20代のころ、伊藤まさこさんは
原宿の「プロペラ」というメンズウェアのお店で、
店員時代の山下裕文さんに会っているそうです。
とってもスタイリッシュで
自分の確固としたスタイルをもっていた山下さんのことが
とても印象的だったと。
(ちょっと、怖かったそうですよ!)

25年を経て、伊藤さんはスタイリストに、
山下さんはMOJITO(モヒート)という
ブランドを立ち上げ、経営者兼デザイナーに。
再会してすぐにMOJITOのアイテムを見て、
着てみた伊藤さんは
「これは、女のひとが着てもかっこいい!」と、
ぜひ「weeksdays」にとお誘いしたのでした。

メンズのまま? そうなのです。
だってMOJITOはメンズウェアブランド。
でも、女性が着てもすてきなアイテムが、
たくさんあったのです。

まじめに話すのは初めてかも、
というふたりの会話、3回にわけてお届けします。

山下裕文さんのプロフィール。

山下裕文 やました・ひろふみ

1968年熊本生まれ。服飾専門学校を卒業後、
スタイリストのアシスタントを経て
原宿「PROPELLER」でバイヤー、プレスなどを担当。
米国ブランドの日本初上陸のさい、
ショップのジェネラルマネジャーに。
独立してからは、英国系ブランドやアウトドアメーカーまで
さまざまなアパレルブランドの
コンサルティングを担当したのち、
2010年に、作家・ヘミングウェイの世界観を
ひとつの哲学としてデザインにおとしこんだ
メンズウェアブランド「MOJITO」を立ち上げる。

その3
ひとりで仕事をするということ。

伊藤
山下さんは、独立なさってから
ずっと1人でお仕事をなさっていますよね。
山下
もちろん、洋服を作るには何人かの協力が必要で、
僕が縫うわけでもないですし、
パターンは別の人もいるんだけれど、
基本的には全部1人でやります。
伊藤
そうですよね。それって、なぜですか?
人に頼むより自分でやったほうが早いから?
山下
何でだろうな。別にまだ1人で全然できるからかな。
伊藤
私もよく「アシスタントさん、いないんですか?」
「マネージャーさん、いないんですか?」
って言われるんだけど、結局、頼む仕事がない。
「じゃ、白いテーブルクロス借りてきてください」
と言っても‥‥。
山下
白もいろいろあるものね。
伊藤
そう! 素材感って自分で見なきゃ分からないし、
だから頼むことがないんです。
原稿なんてとても「お願い」と言えないし、
食材もそう。にんじんひとつとっても、
ちょっと葉っぱが付いているものを
自分だったら買うかもしれないけど、
その人は気にもとめないかもしれないし。
わたしはそういうことで頼めないっていうのがあります。
山下さんもきっとそうなのかなって、
仕事ぶりを見ていて思いました。
山下
そうそう、そうです。
──
伊藤さんがスタイリングっていう世界で
1人でやっているのは分かるんですが、
山下さんはむしろ会社を大きくするとか、
もう1人すごい相棒がいたら、
たとえば信用できる営業がいたら、
自分はデザインに専念して、
業績を何倍にもすることを目指す、
という考え方もあるように思うんですが。
山下
あるんです。1人増えると、3倍4倍になるんです。
でも、やろうとすることがだんだん薄くなるし、
「僕から買いたい」って言ってくれるお客さんを
無下にすることになる。
もちろんそれを超えなければ大きくならないですし、
超えないうちはまだまだ小さい。
僕らの仕事って、同じ服を1万枚つくるのも
10枚つくるのも、やることは同じなんですね。
発注するゼロの数が違うだけ。
でも、まだ、自分ひとりでやれることのなかにある、
大事にしたいことが、あるんです。
伊藤
先日「ほぼ日」のみんなと展示会にお邪魔して、
試着をしていたら、山下さんのコーディネートが
ほんとうに的確で。
「あなたは、青じゃなく、黒です」
みたいなことは、山下さんじゃないと
できないなって思いました。
──
山下さんから買いたいっていうお客さまは、
その体験込みで買いたいんですね。
そのためには、MOJITOをこのサイズで
続けていきたいというのが、理解できます。
山下
よく言うんですけど、
店主の顔とか趣味が見えないお店って売れないんです。
ファストファッションは別として、
個店で、たとえばここのオーナーは
肉が好きかな、魚が好きかなとか、
山が好きかな、海が好きかなっていうのが、
明確に分かるお店って、売れているし、
長く続くんです。
伊藤
何がしたいのか分からないお店って、ありますもんね。
山下
そうです。ちょっと前まで、
焼き肉屋でジャズがかかってればカッコいいって
みんな思ってたんです。
でもそうじゃないだろうっていうのが、
だんだん分かってきたんですよね。
それと同じようなことです。
だから、今はMOJITOをやり続けたい。
自分が着たいものを、
嘘なく作れるかぎりは、ずっとやりたいなと。
お客さんが増えてくると、
お客さんが喜ぶものを作ろうとするんですよ。
伊藤
ああ、こうしたら売れるかな、とか。
山下
そうそう。そっちが、自分の着たいものを超えるとき、
ブランドが全国区になって、
いろいろできるようになるんだけれど、
自分はそうじゃなくていいかなあと。
伊藤
それこそ、ブレる、っていうことですよね。
人の意見が介在するから。
山下さんはブレていないですよ。
山下
売れるか売れないかっていうのは、
結局買うか買わないかだから、
それはお客さんが決めることだし、
売ろう売ろうとしてマーケットに媚びてるものって、
見ても何も伝わってこない。
「買いやすいだろう」とか「着やすいだろう」とか
「今のトレンドがこんな感じ」とか、
なんかそういうものって、
僕がやるべき仕事ではないんです。
伊藤
他に、いっぱいありますからね。
山下さんのような人と一緒に仕事をすると、
「この人と組もう」ということにおいて、
「weeksdays」チームもブレたら
いけないことなんです。
山下さん、まずはショートパンツだけれど、
この先も、いっしょにいろいろと
考えていってくださいね。
山下さんのつくるコートや
ニットにも興味があるんです。
女子が着たらきっとかわいいだろうなと
思うアイテムが、たくさんありました。
山下
光栄です、こちらこそよろしくお願いします。
【男性ならこんなコーディネートで。3】
もともとはフランス海軍のユニフォームだった
横縞のシャツ。
それをMOJITO流の解釈をして、
従来の余白部分にあえて横縞を入れたモックネックに、
ガルフストリームショーツを合わせた
ミニマルなコーディネートです。
靴をブラックのプレーントゥにすることにより
カジュアルになり過ぎない雰囲気にまとめています。
トップスのカットソーをタックインすることで
ガルフストリームショーツの
ディテールポイントである
ウエストベルトを目立たせます。
(山下裕文)
(終わります)
2018-07-31-TUE