタなんかどうでもいいのよ。消えてくれさえすれば」
なんて?(笑)
今日は、ちょっと長めにお届けしましたが、
おもしろかったでしょう?
誰が作ったか、ぼくは知りませんが、
ゴミ箱の作者に教えてあげたら、よろこびそうですねぇ。
バージョンアップさせちゃったりしてね。
(さらに、明日につづくんですよ、これが)
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