伊藤まさこさんと高知を訪ねました。
一泊二日の小さな旅のなかで、
いくつかあった目的のひとつが、
セブンデイズホテルのオーナーである
川上絹子さんのお話を聞くことでした。
セブンデイズホテルは、
料金でいえば、エコノミーホテルとか、
バジェットホテルと呼ばれる価格帯の、
いわゆるビジネスホテルなのですけれど、
なんとも気持ちの良い空気に満ちているんです。
部屋も、コンパクトで、居心地がいい。
国内誌で「世界100選」のホテルに
ビジネスホテルとしては唯一、
選ばれたこともあるほど!
その秘密は、インテリア? スタッフ?
高知という土地柄?
それとも、川上さん自身にあるのかな?
伊藤まさこさんによるインタビューは、
アートのある空間のことからはじまり、
調度品のこと、経営のこと、住まいのこと、
川上さんのこと、これからのホテルの姿へとすすみます。
全7回、おたのしみください。
(写真=有賀 傑)
川上絹子さんのプロフィール
川上絹子
高知市・セブンデイズホテル/
セブンデイズホテルプラス オーナー。
創業50年のガソリンスタンドから
ホテル業へ転身。
創業時から、これまでのビジネスホテルの
「定番」的なあり方を改革、
快適なしつらい、アートのある空間づくり、
あたたかくフレンドリーなサービス、たのしい朝食と、
「まるで自分の部屋のように」くつろげるムードで
人気となっている。
その4ホテルはわが家。
- 伊藤
- 川上さんは、ホテルをつくろうって、
そもそも、どうして考えたんですか?
- 川上
- ホテルをつくりたいから
つくったんじゃないんですよ。
20年ほど前、
家業のガソリンスタンドが斜陽産業になったので、
次の世代に受け継ぐために、
何かしないといけないというところからです。
この場所を持っていたので、
どうしようかと考えていたら、
「ビジネスホテルはいかがですか」という話があって。
その頃は高知市内に
ビジネスホテルが少なかったので、
「そうですね」と(笑)。
- 伊藤
- でも、いわゆるビジネスホテルをつくるのではなく?
- 川上
- 最初はね、商売だから、
普通のビジネスホテルをするんだと思っていたんです。
すごく大変な仕事かもしれないけど、
大変って考えちゃうと怖くてできないので、
自分が家にお客さんを招くときにすることと同じだと
考えるようにしたんです。
つまり、お掃除したり、絵を飾ったり、
花を飾ったり、お茶を出したり、
そういうことですよね。
そのぐらいの気持ちでやらないと、
恐怖のほうがね先に立っちゃって。
だから、商売をするのだけれど、まずは
「思い切り自分の好きなことしてみよう」と。
でもね、こんなこと言うと笑われるかもしれませんけど、
ほんとうに大変な仕事ですからね。
24時間、365日。
もちろん、どの業界でも大変だと思うんですけど。
- 伊藤
- 最初は、ボールペン1本も、
全部、川上さんが選ばれたと聞きました。
- 川上
- そうですね。ボールペン1本、
スプーン1本まで、最初は徹底していました。
柳宗理さんのプロダクトが好きだったので、
カトラリーをすべて柳さんで揃えたんですけれど、
‥‥あっという間になくなるんです(笑)。
- 伊藤
- 残念。
- 川上
- で、次はイタリアのグッチーニの
プラスチックのカトラリー。
これはね。日本中からかき集めたぐらい
買ったと思うんですけど、
やっぱり、全部なくなりました。
- 伊藤
- なくなっちゃうんですね。
- 川上
- そう、なくなっちゃう。
だから、それは、しかたがない、諦めようと。
今は、普通になっていますね。
これが宿泊料金5万円のホテルだったら
徹底することもできるでしょうけれど、
1泊5400円からですから、さすがに頑張れないんです。
最初は、「玄関にコルビジェの
LC2(ソファ)を置こう」とか、考えましたよ。
- 伊藤
- ホテルをつくるというのは、
きっと、おそろしくこまかいことの積み重ねですよね。
川上さんが実際に
図面を引かれるわけじゃないでしょうけれど。
- 川上
- ええ、図面を引くわけではないです。
高知在住の建築家の方と、
インテリアデザイナーの方と協力して。
- 伊藤
- 川上さんの思いをちゃんと
形にしてくれる方がいらっしゃる。
- 川上
- そうなんです。私はもう頭の中だけ。
その方たちのアイデアもあって、
3人で意気投合して、
「いいよね、これいいよね!」って
楽しく計画を進めました。
- 伊藤
- きっと、予算と、夢と、現実の
折り合いをつけないといけないですよね。
- 川上
- 予算は予算で頭の隅に置いて、
でも、普通のホテルだったらここに予算をかける、
ということを、全部取っ払いました。
- 伊藤
- 例えばそれはどういうところですか。
- 川上
- 業務用の什器や家具って、ものすごく高いんです。
不特定多数のひとが使っても壊れないふうに
丈夫に作っているし、量産はしていないでしょうし、
業界自体が小さいゆえ、割高なんですね。
- 伊藤
- 業務用ならではの特性、いいところがある分、
高価なんですね。
- 川上
- でも私は、業務用であることは優先しませんでした。
予算の中で、
「こっちのほうがカッコいいんじゃない?」
って思えば、家庭用の家具でも、
それを選びました。
「こういう場所で使ったら、壊れますよ」
みたいに言われたけれど。
たしかに、そのとき選んだイタリア家具の
樹脂製の椅子は、
どんどん折れていっちゃった。
- 伊藤
- 家庭に比べて、激しく使いますものね。
日にも当たるでしょうし。
- 川上
- そこで2年前に今の白い椅子に変えたんですけど、
気に入ったものを探したら、
こんどは、業務用より高かったりして!
それでも、「だって素敵じゃない?」
「これカッコいいよね」というほうを選びました。
私の基準、全部、そうなんです。
- 伊藤
- そうなんですよね、
もちろん長く持つのも大切なんですけど、
使っていて気分がいいものが、いいんですよね。
- 川上
- 客室のデスクの照明も、
最初は、ドイツ製のスタンドライトだったんです。
とても好きなデザインで。
ところがこれが、ハロゲン電球ゆえに、
すごく熱くなるものだから、
お客様の迷惑になるかもしれないということで、
数年前に取り換えました。
いまは、LED電球のペンダントライトになっています。
- 伊藤
- ホテルをオープンして日数が経つうちに、
やっぱりこうだった、ああだったということが
出てきたんですね。
それでも「嫌じゃない」ものを選んでいらっしゃるのは、
すごいことだと思います。
(つづきます)
2019-08-12-MON