悪夢の頻度。
「ねむり」についてのエッセイを、
3人のかたに執筆いただきました。
きょうは、マンガ家の今日マチ子さんです。
きょう・まちこ
漫画家。
1P漫画ブログ「今日マチ子のセンネン画報」の
書籍化が話題に。
4度文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。
戦争を描いた『cocoon』は
「マームとジプシー」によって舞台化。
2005年に「ほぼ日マンガ大賞」入選、
2014年に手塚治虫文化賞新生賞、
2015年に日本漫画家協会賞大賞カーツーン部門を受賞。
短編アニメ化された『みつあみの神様』は
海外で23部門賞受賞。
近著に『センネン画報 +10years』
『もものききかじり』『ときめきさがし』等。
■今日マチ子さんが登場している「ほぼ日」のコンテンツ
描きたい絵がある。
今日マチ子の稽古場日記
旅館やホテルに宿泊して、自宅に戻ってくると、
生活感に圧倒される。
がっくりくるというより、
ここに人が住んでいます! と主張する
空気の濃さに完敗する感じ。
整頓魔ではないものの、親しい人が訪ねてきて
OKな程度には片付けているのに。
とくに、寝室に入るとどこかに
自分の分身が潜んでいるんじゃないかと思うくらいだ。
換気、掃除をし、
空気清浄機がまわっていても逃れられない。
よほど神経質なのかと思われそうだけど、そうではない。
こと睡眠に関しては、無頓着だ。
基本的に、どこでも寝ようと思えば寝てしまう。
睡眠環境についても、
枕が変わって寝られなかったという話をきけば、
「じゃあ枕を外して寝ればいいじゃない」
とギロチンにかけられそうな返事をしてしまう性質である。
仕事が立て込んでくると机の上で、
さらには机の下の床で寝ていることも多い。
こんなことを言うと優しい方からは心配されるが、
基本的にはベッドの上で寝ているので安心してほしい。
ただ、夢をみることはあまりない。
みても悪夢しかない。
悪夢は、自分のなかで力を入れている作品に
取り組んでいるときに多い。
みている間は辛いけれど、
「手応えあり」のサインなのだ。
悪夢は吉兆である。
とはいえ、そんな状態が続くと寝た気はしない。
さて、唐突だが、私は長年修道女に憧れている。
現世のしがらみがあるので現実では無理なのだけど、
睡眠環境だけでも真似したいと思って修行している。
写真集で見た小さな女子修道院の、
いかにも体が痛くなりそうな
木のベッド(マットレスなし)に寝られるようになりたい。
そう思ってここ数年は床に
5センチ程度の薄いマットをひいて、
手製のシーツをかぶせ、
その上に寝るという睡眠修行をしている。
すると、修道女に近づけたのかはわからないが、
悪夢を見る回数が減ったのだ。
不思議に思って、もとのベッドで寝てみると悪夢をみる。
寝心地はベッドの方がいいに決まっているのになぜ‥‥。
非理系人間である私は、
悪夢の頻度は体の下にあるマットレスの厚みに関係すると
仮説を立てた。
ベッドの、持ち上げられないほど重く
分厚いマットレスには、
いままでみてきた悪夢が貯め込まれているのだ。
反対に、ペラペラのマットは起床後は立てかけて
乾燥させてしまうので、悪夢が貯まる余地がないのだろう。
いまはこのふたつの睡眠環境を使い分けている。
夜寝るときは修道女をめざしてペラペラのマットで休み、
昼寝と病気のときはベッド。
悪夢をマットレス型の貯蔵庫から引き出すたびに、
さあ今回も腕を振るうぞと元気に
(他人からみるとげっそりして)目覚めるのである。