伊藤まさこさんと高知を訪ねました。
一泊二日の小さな旅のなかで、
いくつかあった目的のひとつが、
セブンデイズホテルのオーナーである
川上絹子さんのお話を聞くことでした。
セブンデイズホテルは、
料金でいえば、エコノミーホテルとか、
バジェットホテルと呼ばれる価格帯の、
いわゆるビジネスホテルなのですけれど、
なんとも気持ちの良い空気に満ちているんです。
部屋も、コンパクトで、居心地がいい。
国内誌で「世界100選」のホテルに
ビジネスホテルとしては唯一、
選ばれたこともあるほど!
その秘密は、インテリア? スタッフ?
高知という土地柄?
それとも、川上さん自身にあるのかな?
伊藤まさこさんによるインタビューは、
アートのある空間のことからはじまり、
調度品のこと、経営のこと、住まいのこと、
川上さんのこと、これからのホテルの姿へとすすみます。
全7回、おたのしみください。
(写真=有賀 傑)
川上絹子さんのプロフィール
川上絹子
高知市・セブンデイズホテル/
セブンデイズホテルプラス オーナー。
創業50年のガソリンスタンドから
ホテル業へ転身。
創業時から、これまでのビジネスホテルの
「定番」的なあり方を改革、
快適なしつらい、アートのある空間づくり、
あたたかくフレンドリーなサービス、たのしい朝食と、
「まるで自分の部屋のように」くつろげるムードで
人気となっている。
その5きれいに保つ。
- 川上
- 続けてきたからこそ、わかることもありますよ。
たとえば、ロビーの柱の角に、
プラスチックの丸いスツールを置いているのは、
柱や壁を守るためなんです。
フロントと玄関をつなぐ動線上にあるので、
トランクなどがぶつかって、
柱や壁が少しずつ壊れるんですね。
それを防ぐ目的で。
- 伊藤
- あ、なるほど! なんでかなあと思っていました。
ああいうところはどうしてもひっかけたり、
子どもが遊んだりしてしまいますものね。
- 川上
- はい。仕方なく始めたことだけれど、
違和感がないし、そのうち、
「なんかかわいいんじゃない?」となりました。
子どもとか、ちょっとお話ししてる人が
座ってたりするようになって、いい雰囲気で、
「いいんじゃない? こんなのも」みたいな(笑)。
壁や柱も、塗り替えが必要になるでしょう。
そういう時は
「真っ白は飽きちゃったから、
ちょっと変えよう」とか、考えます。
- 伊藤
- なるほど! それであのきれいなピンクが?
私、あのピンクの手前に穏やかな白い椅子があって、
いい風景だなと思って、さっき写真を撮りました。
- 川上
- あれは、コルビュジエ・カラーなんですよ。
- 伊藤
- 建築家のル・コルビュジエがつくった
カラーパレットに忠実な色ということですか?
すごい!
- 川上
- そうそう、もう全部(笑)。
そういうことが生活にすごく大事だと
思っているんです。
- 伊藤
- 私は白が好きで、「weeksdays」の前身で
「白いお店」というものがあったんです。
いろんな白を集めて紹介をしていたんですが、
キッチンリネンでもタオルでも、
「白、汚れませんか」って声が上がる。
けれども、「だからいいんですよ。
いつも、きれいにするでしょう?」って。
- 川上
- 同じですよね。この床もです。
ライムストーン(天然石)なんですが、
貼るとき、散々、施工業者から
「絶対汚れる、すごく汚れる」、
白い塗り壁も「すぐ汚れますよ!」って。
だから、伊藤さんと同じように言うんです。
「だからいいのよ。
いつも、きれいにするじゃない」って。
- 伊藤
- 確かにこの頃、ホテルは
ダークブラウンなど、
濃い色のインテリアが多いですよね。
- 川上
- そうですね、汚れにくいので。
- 伊藤
- そういえば、ゴミ箱を探していたら、
模様のついたものが多いなあと思ったことがあって。
汚れがついてもわかりにくいように、
そうしているんですって。
だからこそ、白がいいのに。
そういえば、私にとっては日常なのに、
人に言うと驚かれることがあるのが、
ゴミ箱を毎日拭くことと、
五徳を毎日洗うことなんですけれど。
- 川上
- 素晴らしい。そういうところは、
私も伊藤さんの本を読ませていただいて、
「うんうん」って同意していますよ。
とってもよくわかります。
- 伊藤
- ありがとうございます。光栄です。
- 川上
- 汚れたら、きれいにすればいい。
ホテルはまさしくその考え方です。
- 伊藤
- ここは川上さんにとっては仕事場ですが、
だからといって、家と変わらない感じでしょうか。
- 川上
- そうです、全然変わらないです。
- 伊藤
- おうちだと思ってつくっているんですね。
- 川上
- 住んでいる家も、ここの延長線みたいな感じですよ。
ただ、今は、みんなが使う部屋を、
ちょっとストイックにしすぎているかも。
床を麻のカーペットにしたんですね。
私は、素足でいると非常に気持ちいいと思うんですが、
濡れるとしみになるし、
2歳と4歳の孫には、痛いって不評で!
- 伊藤
- 転んだら痛そう(笑)。
- 川上
- 私はその緊張感が好きなんだけれど(笑)。
- 伊藤
- お家の中、ぜんぶ、そんなふうに緊張感が?
- 川上
- いえいえ! 本当は自堕落に暮らしたいですよ。
でもそれは自分の部屋だけにしましょう、って。
自堕落は自分の部屋だけ。
夫婦別室にしているので、自分の部屋はもう本当に、
なんでもかんでもかごに入れっぱなしなんです。
入れちゃえば見えないぞって(笑)。
家族も、それぞれの個室では、自由。
お互い、そこには触れないようにしています。
- 伊藤
- それは新しい暮らしの形かもしれない。
夫婦だからって必ず一緒にいなくてもいいと思います。
私の友人にも、結婚してから30年、
ずっと寝室は別っていう夫婦がいて、
それぞれ、自分の好きなようにしていますよ。
- 川上
- それが長持ちする秘訣だと思ってます(笑)。
- 伊藤
- 自分の時間は大切ですもんね。
- 川上
- 大切です。夜中に本が読みたくなって、
電気をつけるのも自由だし、
ラジオを聞くこともできるし。
この年齢だから、自分の時間というものは大切。
- 伊藤
- 私も、娘と暮らしているんですが、
リビングに私物は持ち込まないことにしています。
- 川上
- そう、同じ。
- 伊藤
- 撮影をすることもあるし、
打ち合わせで人も来るという理由もあるんですが、
私の性格もあるんでしょうね。
実家も、いつ誰を呼んでも大丈夫なように、
ピシッとしていたので、
それが気持ちいいということが染みついている。
- 川上
- そう。結局、
いつも片づけておいたほうが、楽ですよね。
お掃除も全然楽だし、
食後、テーブルだけ拭いておけばいいくらいで。
- 伊藤
- そうなんです。
(つづきます)
2019-08-13-TUE